西村健 突破 BREAK

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あらすじ

身長165cm体重165kg胸囲165cm、体型は真四角。つまりは一般ピーポーとの相違ばかりが目についてしまう見るからに異形な男の職業は探偵だった。名は大文字一徹という。男の志は高かったが世間の風は冷たい。
一徹は曲がったことが大嫌いな性分でしょっちゅうヤクザもんとやり合っては相手を困らせている。向こうも商売なのだから仕方がないのだが、一徹にはその理屈を理解しようという気が全くない。故に話がこじれてしまうが腕力と体力だけで生きているような男であるのでヤクザだろうが兵隊だろうが兎に角一発ぶち込んで黙らせることにしている。そうして不幸な男は黒いあざを作って親分の所へ走るのだ、凶報を手にして。しかし、それをしたからといってどうにかなる問題でもなかった。組長である三上も頭を抱えているのだ。暴対法の締め付けが厳しいとは言ってもきちっと筋を通し、職業専売特許である暴力を用いてシノギを作り出すのはヤクザの正道である。三上自身も一徹のことが決して好きなわけではない。しかしその戦闘能力自体は買っているし体にわからせるということをするならば何らかの手段に出ねばならない。かつて三上が一徹の事務所に初めていったときなど若い者全てが倒されてしまい立っているのは自分だけという有様になったこともある。死線をくぐったことも一度や二度ではない三上であっても一徹のプレッシャーに圧倒された。何しろ一徹は脳筋なのだ。原始人の如く仲間か敵か、気に入らなかったら暴力を振るう、ヤクザにうってつけの性分だが馬鹿すぎる奴は話にならない。一徹はその大馬鹿の分類にはいるのだ。ヤクザとアヤ起しても平気な顔をしていられるのは三上のおかげであるのだが当人は全く気にもとめていない。故に馬鹿なのだ。空気を読めないのではなく読まないのだから。念のため補足しておくと三上が頭を抱えているのは一徹自身のことではない。だからそこやっかいだともいえるのだが・・・。
一徹が事務所を構えているのは新宿区西新宿である。事務所には一徹だけ詰めているわけではない、秘書が一人いるのだ。キャリア官僚のスーパーエリートの座を蹴って一徹の事務所に転がり込んだ当人は桐葉万季という。妙齢の阿嬌であるが何が彼女をそうさせたのか、それは謎である。一つは一徹と万季の関係にあるかもしれない。二人は地元の九州では幼馴染みであった。未来から逆算してもわかるだろうが一徹は勉強がまるで駄目で万季はその反面良くできた。当然それが二人の道を分かったのだ。しかしそんな万季も官僚になってみたものの人恋しさのあまり職場の上司と不倫関係になってしまい、たまたま探偵になっていた一徹が上司の妻の側から依頼を引き受けて張っている所で再会してしまったのだった。ちなみにその時に先に声をかけたのは一徹の側だ。やはり馬鹿なので探偵というもの、張り込みというものを理解していないのは「一徹だから仕方ない」。それをきっかけとして万季は職を辞して一徹の事務所に転がり込んだのである。
一徹はたまたま銀行強盗をノックアウトしたことで表彰されたことがきっかけで探偵事務所を開いた。コレはよく考えると相当のお調子者の思考回路である。だが持ち込まれる事件は専ら浮気調査ばかりで飽き飽きしており、仕事自体にうんざりしていた。仕事のえり好みの激しい一徹を支えているのが万季である。万季が転がり込んでこなければ今の一徹はない。何しろ一徹の百倍は有能なのだから。
そこまで三上は考えている。一徹を殺すとかいうことは簡単だが万季に迷惑がかかっては悪い、そう三上は苦悶しているのである。年甲斐もなく万季に懸想している三上にとって素敵な笑顔で見つめられるのは心臓に悪い。まるで小学校の先生ににらまれるガキの如く三上は萎縮してしまうのだ。そんな有様だから「一徹を何とかしろ!」とか「オヤジは甘すぎる!」という下の突き上げが三上にとっても頭痛の種になっている。最近では供も連れずに一徹の事務所に出向くものだから組員も怪訝に思っているだろう。板挟みここに極まれりである。
三上が一徹の事務所に出向いたのには二つの理由があった。また一徹が下の者に手を出したのだ。その苦情に出向いたというのが一つ。もう一つは万季に合う事、もとい仕事の依頼である。事務所は相変わらず閑古鳥が大合唱を続けている。なんで保っているのか不思議であるが、そこに慈善活動をするのも三上としては悪くなかった。何しろ事務所の売り上げはすなわち万季の給料にも還元されるのだから。
依頼内容は「失踪した組員を捜す」という人捜しである。当事者の名前は邦山実という男で海外から来た女達の世話をさせていた。昔はじゃぱゆきさんとか呼ばれていたアレである。それでも三上組はよそと違ってきちんと金の支払いをしていたし、最低限のことはしてやっていた。この前一徹が殴りつけたヤクザはその邦山の後任の人物であった。男と逃げようとしたから懲罰を加えていたのだ。一徹は「女を殴る奴=悪人」という論理で一撃を食らわせたのだが、邦山も仕事に悩みを持っていたらしい。三上は一番汚いところで鍛えて取り立てる算段をしていたらしいがそれ以前に邦山は折れてしまったらしい。住民票を取り、本人の居住していたアパートへ入ってみるとその理由がわかった。ドアを開け放った途端むっとアルコールの異臭が鼻を突く。邦山は鬱積した思いを酒に浸し逃げていたのだ。やがて過ぎたアルコールは体を蝕み、その事実を同僚達に知られたくなかったため邦山は失踪を遂げたようだった。
一徹はこの仕事がヤクザである三上の持ってきた物だということでひたすら渋っていたが、知人のホームレスから同様の人捜しを頼まれたことで引き受けることにした。
肉弾戦車の暴走経緯は以上のような物である。

感想

西村健三作目。新宿ゴールデン街シリーズの延長線上みたいですが本作にはオダケンの名前すら一度も出てきません。関係者で唯一出てきているのはオダケンも頭が上がらない三上組の面々とうだつの上がらない土器手警部補ぐらいです。
本作は前二作と比べるとギャグ的な側面が色濃くなっていますね。三上組長の純情さとか一徹の塗り壁具合とかがそれなんでしょうけど悪いけど笑えない。まず身長165cm体重165kg胸囲165cmってお前はドラえもんか!それかバキのビスケット・オリバなのか?って感じだけどかなり無理有るわ。165kgって筋肉だけで構成するのは相当に無理有るしなぁ。字面の面白さを優先させたとしか思えず現実から解離した感が否めない。表紙の絵にしても中身を偽っているわけだけど何でこんなスリムな人物を描いているんだろ。オダケンもそうだけどなんかドラえもん意識してる気がする。何を目指しているのか、正直さっぱり。今までの主人公をまとめてみるとヒロイックな二枚目で無いことは確かなようだ。行動的(アクティブ)、よく取ればそうなる人物達の行動原理はひたすらに衝動的であることでは無かろうか。後先なぞ考えずに兎に角手が先に出てしまう三枚目であること。身長もそんな高くなく、容貌も大して良くない。でも人はいい。そんなキャラクター達が暴れる話である。確かに冒険小説では能動的である人物が主人公であることは多いように思う。私は冒険小説をほとんど読んだことがないので実例を挙げづらいしあくまでイメージで物をいうのだが、秘境探検などというケースに関しては頭を使うよりも失敗でも何でもいいから常に肉体を使ったバイタリティを要求されている様に思う。ただ、普通その主人公達は類い希なる幸運に恵まれていたり、二枚目で女性にもてるのである。出たとこ勝負が持ち味でそれ以外は人情味でカバーしようとするゴールデン街シリーズのキャラクターとは全く違うわけですね。
本作はコミカルハードボイルドの部類に入る作品だと思うんですが、ならばもっと腹を抱えて笑えるネタが欲しいわけですよ。怪物とかいわれている一徹のキャラが単なる頑固な九州男児っていうのと外見的面白さだけでは作中十分なおかしさが伝わってこないんですよね。あくまでコレは小説なんですよ?ビジュアル的な面白さをネタに用いようとするならばもうちょっと考えた方が良かったんじゃないかなぁ。故になんとも中途半端な感じのする作品になってしまいました。主人公の一徹と万季に魅力が欠けているのが最大のウィークポイントかと。万季にしても外見的部分の状況やら内面的な知性を魅せる場面とかが欠けてるのは問題外だよなぁ。
なお、今回は作者の前歴を生かした内容ともなっています。官僚機構の内幕をぶちまけているわけですが、そこに変に力点がおかれすぎてテンポが劇的に悪くなっています。水と油ですわ、社会派的な内容とバイオレンス方向の話は。シリアスという材料が加わればまた違った形にもなり得ただろうけど、こびりついているコメディの香りがその邪魔をしています。そりゃ内に抱えていたネタを使いたいんだろうけど、それならばそちらの方向に絞って話を書いた方がいいと思う。
故に問題点多し。前作と比べてパワーダウンというよりも素材が中途半端だわな。シリーズであるという部分を生かせなかったのは最大のミスかと。
終盤の緊張感がこの作品の全てでは無かろうか。だとしたら前ふり長過ぎだなぁ。霞ヶ関部分を日付トリックに使うとかすれば良かったのに・・・。
スピード感だけでご飯三杯な人向け。
50点
ただし、官僚に興味がある人にとってはもう少し上昇するかも。
追記:突破とは「ムチャをする奴」とか「単なるアホ」というニュアンスが有るようだ。なるほど、言い得て妙だわ。

参考リンク

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