戸梶圭太 未確認家族

ASIN:4106027690
ASIN:4101248338

あらすじ

駒江知弘は平均的サラリーマンとして働いていたが、それ以外の顔は色に狂った雄以外の何者でもなかった。突っ込める穴としての雌を電車で求める日々を送っていたが、全く引っかからない。それでも彼はめげなかった。
元ヤンキーの知弘の妻美穂は知弘に隠れて散々浮気していた。息子が学校に出かけたらそれからが美穂の自由時間だ。ジムで体を鍛え、出会い系サイトで男を漁る。二人の間には情交はすでに存在しなかった。
二人の息子である翔は学校でイジメを受けていて精神的な頭痛持ちであり、不登校になりかけていた。それでも学校に行かされることに変わりはない。翔はますます変になっていく。
知弘の母駒江裕美は再婚をまじめに考えていた。相手は芸術家である吉村浩司である。吉村のまじめでどこかおっちょこちょいな所が裕美は気に入っていた。反面彼女は嫁である美穂が大嫌いだった。息子と孫を彼女に任せておく訳にはいかないと常々思っていた。
知弘には昔一度抱いただけの電波女が付きまとっていた。知弘こそが救世主だと信じて疑わない大枝浩子は自分と知弘の障害になる相手は排除すべきだと考えていた。例えそれが戸籍上の妻であろうと関係ない。知弘は「あの性悪女にだまされている」のだ。浩子は夜っぴて怪文書を作り、FAXで送り、自分と知弘の愛を込めたエロ漫画を描き連ねる。

三木克郎はいい加減な男だった。働きもせず、がらんとした部屋でだべっていたかと思えば外国へ物見遊山に行きたがるような衝動的な生き方を昔からしてきていた。そんな克郎だから妻も現在三人目だ。
克郎の妻の春奈はマリファナに嵌っている。これさえあれば生きていける、そんな日常に生きていた。克郎の嫁という関係は余録に過ぎない。彼女はトリップでガンダーラに飛んでいれば幸せなのだ。
克郎には息子がいる。和也というのだが、つい最近まで刑務所に入っていた。克郎に連絡を取ろうとしたらしいが、電話が止められていたため連絡が付かなかった。彼は復讐を胸に秘めていた。昔の仲間の女二人に彼は嵌められて刑務所に入るハメになったのだ。和也は殺害することを決めていた。
保釈されたとは言え和也にはまだ保護観察官が付いていた。飯島という名の堅物そうな男は見かけと違って随分砕けていた。春奈が吸っていたマリファナの匂いを嗅いだというのにうらやましそうな声を出す。彼の職業倫理は克郎一家と暮らす内にぶっ壊れ、真に家族らしい人のふれあいの温かみに触れる事で適当になっていく。そして彼は克郎一家の一員となった。

一つの家族は隠し事が全て露呈し、もう一つの家族は復讐のために一丸となる。果たして勝者はいるのだろうか?

感想

戸梶圭太二作目。
作中人物達は刹那的快楽思考によって動いています。自分が愉しければそれでいい!自己中心的な振る舞いも得手勝手な振る舞いもばれなきゃok、楽しまなきゃソンソンとばかりに縦横無尽に欲望の限りを尽くしているわけですが、一寸先は闇、ツケは払わなければなりません。ばれたらハイお終い、築かれた絆は脆くも崩れ去り、憎悪の渦巻く現実が待っています。
なんとも暗くなって気が滅入りそうな話ですが、何故か暗くならない不思議な雰囲気を持った作品ですな。徹底的に破滅への道を歩いている癖にどこかラテンのテンポとノリで躍ってさえいます。ま、それを支えているのはエログロナンセンスのギャグと軽薄なノリなんですがね。でもやっぱり何故か猥雑さが気にならないんですよ。どっぴきな事を作中で言ったりやったりしているわけですが「しょうがないなぁ」とニヤニヤ見過ごしてしまえます。ゆるーいドライブ感はちょっと呆れが入ってるけど面白い。でも確実に読み手を選ぶえぐさであるのも確かです。流石に電波なキャラクターの気持ちの悪さは生理的な嫌悪が立っちゃう人の方が多いだろうしねぇ。
それにしても満たされない鬱屈から生まれる怒りが状況によって昇華する様は混沌ですな。ここまで混迷をきわめて呉越同舟までしちゃうのは笑いを狙ってるねぇ。でもこれで笑える人は相当少ないかと。
流れに身を任せてなーんにも考えずに楽しむために楽しめば佳いんじゃないかな。
ただ、人物造形は薄っぺらで書き飛ばしている感は否めない。「馬鹿共め!死んでしまえ!!」とそれだけを言いたいが為に作られているような何にも考えていない連中と能動的に自分の利益だけを考えるだけでまわりを決して見回さない奴らが交わったらこんな具合になるわな。でもその薄っぺらさ加減も味になっているんだから凄いんだか凄くないんだか・・・。
個人的には三木克郎が好きだね。とぼけたところとか良い感じのボケとかベタすぎてイイ。「馬鹿は殺せ!」とかいうけど、それならお前等がまず死ななきゃいけないじゃないか。そうしたら「あ、そうか」とか言いそうな所が想像できてるしねぇ。
ま、本書はノワールを逆手に取ったギャグとして楽しまなきゃいけません。下手に真面目に受け取っちゃうと興ざめですよ。でも耐性が無い人は無条件に駄目だろうなぁ・・・。このくだらなさこそがエンターテイメントの醍醐味な気もするけど、一歩間違えば全然方向の違うの話になってしまいそうなところが本来無縁そうな繊細さも持っていることを誇示しているのかもしれない。でも大方の人にとってはどうでも佳いことだろうな。
"Don't think,feel."な一冊です。
75点
馴染むまでが大変そうだなぁ。

参考リンク

未確認家族
未確認家族
posted with amazlet on 06.03.24
戸梶 圭太
新潮社 (2001/10/31)
売り上げランキング: 156,856

未確認家族
未確認家族
posted with amazlet on 06.03.24
戸梶 圭太
新潮社 (2004/12)
売り上げランキング: 145,434

戸梶圭太の他のエントリ

溺れる魚