殊能将之 キマイラの新しい城

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あらすじ

名探偵石動戯作は奇妙な事件の解決を頼まれた。なんでも750年前の事件を解決して欲しいという。
この事件の端緒はフランスの小さな古城を使ったテーマパークに始まる。シメール城という古城を日本に移築したこと自体は後にテーマパークの社長に収まる江里陸夫氏の道楽だったそうだ。不動産会社の社長であった江里氏はフランス北部にあった倒壊して放置されていたシメール城を大いに気に入り、艱難辛苦のすえフランスから日本は千葉にまで持ち込んだという。結果それだけは勿体ないのでテーマパークを開くに至ったのだという。
だが、このシメール城には一つ大きな問題点があった。亡霊が取り憑いていたのだ。そして江里氏はその亡霊に取り憑かれてしまい、自分はシメール城の主であるエドガー・ランペールだと主張しているのだという。
エドガー氏は非業の死を遂げたのだが、自身の死の原因を解明してくれる人物を呼べと常務取締役の大海永久氏へ申しつけた。大海氏は社長が狂った振りをしているものだと思っているのだが、兎に角状況を好転させなくてはならない苦しい立場にある。エドガー氏が取り憑いて以来江里氏は知っているはずの社員の名を知らなかったり、現代的な話が出来ないなど、まともなビジネスの話が通じないのである。いっそ引退してくれた方が大海氏にとってはありがたいぐらいなのだ。
しかし、妙に義理堅い大海氏は江里氏に取り憑いている(と装っている)エドガー氏の願いを叶える必要があったわけだ。そこで何がまかり間違ったのか石動戯作に白羽の矢が立ってしまったのだ。
戯作は助手のアントニオを連れてテーマパークにやってきたが、予想を超えた状況に面食らった。何しろエドガーは魔術師を望んでいるようなのだ。おかげで似合わないコスプレをさせられることになって少々不機嫌の様子である。
エドガー氏から話を聞いた限りでは事件はこの様に起こったらしい。
第七次十字軍遠征に参加したエドガー・ランペールは領主の長男であった。冒険を夢見たエドガー氏はそこで現実を知ってしまう。一度は死にかけたがようよう戻ってみれば家督は弟が継ぎ、許嫁すら弟に取られてしまっていた。エドガーはその場では既に死んでいるものとされていたのだ。彼の愛剣が届けられたことがその契機になったのだという。現実を肌で感じたエドガー氏には宗教が単なるお題目であったことが白日に晒されて厭世的な気分になり、自分が継ぐはずの城ではなく、離れに位置するシメール城にひっそりと隠棲することとなった。
ある日エドガーの死を告げたというエドガーの愛剣が弟の住まう城から消え失せたという。それを告げに来たエドガーの母、弟、弟の嫁、護衛の騎士、隣国の領主、領主の護衛の騎士、司祭、修道院長、そのお供の修道士の九人がエドガーに面会し益体もない話をしていった。司祭と修道院長はエドガーが瞑想する場にある天使とキマイラを描いた壁画が異端的である旨をやかましく言いつのっていた。これはいつものことである。あまりにやかましいのでエドガー氏はその場を離れ、瞑想を行う事にした。天秤をかたどったレリーフは丁度天使とキマイラの中間地点に位置している。そこでエドガー氏は天秤のレリーフに手をかけながら瞑想していたのだが、突如として背中に激痛が走り無くなったはずの剣が彼を刺し貫いていた。床に倒れたエドガー氏は扉が開いたのを見て、来訪者達が彼に近づくあたりで息を引き取った、ということらしい。
石動達はその現場をあらかじめ見てきていた。シメールの塔と呼ばれる円筒形の変わった作りのその部屋は、明かり取りの窓が複数ついているがとても人が通り抜けることなど叶わないのは明白であった。おまけに扉はたった一つしかないのだ。状況はまさに密室状況である。しかも750年前の事件という極めつけの難題まで付属している。
石動戯作は事件の真相に迫れるのだろうか?

感想

殊能将之七作目。作者のイメージとして定着しているアンチミステリーな石動戯作シリーズの最新作です。
内容的には現代に蘇る中世騎士のコメディということでジャン・レノが騎士を演じた映画の『おかしなおかしな訪問者』を連想させずにはおれませんよね。そこにミステリーが乗っかるという趣向なんですが、今回に限っては今までの総集編的な側面は否めません。アントニオはきちんと出てくるし水城さんも出てくるわけでようやく基本的なコマが揃ったコメディを魅せられているような感じですよねぇ。『GS美神 極楽大作戦』で言うならば10巻超えたあたりというか・・・。*1故にきちんとシリーズを読んでから読むべき本でしょう。個人的感想からすればエドガー氏の再登場を望みたいところです。アントニオとの絡みとかがあるとよさげなんですけどねぇ。でもそうすると石動の存在価値がどんどん無くなっていってしまうという諸刃の剣。いっそのことアントニオ視点のスピンオフが産まれてくれればいいんですが。量産ペースとは無縁の作者ですから無理っぽいですがねぇ。
えーと本書で一番残念だったのは謎解き部分でしょうか。作者にそれを期待する方が悪いと言われてしまえばその限りなんですけれども、なんだかんだ言って本格思考に染まっているのかもしれませんね。私としては結局この解決はないだろう、という結論に達したわけですがほとんどの人は笑って許しちゃってるんでしょうねぇ。うーんファンタジーは好きなはずなんですが、こうもベタベタだとちょっと引きますわ。だって密室事件の解決方法の第一が示されてしまって居るんだもの・・・。これはないでしょうよ。
ま、毎回元ネタが変わっている作者ですが今回はマイケル・ムアコック関係の模様。ごめんなさい、最も有名な『ストームブリンガー』すら読んでませんw。恐らくマイケル・ムアコックの邦訳を全部読んでいる人にはにやりと出来る趣向なのかもしれませんが私にはわかりかねました。*2
最終的な判断としては殊能将之はミステリーと決別した方が良くないか?ってあたりに落ち着いちゃいました。だって未消化なエドガー氏の話(特に弟の嫁になってしまった許嫁のくだり)とかがえらい気になってしまったもんでねぇ。コメディならコメディでミステリーっていう軛から離れた所で縦横無尽にやって貰いたいところ。ネタがわからないとちょっと困りますけどね。今回みたいになっちゃいますし。でも十分にミステリーでなくても書ける筆力があるんだから是非変わったことをやって貰いたいところ。講談社が許すかっていうとかなり微妙ですが。
65点
ギャグのセンスがイマイチなのがちいとばっかし辛かった。ベタの重ね塗りはちょっとねぇ。
本書では文章上手いのが唯一の救いかな。
蛇足:寝取られの心情を綴った鬱小説とか書いた日には即日買ってしまうかもしれませんw。それにしても年一冊ペースからもうちょっと馬力を上げて欲しいなぁ。

参考リンク

キマイラの新しい城
キマイラの新しい城
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殊能 将之
講談社 (2004/08)
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*1:激しくわかりづらい例えですいません。

*2:ということでマイケル・ムアコックにチェックを入れてみたけれど読めるのはいつ頃になるのやら・・・。ちなみにここで問題になっているのは『エルリック・サーガ』とそれを内包する『エターナル・チャンピオンシリーズ』だと思われます。