C・S・ルイス ライオンと魔女 ナルニア国物語

ASIN:4001155265
ASIN:4062717719
ASIN:4001140349

あらすじ

第一次大戦中、イギリスのロンドンに住む四人兄弟(ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィ)は戦争を避けるために田舎へ疎開することになりました。老学者が住んでいる古びた広い屋敷で生活を始めた四人はすぐにその場にとけ込みました。
着いた翌日四人は屋敷の探検をすることにしました。なにしろ古くて広い屋敷ですから子供の好奇心をそそる物が沢山ありそうだったのです。その探検の中にその部屋はありました。部屋の中にはたんす(クローゼット)が一竿あるだけでガランとしていました。ルーシィはかけて他の部屋へと向かう三人を見送った後、一人ぽつんとタンスの中を調べ始めました。中を覗くと毛皮のコートが沢山吊る下がっています。ルーシィは毛皮の手触りや匂いが大好きな子だったため、中に入って堪能しようとしました。しかし、一歩踏み込み二歩踏み込んでも後ろの板に手が触れません。随分大きなタンスだなぁと思っていると手の先にちくちくした物を感じました。まるで木の枝のようで・・・。更に踏み出すと奥の先に街灯のような物が見えました。わくわく半分こわさ半分で先に進んだルーシィが見た物はタンスとは無縁の森の中。ぽつんとつったっている街灯が照らすのは銀世界でした。一体ここはどこだろう?いぶかしむルーシィの元へ人影がやってきました。
「なんてこった!」
そういった男の姿は奇妙な物でした。傘を差している男の下半身は山羊の物でしっぽが雪に触れるのを避けるため長いしっぽを手に持っています。頭には日本の角に短い口ひげという格好でした。男は牧羊神フォーンそのものです。
挨拶を交わした二人は奇妙なやりとりを始めます。ルーシィには「イブのむすめさん」という言葉はよくわかりません。この世界には人間はいないのだそうです。紳士的なフォーン(名前はタムナスさんです)はルーシィにこの世界、ナルニアの話をするために自宅へとお茶に誘いました。
タムナスさんの自宅で振る舞われたおもてなしは実に素敵でした。タムナスさんは昔のよしなしごとをルーシィに語るのですが、やがて泣き始めてしまいました。なんでも今ナルニアは危機に瀕しているというのです。白い魔女呼ばれる人物がナルニアの季節を取り上げてしまって支配していているのだそうです。悪い魔女はとても力が強く、逆らったりすると石に変えられてしまいます。その魔女が出しているおふれに人間を見つけたら魔女に差し出さなければならないというものがあるのです。タムナスさんは魔女にルーシィを差し出すつもりだったのです。だから悲しくて泣いていたのでした。でもタムナスさんはルーシィを差し出すのをやめることにしました。そしてこっそりと元の世界に帰ったルーシィはタンスを抜け出して事の次第を兄弟三人に告げましたが、再びタンスをあけてもナルニアへの道は開けませんでした。三人はルーシィが嘘をついているか、頭がおかしくなったのだと思いました。ルーシィがむきになって説明しても聞き流されてしまいます。ルーシィは悔しくてたまりませんでした。
幾日もルーシィは悶々と過ごしました。がんとして意見を曲げないルーシィを相手にわざわざナルニアの話をする人は居ません。でもひょんな事からエドマンドがナルニアへの一歩を踏み出すことになりました。かくれんぼをしていたエドマンドがタンスに隠れようとしたルーシィを発見したのです。エドマンドは手頃な隠れ場所と思ってルーシィの後を追いました。そうして雪で敷き詰められたナルニアに来てしまったのです。
実際にナルニアの地を踏みしめているのでルーシィの言っていたことが本当だということが解りました。ルーシィに謝ろうとおもったエドマンドはルーシィを探しますが見つかりません。そこへそりがやってきます。二頭のトナカイが牽いているソリにはあごひげの長い小人と肌の色が真っ白い魔女が乗っていました。この魔女こそが彼の白い魔女です。エドマンドは魔女に騙されて魔法のかかったプリンを食べてしまい、どうしてもプリンが食べ続けたくてしょうがなくなりました。魔女はエドマンドに言います。
「この次に来たときにはわがやかたに兄弟四人を連れてこい」
と。プリンが食べたくて仕方がないエドマンドは承諾してしまうのですが、これが魔女の罠でした・・・。

感想

C・S・ルイス初読み。ディズニーが映像化に乗り出したというので読んでみました。実は再読ですが、前に読んだのは小学校低学年のことだったんではっきり言って思いっきり忘れてました。
内容は完全に子供向けですね。説明がきちんと付いている訳じゃないんで出来は中途半端です。
一応例を出して挙げてみると

  • 何故ナルニアには人間が居ないのか
  • 魔法の力はどのように生み出されるのか
  • 時間の流れはフォーンの身の上には有るようなのにアスランというライオンには関係がないらしい
  • ナルニアと普通の世界において時間の流れの変化はどうなっているのかの説明無し
  • 予言は誰がいつ、何の目的で残したのか不明
  • フォーンには家族が居たようだがフォーンの嫁さんもフォーンなんだろうか
  • アスラン天地開闢以前の法を知っていたのは何故なのか(ビッグバン予測のその前を知ることとほとんど同義)

簡単に考えたあたりでこんな感じでしょうかね。
あと訳者である瀬田貞二の訳は妙に日本語に沿いすぎているので気持ち悪かったです。巨人族の名前が「ごろごろ八郎太」とかマジでありえねぇ。元々児童文学なわけですから仕方ないとも云えるけれども大人向けの訳で無いのが厳しいですねぇ。一応訳者を森はるなに変えた本が講談社から出てますが、どの程度訳が変わっている物やら。
文章を読むことでは分からない物の、実際のストーリーの要所を見渡すとキリスト教の要素が立ち上がってきます。本書は抹香臭くないキリスト教文学の亜流ですな。舞台はギリシャ・ローマな神話の世界、でもゼウスやら何やらの神は登場しません。でもキリストの代わりは出てきます。ライオンのアスランです。キリストはライオンに例えられたこともあったような・・・。ライオン=王者みたいな解釈でね*1アスランの犠牲とその復活というのはまんまキリストと合致します。断罪の意味を持つ二元的善と悪の戦いもそうですね。てか、サンタクロースが人殺し推奨をするために剣と盾を与えるなんて話はえらいご都合主義ですなw。博愛と寛容が売り物のキリスト教ですが、実際は異教を異端視して飲み込み、都合が良いところだけ利用するというのを二千年近く前からやってるので伝統なんでしょうけどね。
調べてみたところ作者は「敬虔でないキリスト教徒>無神論者>神学者レベルのキリスト教徒」という変遷を辿っています。本書は後期の作品ですからズバリキリスト教の影響が色濃いのも仕方ないでしょう。
映画のキャッチコピーの一つに「映像化不可能」みたいな奴がありましたが、言うほど映像化不可能な気はしませんでした。確かにCGで容易にはなったかもしれないけれど、撮ること自体はネバーエンディングストーリーとそうは変わらないかな。てか、全体的にやや地味だよねぇ。
小学生のうちに読むべき本ですね。それ以降になってしまうと読み返すのが辛くなるかと。あんまり子供に読ませたい本じゃないなぁ。悪いことをしているから殺してokとか、誤った単純化を図られそうで嫌。
追記:魔法の国ザンスシリーズの王が不在云々というのはナルニアから来ているんだろうか?
蛇足:スペシャルエディションで読んだんだけど、あの大きさの本って久しぶりだった。目茶苦茶読み辛かったけどね。

参考リンク

ライオンと魔女 スペシャルエディション ナルニア国ものがたり(1)
C.S. ルイス C.S. Lewis Pauline Baynes 瀬田 貞二 ポーリン ベインズ
岩波書店 (1992/10)
売り上げランキング: 212,045

ライオンと魔女
ライオンと魔女
posted with amazlet on 06.03.28
ルイス.S.C 森 はるな
講談社 (2006/02/08)

ライオンと魔女 ナルニア国ものがたり(1)
C.S.ルイス 瀬田 貞二 C.S. Lewis
岩波書店 (2000/06)
売り上げランキング: 3,447

*1:正確には新約聖書で「マルコによる福音書」を書いたとされる守護聖人マルコをライオンとして表します。