奥田英朗 泳いで帰れ

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感想

奥田英朗十二作目。今回もエッセイなのであらすじ省略。端的に言ってしまうとアテネオリンピック観戦記です。ちなみにこれを書いていた時期は直木賞の受賞とクロスしていたそうです。知らなかったんですが、作者は受賞式欠席してたんですねぇ。
内容的には同著の『港町食堂』の様な無理してガハハオヤジを演じている部分は無く、『野球の国』の様なゆったりとした成り行き任せの旅の小さな発見みたいな物も無かったようです。
それもそのはず、野球好きの筆者にはアテネオリンピックの野球日本代表のこぢんまりと纏まりすぎているプレイ具合がお気に召さなかったのですよ。メダルを獲ろうがクリーンナップにバントを指示するようなせせこましいまねに怒りを駆り立てられたそうな。故に「泳いで帰れ!」な訣です。
私のようなオリンピックとか世界陸上とかに無関心な人間の場合、「生で見たと言うことを自慢されるのが鬱陶しいので経験しておこう」という実に後ろ向きな観戦動機には共感を覚えるわけですが、それにしてもわざわざ海外まで出向いて観光をしに行くなんて行動力がありますねぇ。海外なんてなーんもする理由がない本当のバカンス以外は興味がわかないんでヨーロッパにいく気にはなれませんわ。アメリカはまだ良いけど*1東欧を含めたヨーロッパは未だかなり直接的な人種差別*2が残ってるのでわざわざ嫌な気分になるために行くのは遠慮したいですねぇ。
ま、それは兎も角、作者はぎっちりギチギチのペースで観戦してない適当さがここには出ています。チケットは当日券で、野球見るのやめて柔道行ったり、バスケット行ったり陸上競技を見たり、こう言うのが理想だわな。相変わらず午睡やら当地の食事やらを満喫して「これが当地の文化だから」と郷に入ればの手に出ます。ま、いつも通りすぐに方向転換したりいい加減ですが。作中で印象深いのは野球場の激しすぎる日光の強さですかね。まぁ、野球その物が原形となったクリケットよりも、世界的に見てどマイナーな競技ですから手抜きも致し方ないかな。観戦のためにはやはり屋根必須がよくわかりました。*3
最後の方でオリンピック観戦だけでは勿体ないからと入れた観光についてはまずさが大きくあふれ出してますね。パック旅行とかってこんな感じなんだろうな。せっかく旅行に行くならまったり行けばいいのに。
やっぱり野球好きが読んだ方が楽しめるかな。あとはアテネオリンピックに思い入れがある方が読んでも佳いかと。
今回は極度に茶化して書いてないのでちょっと堅めな気がした。ゆるめの方しか読んでない人の場合ちょっと面食らうかも。

参考リンク

泳いで帰れ
泳いで帰れ
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奥田 英朗
光文社 (2004/11/18)
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*1:場所によるけどね。観光地は楽で良い・・・が、田舎だとケースバイケース。勿論いい人もいるけどね。

*2:黄色人種はおしなべてチーノ(支那人)呼ばわりされますから。ホテルですら割増料金あたりまえ、しかもランクは最低とかざら。親が教育しないから子供がからかったり、石投げてきたり、なんか盗まれても警察さえ相手にしてくれなかったりすることすらあるらしい。

*3:アテネのあるギリシャ共和国の気候は地中海性気候なので夏は乾燥して降雨はほとんどありません。冬が雨季みたいです。だから作中雨が降っている描写は0ですね。