西澤保彦 謎亭論処(めいていろんど) 匠千暁の事件簿

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あらすじ

  • 盗まれる答案用紙の問題

教員室に忘れ物の裏ビデオを忘れてきたボアン先輩こと辺見祐輔。取りに戻ったのだが、遅くまで頑張って採点したはずのテストの用紙が見つからない。ガビーン、やばいやばすぎる。先ほど戻ったときにいた尼岸須美子は封筒に何か入った物を持って帰っていた。怪しい。時間も遅いが残っているのはコピーを取っているらしい野島淳だけだ。
無い物はしょうがない。どんな罰が下されるか知らないが、明日まで待つしか他ない。ということで帰ることにしたボアン先輩だったが、乗り置いてきた車が影も形もないのだ。鍵を付けっぱなしにした本人が悪いのだが、一分やそこらで戻ってくる気だったのだから最早何も言うべき事はない。
プリプリしながらタクシーで帰宅したボアン先輩を待っていたのは消え去ったはずの車だった・・・。

  • 見知らぬ督促状の問題

いつものメンバーに相談に来た安槻大のミス・キャンパスである広末倫美。なんでも彼女の住むマンション"MMハイム"に家賃滞納の督促状がやって来ているのだという。マンションの家賃を勿論滞納しているはずはなく、しかも差出人の名前がおかしいらしい。マンションの持ち主は市会議員の松岡氏であるのだが、管理自体は松岡氏の妻がやっている管理事務所のアーバンメイク名義でいつも届くらしい。倫美が調べてみたところでは安槻大に通っている女性がマンションには五名居るらしいのだが、その五名にだけこの督促状が届いたのだという。

  • 消えた上履きの問題

辺見祐輔が高1Aクラスの授業に赴くと二つの異変に気がついた。一つは浜田智佐がまた欠席していること。この生徒は大変な臍曲がりかつニヒリストなトラブルメーカーなのだ。また自分で種をまいて虐められているのかもしれない。もう一つはクラスの全員の履いている物が上履きでなく運動靴だったり革靴だったりばらばらだったこと。なんでもひとクラス分全部の上履きが盗まれたらしい。もう一つ異変があったのだがこれは異変と呼ぶには少し違うかもしれない。何しろ補習を口に出した途端クラス一丸ピタリと口を閉ざして授業の進行を促したのだ。
その謎が解けたのは昼休みのことである。なんでも有名バンドのライブが今日はあるらしい。だからなんとしてでも補習なんてあってはいけないのだ。
その翌日、1Aの上履きが見つかったことが警察の連絡で判明した。入れ物はチューバのケースだったそうだ。チューバ自体も学校の持ち物なのだが、吹奏楽部の片岡ちずる宛てに顧問から電話がかかってきて「古いチューバを処分する」という話になっていたらしい。だが、この顧問は電話をしていないし、チューバを引き取るという手はずになっていた楽器店店員自体も怪しいのだという。

  • 呼び出された婚約者の問題

平塚総一郎と結婚した旧姓羽迫由起子ことウサコは夫の話す仕事の話が大好きである。これはウサコ自身が現在大学院の心理学科に籍を置いているということと無関係では決してない。その話はこんな風だった。
郷里の安槻で親がやっている開業医院を継ごうとする医者とそのフィアンセがいた。二人は結婚することとなっていたが、フィアンセが突如としてそれを少し引き延ばして欲しいと言い出したのだ。フィアンセの方はフリーライターとして頑張ってみたいのだという。しかし、そんな話をさせられても医者の方は納得がいかない。結果二人は別れることとなった。そして二年後、新たに結婚の相手を見つけた医者の元へかつてのフィアンセから連絡があった。なんでもフィアンセを連れてきて一緒に会って欲しいという。一方的に婚約破棄に至った状況から腹を立てていた医者であったが現在のフィアンセをなんとか説得して元フィアンセと会うこととなった。場所は相手側から指定されたレストランである。が、医者とそのフィアンセは午後三時から七時まで待ちぼうけを食わされることとなる。元フィアンセは現れなかったのだ。
一方もとフィアンセは無理心中のような形で死んでいた。車にホースを引き込み死んでいたのだ。一緒にいた男は頭部に殴打された痕があり、元フィアンセの側は睡眠薬を服用した様だった。後部座席にあったビール瓶から類推するに男を殴った後でビールに睡眠薬を入れて元フィアンセが呷ったようだ。
しかし、調べてみても元フィアンセは東京から安槻に来るまで同行すると医者に暗示していた男性は見つからないし、無理心中を企てた相手ですらどうやら初対面のようで繋がりが全く見つからないのだという。

  • 懲りない無礼者の問題

ちんぴら風の男が安槻で目撃される。なんでも誰に言うともなく場所柄をわきまえずに安槻を口汚く罵っているのだという。旅行風で安っぽい女を連れていたという。
これだけならば関わりにならない方が佳いレベルの話であるのだが、辺見の同僚である我孫子鈴江の口から飛び出した言葉はちょっと突飛に過ぎた。
「――その男、殺人犯じゃないかな」
それだけじゃわからないわけだが、同じく同僚である田之内義徳の息子が同じようなアベックに殺されたのである。正確に言うならば大学に願書を出してきた田之内の息子が口汚く何か言っている男に絡んだわけだ。そしてボコボコにやられ、数日後に死亡したという次第であるのでやった側は知らないはずである。ただし、この事件自体は数年前のことである。
そして田之内が捕まってしまう。事件の重要参考人ということであった。繁華街であのちんぴらカップルが逆にボコボコにやられ、男は死亡女は虫の息で発見されたというのだ。確かに田之内にはその動機はあるといえるのだが・・・。

  • 閉じこめられる容疑者の問題

とあるカップルが居酒屋で暇つぶしにパズル的問題に取り組んでいる。それに遭遇したタカチはどうしても参加したくなってしまう。これも遅れてくるタックが悪いのだ。
その問題とはこういう内容である。妻の母と同居している夫婦が居る。元々夫は妻の母に婿養子にしないと結婚を認めないと言われたり、同居を迫られたりした過去があったりしてぎくしゃくしていた。
その夜夫婦が食べた食物には睡眠薬が入っていたらしい。ぐっすりと眠り、起きたところ妻の母が下着姿で倒れていた。それを見つけた娘が確認してみたところ頭部に傷があり既に息をしていなかった。そうして警察へ連絡を入れたわけだが一つ問題があった。家中戸締まりがしっかりしてあってドアですらチェーンがかけられていたのだ。しかも鍵はピッキングに弱いディスクシリンダー錠ではなくディンプルキー錠である。もしも犯人が居るのならばまだ家の中に潜んでいるはずなのだ。だが、警察は身長に調査をしたが犯人は発見できなかった。
捜査の途中で妻の母に男性の影があることも浮かび上がってきた。もしかすると薬を入れたのは妻の母で夜をその男性と過ごしていたのかもしれない。その男性は鍵を持っていたようであるが残念ながら二人が付き合っていたのは少し前のことらしく、本人が誰なのかははっきりしなかった。
ちなみにこの事件は実は現実のものなのだ。故に犯人がわかっているのだが・・・。

羽迫由起子が家庭教師をやっている塩見さぎりちゃんの元へ不幸の手紙がやってきた。変わっているのは封書で私製はがきが付属していること。これを使用して出せと言うことらしいのだが・・・。

  • 新・麦酒の家の問題

ボアン先輩はタックだけを巻き込んでとある計画を実行に移すつもりだったのだが、タカチに捕まってしまったおかげでいつもの四人でくだんの計画を実行に移すことにした。
その計画とはボアン先輩が付き合っていた女性の本宅へ出向くことである。ちゃっかり回りをごまかして付き合っていた女性が居たというのはみんな知らぬ事であるのでみんな驚いている。だがその女性はボアン先輩に隠していたことがあった。なんと既婚者だったのである。それを密告電話で知ったボアン先輩は女性と会うのをやめた。すると女性の側はストーカーのようにボアン先輩にまとわりついてくるようになり、次第に脅迫のような言葉を弄するようになった。つまりは夫にばらし、裁判沙汰にするぞ!ということらしい。丁度この侵入に先立ってその女性が旅行に言っている間が最終通牒猶予期間だからその間に決めろ、とボアン先輩に言ってきたらしい。そこでボアン先輩はストーカーされるならばこちらがやり返せばいいという理屈で侵入を企てたのであるが・・・。

感想

西澤保彦十二作目。今回はタックシリーズです。それにしても計画性が皆無ですよねぇ。角川、講談社幻冬舎祥伝社・・・ボヘミアンなのは作者なんじゃないですかねぇ。一応後ろから数えた方がいいような時系列に属することになってますが、相変わらずバラバラです。
なんか作者の本がしつこく感じるようになってきました。パズラー路線の端正さはまるで格式の高い料理のようで形式的なんですよね。気軽に読めるキャラクターメインの日常小説というよりもより好まれるであろう殺人を据えた事件群の方を重んじるようになってきたのでまるで世界は殺人狂の為にあるが如き雑多な状況になってきています。それにしても殺人事件が多すぎますよ。そしてそれに巻き込まれすぎです。そこが読者に対する色目のようでくどいんですよねぇ。でもミステリー作家にそういうことを言うのは問題外なんでしょうけど。もしかしたら私はミステリーというよりもコメディー路線を望んでいる一人なのかもしれません。テンション的に普通だと苦痛に感じたりするのもその関係なのかも。
今回判明したのはウサコが平塚総一郎と結婚したこと、タックとタカチは急接近しているけれど結婚まで至っていないこと。相変わらずタックはやるべき事が見つからずフラフラしている模様。フリーターって探偵にはうってつけだけど収入安定しないから結婚相手には出来ないわなぁ。

  • 盗まれる答案用紙の問題

普通に有り得ない。筆跡鑑定というのは「その筆記用具をきちんとした使い方で用いた上で統計的に判断する」わけで無理がありすぎる。試しに釘か何かで金属を傷つけて書いた物のと鉛筆・シャーペン・ボールペンで書いた物、そして筆を用いて書いた物を比べて筆跡鑑定をしようとしてみると佳い。書道が上手くてもペンで書くという場合はそれに即するとは限らないのだ。書き順がはっきりわかるというならばまだしもそういうわけではあるまい。狂的な考えでなければ「筆跡鑑定のいろは」も知らない人物が判断しようというのはおこがましい以外のなにものでもない。空想で遊ぶレベルの話かと

  • 見知らぬ督促状の問題

私自身は学生・生徒という身分に対して人物に欲情するということがないのでイマイチ実感が湧かない。だが、世の中にはそれを有り難がる嗜好の人物が居るのもまた確かである。ちなみにここでは対象は二つに分かれると思う。フェティシズム傾向と一種のブランド志向である。フェティシズムの場合はそれに付帯する着衣物への傾倒が上げられると思う。一方ブランド志向というのは嗜好の系統が若さであるか、その身分・年齢に起因すると考えられる。しかしまぁ回りくどい話だなぁ。

  • 消えた上履きの問題

これも回りくどい話ですな。靴が問題になっている部分からして作者のフェティシズム傾向を考えないわけにはいきません。何故ならば作者は極度の足フェチだから。ま、余談ですけどね。
更には「人を困らせるために自殺する」人物なんてのは考えにくいです。というよりそこの肉付けを怠っているから解離してしまっています。「人を困らせるならば自分の命をも厭わない」なんてひねくれ者は決して存在しないわけではないわけです。リストカッターなんかは分かりやすいその代表例ですし(ちょっと違いますけどね)。
それにしてもライブをコンサートと書いてしまうあたりに寄る年波を感じますw。

  • 呼び出された婚約者の問題

奇想という面では面白味があるが、すっきりしないあたりが問題か。

  • 懲りない無礼者の問題

ちんぴら=強い訣ではないし、今時そんな奴は金も持っていません。流石地方ですね。そうやって被害妄想的に言葉をどなるのは精神的に危ない証拠でしょう。憂さ晴らしをしたい人物にやられてしまうってのはありがち。っていうかやられない方がおかしい。こういう人物は酒に逃げている奴とか電車内で喚いているホームレスにありがちですよねぇ。関わらないのが吉。無礼者というより精神障害者と捕えた方が正しいのでは。被害妄想の虜になっている人物を相手にするのははっきり言って骨です。誹謗中傷が真実と偽りどちらであろうと関係なくなってますし。
まぁ、やってる人物が女連れなのが全てをぶちこわしにしているような気もします。

  • 閉じこめられる容疑者の問題

不可能犯罪の密室をテーマにした唯一の話。落ち着くところにしか落ち着きませんよねぇ。

平凡かつ回りくどい。というより贅肉が多い気がする。

  • 新・麦酒の家の問題

ボアン先輩の思考回路が理解できません。ストーカーされるならばストーカー仕返す・・・なんの解決にもなって居ないじゃないかw。鍵が落ちていたら拾ってしまうとかもないよなぁ。ボアン先輩の行動が全てを台無しにしている気がする。

ミステリーなんて関係なくラブコメが読みたいです、はい。今回はタックというよりもボアン先輩が主人公かな。
60点
やっぱり安楽椅子探偵物は合わないなぁ・・・。やっぱり関係者が殺されなくちゃねぇ。苦い物が皆無なわけだしお気楽すぎるんだよねぇ。
蛇足:結局ウサコが一番人を見る目が合ったという訣かw。

参考リンク

謎亭論処―匠千暁の事件簿
西澤 保彦
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