西澤保彦 実況中死

ASIN:4061820281
ASIN:4062738910

あらすじ

岡本素子は夫の浮気現場を目撃して鬼気迫る表情で追跡をしていたところ、思いがけず災難に遭遇してしまった。なんと落雷に遭ってしまったのだ。素子の体を貫いた雷は幸い彼女を傷つけることは無かったが、彼女に一つの能力を残していった。
それをチョーモンイン的に言うのならばパスという物になる。
所謂テレパシーの一種なのだが、チョーモンインでは補導対象とはならない。一般的に認識されるテレパシーである「相手の思考を読む」という物は当然ながら補導対象である。二人の人物が確実に必要であるテレパシーを元にした精神同調によるコミュニケーションであれば、これは補導対象とはならない。素子が手に入れた能力であるパスは、所謂テレパシーとは異なり随分と限定的な能力なのだ。あくまで回線の開いた特定の誰か(専門用語で"ボディ"という)の状況を把握することしかできないし、任意でその回線を開くことが出来るわけではない。つまりは一方的に点灯するテレビを鑑賞させられている状況と言って佳いだろう。
彼女はこの能力が落雷に起因する物であることを早々に見抜いたが初めのうちは楽観的だった。彼女に伝えられる情報はあくまで視覚と音声に絞られており、ボディ側の音声はクリアではない物の好奇心を刺激するには十分だったからだ。元々落雷の原因となった夫の浮気については馬鹿馬鹿しくてもはやなんの感慨も湧いてこなかったので、精々この能力を楽しもうと思ったのだ。まぁ、最初に限ってはもしかしたら自分もボディ側から見られているのではないかという疑念もあったがそんなことを考えていても始まらないと結論づけた。
だが、そんな彼女の楽観を覆す出来事が起きる。彼女が繋がるボディの様子がおかしいのだ。ストーカー紛いの行為を続け、ついには殺人事件の目撃を素子は余儀なくされる。しかも対象はどうやら一人だけではないようだった。連続殺人事件へと発展しそうな状況をなんとか誰かに伝えなくてはならない。そうして彼女は筆を取った。マスコミ各社へと自身の能力と事件について書き、この先も事件が起きる可能性が高いからその阻止をマスコミの力で出来ないか?という様な内容だったのだが、案の定彼女の手紙は放置される。

そんなことは知らない作家の保科匡緒は担当の笹本と打ち合わせをしていた。新作の構想を練るためにやっていたのだ。実は彼の新作が新鋭の作家である女婦木(おとめぎ)ミラの小説とネタが被ってしまって泣く泣く没の憂き目をみたと言うことで仕切り直しの意味もある。偶に同種のネタが被るという事はミステリーの世界では往々にしてあることなので仕方ないが、女婦木の小説はあまりにも保科の小説と似通っていた。まるで盗作をしたかのように瓜二つだったのでこの場合仕方がないが、保科は久しぶりに一本新作書き下ろしを締め切り破り無しに成し遂げたというのに報われない状況であったのだ。
その席上でSFネタがらみのミステリも物にしている保科になら、と笹本は有る手紙のことを語った。テレパシーで殺人を目撃しているという女性の投書が知り合いのフリーライターの元に届いたのだそうだ。保科はその話に食いついて上手いこと手紙を回して貰うことに成功した。別に小説のネタに使おうという考えは有ったがそちらはあくまで補助的な考えであった。最近神麻嗣子と能解匡緒警部に会っていない保科は少し寂しかったのだ。もしも超能力がらみの犯罪ならばそのダシとして招聘できるのではないだろうか・・・。
保科は安易に考えて居たが、彼は必然的に事件に巻き込まれていたのである。自身が気がつかないうちに・・・。

感想

西澤保彦十一作目。チョーモンインシリーズの長編では二番目。でも短編が色々挟み込まれているので決して順番というわけにはいかないわけですね。この作者のシリーズものは順番とか関係ないのが基本ですからしかたないですが。
ミステリにSFが混じったシリーズと言うことで今回のテーマは「テレパシー」です。通常のテレパシーではあまりにストレートに謎がばれてしまい、ミステリーというよりも広義のミステリーであるサスペンス方向へ傾いてしまうということで「パス」と「ボディ」、そして「デコーダー」の存在を思いついたんでしょう。でも超能力という縛りで言うならばこれは遠隔透視(クレアボヤンス)とか千里眼の類と言った方が正解なんですけどねぇ。テレパシーとはあくまで広義に捕らえても思考を読み取り、そして送信出来る能力として認識されています。本作においてはそういった表層・深層問わずボディの思考を読み取るという描写は皆無です。ですから根本的に作者は何か勘違いしているような気がしてなりません。それでもESPとされる三つの要素であるクレアボヤンス・テレパシー・プレコグニッションの範疇に入っているのでまだましですが。
今回特に気になったのは作中人物の変貌でしょうか。露骨に保科と能解をくっつけようとする意図が感じられたり、心情吐露が混じったりとなんか混沌としています。長編だけ読んでいるから妙に感じるんでしょうねぇ。間を埋める短編集の『念力密室』を読むべきなんでしょうか。
にしても恋愛模様を真面目に取り組もうとしている姿勢は良いかもしれないけれど、ほのぼのなコミカル味が持ち味なのにそれをわざわざ自分から潰しに言っちゃっているように思えるのは私だけ?なんか作者の実情と願望が随分混ざっているような・・・。あんまりシリアスにやり過ぎちゃあいけないような気がするんだけどなぁ。
解決については一応筋道が通っているけれどなんか腑に落ちる感覚よりも?が点灯しちゃいました。上手いというよりなんか拍子抜け。やっぱり事件に緊張感がないのが最大の難点なのかなぁ。一応危機自体はあるけれど一種お約束的な部分は否めないわけだし・・・。
長編読者には優しくない展開にはやはりちょっと問題があるんじゃないかなぁ。キャラクターの立ち位置の急激な変化には違和感を感じない方がアレだろうし。魅力のベストバランスが崩れたのが最大の問題点かな。
55点
しかしまぁ、読み手のどれくらいの割合の人が『エスパイ』とか『ミュータント・サブ』とか『地球ナンバーV7』がわかるんだろうか。筒井さんの<七瀬シリーズ>ならまだしも『エスパー魔美』とか『超人ロック』が出てこないのはちょっと腑に落ちないなぁ。
蛇足:小説という媒体よりも漫画化した方がいいのかもしれない。ももせたまみ(産休中だが)あたりが適当じゃないかな。

参考リンク

実況中死
実況中死
posted with amazlet on 06.05.01
西澤 保彦
講談社 (1998/09)
売り上げランキング: 191,606

実況中死―神麻嗣子の超能力事件簿
西澤 保彦
講談社 (2003/11)
売り上げランキング: 66,726