東野圭吾 黒笑小説

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あらすじ

  • もうひとつの助走

一つも賞を受賞したことのない寒川先生が賞にノミネートされたということで付き合いのある編集者達と結果待ちをしている。だが、寒川先生のノミネートはこれで六回目。すなわちすでに五回も落ちているということだ。寒川以外の人物は寒川を持て余しているのだった。

  • 巨乳妄想症候群

巨乳を書きすぎて丸い物全てが巨乳に見えてしまう巨乳妄想症候群にかかってしまった男。友人の精神科医にかかってなんとか治そうとするのだが。

  • インポグラ

友人の立田に呼び出され、大学の研究室に赴いてみたら「インポグラ」なるインポになる薬を渡された。この偶然に出来た薬を売る方策を考えて欲しいというのだ。広告代理店に勤める広告プランナーの腕を借りたいという事らしいが・・・。

  • みえすぎ

遺伝する特殊能力で常人には見えない空気を漂う粒子が見えるようになってしまった。能力は日に日に強くなっていき生活する上で不便ばかり感じるようになってしまう。

  • モテモテ・スプレー

タカシは「もてたい!」とウェブ検索して、たまたまモテモテになる薬を作っている研究所を探り当てた。作用的には人それぞれのMHCと呼ばれる白血球などにある蛋白質を作る遺伝子の複合体の匂いによって人は惹かれたりするらしい。翌日タカシはアユミの私物を盗み、適合MHCのスプレーを作ってもらった。これでアユミと好い関係になれる!

  • 線香花火

小説灸英社新人賞を受賞した熱海圭介であったが、賞を獲ったという事は確かに凄いことだったが、編集者からはまーーーったく期待されていないことを本人は気がついていない。

  • 過去の人

一年経って灸英社のパーティーが開かれることになった。パーティーは灸英社の文学三賞(虎馬文学賞、灸英新人賞、灸英功労賞)の授賞式を兼ねている。今年から新人賞の名称がちょっと変わったが、熱海圭介は前年度の受賞者だ。色々な妄想が広がる熱海だったが現実は実に厳しいのだった。

ちょっとリアルになった打算的なシンデレラ

  • ストーカー入門

付き合っていた華子から別れを切り出された。青天の霹靂だったが、彼女は自分をまだ愛しているのならばストーカーしろという。目を白黒させながら唯々諾々と従っていく私。

  • 臨界家族

川島哲也が娘のおもちゃで不愉快な目に遭う話

  • 笑わない男

お笑い芸人の二人が仮面めいた表情を表に出さないホテルのボーイをなんとか笑わせようとする。

  • 奇跡の一枚

遥香が山中湖で撮った写真の中に遥香とは思えない美人が立っていた。しかし、服装はどう見ても遥香なのである。遥香はweb上の知り合いにその写真を自分だと言って送ってみた。自分とは思えない顔だったが、乙女心という奴だ。

  • 選考会

寒川先生は灸英社の新人賞の選考委員に抜擢された。賞が取れなくても専攻する側に回れれば御の字だ。寒川先生は頑張って取り組んでみるのだが・・・。

感想

東野圭吾二十二作目。作者にしては珍しいショートショート集。○笑小説シリーズ最新作。寒川先生と熱海圭介の出てくる話に関しては一つの世界を舞台にしているようです。どうやら寒川先生と熱海圭介は両方とも作者自身がネタになっている模様。でも作者自身は第三十一回江戸川乱歩賞受賞者なんですけどね。最近ようやく獲れた直木賞が獲れないってことを自虐ネタとして主に用いているようです。編集の担当者をもネタにしているところからすると楽屋ネタって事でしょうかね。まぁ、獲れたからこそ笑い話になりますが、これが発売した当時は激しくブラックな感じのネタだったんですよねぇ。
ま、ブラックなネタ自体はこのシリーズの持ち味ですからこれが駄目だときついでしょうね。爆笑と言うよりは苦笑の割合多めです。

  • もうひとつの助走

もろ直木賞が獲れないことをネタにした話です。初出は1999年7月ということで『秘密』が第百二十回の初めての直木賞候補作に、『白夜行』が第百二十二回の二回目の直木賞候補作になったという経緯があります。つまりは二回外してるわけですね。それをネタとして用いて五回に渡って候補作が受賞に至らない、とこの作品で書いてしまったのでここで呪をかけてしまったのではないかと勘ぐりたくなっちゃいます。『容疑者Xの献身』は六回目の候補でようやく獲れましたしね。
ま、ネタにでもしないとやってられなかったんでしょうね。ミステリーだとかサイエンス系だと即座に「人間が書けてない」とのたまうお方がいるわけですし。

  • 巨乳妄想症候群

くだらなさをここまで落として大丈夫なんだろうかw。ま、作者にしては相当の異色作です。ワンアイデアで兎に角馬鹿馬鹿しく書こうとでも思ったんでしょうねぇ。作品構成はそんなに褒められたもんじゃないけど、やっぱり何でも書ける人なんだなぁと思った。

  • インポグラ

ネタ発想からオチはすぐに割れちゃうけれど実はそこから先があって捻っているのが印象的。センスティブな物ですからねぇ。百パー無いとは言い切れないあたりが嫌らしい。バイアグラと併用するとどうなるのかという部分がえらく気になったのでそこら辺が書かれてたら良かったなぁ。

  • みえすぎ

浅暮三文のお株を奪う様な特殊感覚な話です。ちこっとSF風味。ショートショートは斯くあるべし的な話かも。このネタだけで一本話しかけそうな気もするけどこのまま放置かけられるのはやっぱりSFは求められてないからなのかなぁ。個人的には好きだけど・・・こういうSF風味の話はあんまり書いてくれなそうだなぁ。

  • モテモテ・スプレー

ようあるよね、漫画雑誌の広告とかにさ。実際に効果があるってことにしちゃうあたりはSF風味。今回はSF風味ばっかりだからうはうはだけど、ミステリー望む向きには合わなそうだね。内容的にはほとんどギャグマンガ。4Pぐらいで消化できそうな話ではある。

  • 線香花火

賞を獲って小説家としてデビューできたが・・・。実際こんなものっぽいよなぁ。確か編集者より年収高い小説家って消費税ぐらいのパーセンテージしか居なかったよね?最近は賞はやっても仕事を依頼しないとか意味がわからんケースが結構多いように思う。新潮社とか新潮社とか新潮社とか講談社とか。
弱肉強食だからしょうがないけどねぇ。

  • 過去の人

「線香花火」の続編。ってことで世の小説家はこんな感じですよっていう業界残酷物語風の話。こうなったら小売り書店の窮状を描いた話でも書くしかないんじゃないかなぁ。未だ編集者達は高給取りなわけだしねぇ。でも「大手ならば」っていう但し書きがついちゃうけどね。
小説家は本を出してナンボです。

作者っぽくないなぁ。白夜行って付けたのは編集者の気がする。まぁ、有る程度はこの題で連想できるかと。まんまです。

  • ストーカー入門

くだらなさは随一かもしれない。ついつい話の風向きが事件方向へ行くのではないかと勝手に期待しちゃったけれど、悲哀描写で落ち着きました。毒不足気味。

  • 臨界家族

勿論こんな話はありえませんw。アニメや特撮の商品開発までの一連の流れを知っていれば有り得ない話だとすぐにわかるわけですが、んなことは問題じゃないわけです。有りそうな話から逆算した想像で成り立っている話だからこそブラックで面白い。てか黒すぎですよ。

  • 笑わない男

普通のユーモアもの。切れ味はあんまり鋭くない。予定調和系かな。どっかで似たような話を見たり読んだりしたことが有りそうな感じ。単なる既視感というよりも、誰がネタに使っててもおかしくない話だからねぇ。

  • 奇跡の一枚

こんな話も書くんだなぁとちょっと驚き。幅の広さは伊達じゃないってわけか。でもシメがちょっと弱いかも。まぁネタがそこそこだからokかな。

  • 選考会

寒川先生の話の最後なわけですが、「もうひとつの助走」>「線香花火」>「選考会」>「過去の人」っていうのが正式な発表順なのでこの通りに読んだ方が佳いかもしれない。実際こんな事が行われていたら・・・戦々恐々でしょうねぇ。
とりあえず直木賞の選考委員にこれを試させることを勧めるよ、文藝春秋の皆さん。


ブラックさが心地よい短編集でした。本当に何でも書ける人ですねぇ。決して万人向けとは云えませんが、SFめいたショートショートを読みたい人か作者の作品を追いかけている人には佳いかもしれません。
これって言う目玉になる物が楽屋オチの系統であったのが初めて読む人には厳しいかと。
70点
ブラック・ユーモアじゃなくて普通のユーモアの物もちょっと読んでみたいかな。

参考リンク

黒笑小説
黒笑小説
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