森見登美彦 四畳半神話大系

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あらすじ

大学生の私が所属するサークルをチョイスすることによって分岐した四つの物語。
容貌魁偉で何故か私とつるもうとする小津(三度の飯より他人の不幸が好物という変人)、小津の師匠だという私の下宿先の二階に住む樋口(弟子の貢ぎ物で生活しているという日々何をしているのかわからない先任のような人物)、樋口師匠とライバル関係の映画サークル「みそぎ」の城ヶ崎(ラブドールを後生大事に持っているが、普通の女性からももてる我々の敵)、樋口師匠と城ヶ崎先輩の知り合いの歯科に勤める羽貫さん(酔うと他人の顔をベロベロ舐め回すという奇癖の持ち主。美人。)、そして小津と同じく腐れ縁で結ばれている一つ後輩の明石さん。
この六人が奏でる調子っぱずれのファンタジー

  • 四畳半恋ノ邪魔者

私は映画サークル「みそぎ」に所属することを選んで二年。結局自主脱退を選んだわけだが、女性にもてて権勢を振るう城ヶ崎先輩が憎くてしょうがない。そこで私は小津と共に仕返しを企てるのだが・・・。

  • 四畳半自虐的代理代理戦争

私は「弟子求ム」という奇想天外なビラに惹かれ、樋口師匠の弟子になることを選んだ。日々は樋口師匠の求める風変わりな物品を探すことに忙殺されている。また「自虐的代理代理戦争」なる樋口師匠と城ヶ崎先輩のいがみ合いの手先になることも度々だ。果たして私の二年とは一体何だったのだろうか。

私はソフトボールサークル「ほんわか」に入部したのだが、あまりにまったりとした空気にどうにも馴染めなかった。おまけにこのサークルが宗教がらみであることに気がついて這々の体で逃げ出したわけだ。小津とはそこで一緒に逃げ出すことで知り合った。ある日小津がラブドールを持ってやってきた。預かって欲しいとのことだが、当の香織さんは生身の人間と見まごうほど見目麗しい。こうして短い私と香織さんの甘い生活が始まった。

  • 八十日間四畳半一周

私は秘密組織<福猫飯店>に所属して以来、大学の暗部をつぶさに見ることになったのだが、その黒さは私には合わなかったらしい。紆余曲折有って私は足抜けをすることにした。それ以来追われる身となった私はこの四畳半からでることはほとんどなくなった。
ある日私がドアを開けるとそこもまた私の四畳半を鏡合せにした部屋だった。窓からでても同様だ。私は四畳半に閉じこめられてしまった。

感想

森見登美彦の本はこれで二作目。
ちょっと残念なことに前作である『太陽の塔』と比べるとパワーダウンを感じざるを得ない内容なので個人的には肩すかしかな。
本作は実験小説的な内容です。同時並行する四つの可能性を一冊の本にしてそれぞれの視点から描いているSFともファンタジーとも取れそうな本ですね。第一篇である「四畳半恋ノ邪魔者」を読み終わったすぐに「四畳半自虐的代理代理戦争」を読み始めてすぐ気がつきました。ただ平行世界という可能性と共に、ミステリー的な主人公がそれぞれで異なっている、単に別視点別キャラクターによる小説の可能性もありました。まぁ、勘ぐりすぎだったわけですが。
作中文章はそれぞれの短編からのコラージュで成り立っています。故に同様の文章が4つの短編の中で何度か繰り返されたりするわけですが(特に冒頭と結末の部分はきちんと繰り返されている)、遺憾ながらそれが手抜き的に感じてしまったのは否めません。そう言う手法であるということと、作者自身が相当の推敲をする人物だと言うことはブログ読んでればわかるのですが、繰り返される文章には驚きよりも予定調和を促進させる部分が大きいんですよね。だからどうしてもその部分は読み飛ばしたくなっちゃいましたし、想像力を掻き立てられるというよりもあらかじめ可能性を潰されているようにも感じました。もっと自由に書いて欲しかったなぁと思いました。特に「他人の恋愛模様なんて煮ても焼いても食えない」(意訳)と言わずにそこもネタにして欲しい今日この頃。その方が読んでて期待もでかくなるし、変な色が付かなくても良いんじゃないのかと。「男女の色濃いに疎い」とか「シャイ」とかいうイメージは有ってもあんま良い方向には働かないだろうしねぇ。イメージ転換時に「こういう話も書けるんだ!」という嬉しい驚きとして逆説的に働くことがあってもそのイメージ自体は貶められる形でしか使われていないわけだし・・・。
ま、ぶっちゃけると筋書きとしては基本的に前作と同じですね。駄目男とそのまわりの人間の関係、そしてマドンナの存在。ある意味でここ五十年ぐらいの流行らしいんですけど、「高学歴だけれど駄目な男が振られて女々しく泣く話」という系譜なわけです。現代では村上春樹なんかがそれに該当。こちらはあくまでも茶化しているギャグという立ち位置がありますから比較するのはアレなんですがね。ただ、今回は前作で嫌われた「京大」という旗印が無くなっています。なので読みやすいのは読みやすいんですが、上手い落語のバリエーションを四編聞いた気分になってしまうんですわ。どの話も一度聞いたことがあるような展開なのは狙いなので仕方ないわけで。
ま、ネタのオチは落ちているんだけど完全に落ちきっていない気がするわな*1 。これは全体の毒気が前作と比較しても薄いことも関係しているのかも。初めの方で述べた肩すかしですが、要するにギャグのキレが悪く、密度が低いってことです。ギャグを期待しすぎていると私と同様の状況になるかもしれませんね。
ただ、フレーズとしての言葉の力は強かったりするので、言葉選びのセンスだとか、構成の妙を楽しむひねた楽しみ方をするのならば問題ないでしょう。
例えばファンデルワールス力なんてえらい久しぶりに聞きましたよw。原子・分子間に働く力のことですが、すぐに連想できる人ってあんまりいないかも。珍奇な言葉が状況を表しているのである意味ぴったりだと思いました。でも、こういう部分も嫌悪に転換されてしまうことがあるので難しいもんです。
何故かこういうあからさまなギャグとしての古めかしい言葉(格調高いとは口が裂けても言えないw)がスノッブと感じる人が居るようです。それが京都大学という出自と相まって嫌いになるとか・・・勿体ないなぁ。学歴云々は京大は京大でもミス研出身者にでも言ってあげなさいw。わざわざ学歴を気にして反発するのは学歴コンプレックスを持ってることを白状してるようなもんなんで格好悪いかと。*2
70点
真っ新で要素の再利用のない話が読みたいです。ギャグならなおさら、恋愛要素も踏み込んで・・・駄目?
実験的な何かよりも、気楽に読める方がいいかなぁ。

追記:それにしても小津はイメージキャラクターがねずみ男なんだろうか。どうしてもそういう想像をしてしまう。ただし得意のビンタはしないんだろうなぁ。

参考リンク

四畳半神話大系
四畳半神話大系
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森見 登美彦
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他のエントリ

太陽の塔

*1:これは恐らく短編四つ読んで初めて完結するからかと。

*2:もしかしたら文系的方向性が強いので、体育会系の人には拒否感があるのかもしれない。でも一応体育会系なんだよなぁ、作者。