西澤保彦 スコッチ・ゲーム

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あらすじ

事件はタカチの高校時代に遡る。といっても正確に言うとタカチは既に高校そのものは卒業していたのではあるが。寮生活が営める学校であったので彼女は自宅から通学することを選ばなかった。それに元々一年時には強制的に共同生活をさせるという伝統もあり、易々と自宅から離れられたことにタカチ自身はほっとしていた。タカチにとって鬼門であったのは父だった。独善的で物わかりの良さを持ち合わせているように振る舞う父がタカチは嫌で嫌でしょうがなかった。おまけに父は地元の政治家だ。どんなに反抗しても、すればするほどわがままだと言われてしまうだけのこと。やがてタカチも学習し、慎み深く暮らすようになったが根底には変化はなかった。
既に卒業式をしてしまい、その月の内に寮から出れば良かったタカチは一つの問題を片付けねばならなかった。その為清蓮学園の女子寮からタカチはそっと抜け出してその用事を片付けるべく動いた。これは人の生き死にがかかっていたため先延ばしには出来なかったのだ。その為にタカチは大量のスコッチ・ウィスキーを痛飲するハメになり夜の街をフラフラしながら戻っていった。しかし、帰り着いた女子寮では常の静寂はなく喧噪が渦巻いていた。なんとタカチと同室の一年生鞆呂木(ともろき)恵が、用事を作り出した張本人が刺殺されたというのだ。恵が自殺するなら兎も角、殺される様な状況というのは考えにくかった。当然アルコールの匂いをプンプンさせたタカチは恵と同室であること、そして殺害が怒起こった当時のアリバイがないために疑われたのは言うまでもない。おまけにタカチと恵は広く知られるカップルでもあり*1、ここ最近は二人が喧嘩ばかりしているというのは公然の秘密だった。警察は追求をしようとし、タカチは事件の真相を知ろうとする。しかしここにも父の手は伸びてきて事件から遠ざけようとする。一応は従うそぶりを見せたタカチだったが、馬鹿正直にそのままでいるわけもない。当然意中の容疑者は居たのだ。あとはその外堀を埋めていくだけ、だと思ったのだが、恵が死んでから二日後に更に刺殺事件が起こる。タカチと恵の部屋の隣に入居していた能馬小百合が死んだのだった。恵の時と同じく刺されてからも少し意識があり犯人はタカチの考えていた容疑者ではなかった事が判明する。更に警察の言葉を信じるならば両事件ともタカチよりも背が低く、刺した角度からすると同一人物なのだという。
その後タカチは父から逃れるために推薦されている大学とは別に受験先を選んだりしていた。そこで偶然安槻大を見つけたことがその後を運命づけるのだが、それはそれ、結局受験などをして事件から一ヶ月が経過した。二人で事件は終わりのはずだった。だが、帰省していたタカチが再び事件の調査に手を伸ばそうとして動き回るとタカチを本屋で万引き扱いした元店員とその息子、更にもう一人学園の生徒である鳥羽田冴子までもが殺される事になってしまった。
事件は大体この様な話だ。付け加えるならば、タカチが怪しいと思い続けていたのは惟道(これみち)晋という男である。清蓮の教師なのだが、タカチに懸想をしてストーカー紛いの事をしていた。その一方で外見的には整っていることもあり、女生徒からは人気もある人物でもあった。タカチが惟道を決定的に嫌ったのは前述の本屋での一件だ。惟道に延々と後を付けられていたタカチが飛び込みで入ったはずの本屋で万引きと間違われたのだ。だが、確かにバッグには本が入っていたので本来ならば論より証拠となるところだが、どっこいタカチは黙っていない。本気でしらを切るタカチを後から現れてなだめようとした人物こそ惟道であった。その一件が惟道がこれを手引きしたのではないか?という疑心を生み出したのだ。疑われるだけの素養があるのだから仕方がない。それでなくともあとをつけるなど気持ちの良い話ではないのだから。

タカチは以上のような大体の所を他の三人に聞かせた。三人とは勿論ボアン先輩、タック、ウサコである。この時タカチは迷っていた。勿論実家に帰るか否かで。事件から二年経っているが未だに一連の犯人は見つかっていない。それをこのメンツに解決して貰おうとしたのだ、正確にはタックに。しかし、タックは早々に潰れてしまい結局解らずじまいだった。
翌日タカチは帰省することにする。ただし、暇をもてあましていたタックを連れてだ。今年こそは犯人が分かるだろう・・・そうタカチには確信があった。

感想

西澤保彦十作目。ようやく『依存』までの道程が埋まりました。それにしても難解な名字や名前付けんの止めてくんねぇかなぁ。いい加減うざくなってきました。
今回はタカチの来歴をつまびらかにすることが主題になっています。特に今までビアンだとされてきたタカチの恋人の死についてようやく語られるわけですね。
それはそれとしても相変わらず穿ちすぎな論がまかり通ります。極論から極論に走りすぎていますよ、流石に。特に男性のナルシシズム云々についてはついて行けないわ。なんかすげぇ偏見とそれによる飛躍に根ざしてるわ。でもこれについても本論というわけではないのであくまでスルー。
どうやら根底にあるのは支配者と被支配者であることという部分のようです。支配者と被支配者ということであれば、SMとすぐに連想されるのが普通なんだろうけどこれは正確には異なります。決して間違いとは言い切れない類のことなんですがね。これはD&S*2と専門用語で言われます。SMには大別して三つのタイプがあって所謂SM*3が有名所ですがそれ以外に前述のD&SとB&D*4という物もあります。前者は支配すること、されることに対して性的興奮を得る類のことで、相手の自由を束縛したり、されることに安心感を得るという事でもあります。後者はよりSMに近くお仕置き的な方向性で用いられます。これらは精神的肉体的両面において行われるのでその状況に親しい人でないと中々理解しがたいことなので解らない方が幸せかもしれませんw。ってことでこれではっきりしたのは作者はかなり異端の性知識が豊富だと言うことですねw。でもそれは本論とはやっぱり関係ないので本筋に戻ります。
今回のテーマは「タカチの過去との決別・束縛からの解放」ではないでしょうか。んな言われるまでもないって思われるのも当然ですね。タカチの来歴では父からの支配が色濃く、それに対して生理的な憎しみすら抱いています。しかし、彼女はそこに一種のファザーコンプレックス的な物を抱いていたのかもしれません。何故ならば恵という人物に支配されることを楽しむようになってしまったのですから。支配からの束縛からの自由を謳歌していたはずのタカチは再びケージに戻ります。しかしやはりジレンマに陥るのです。巣立ちを志したはずなのに再び巣に戻ってきてしまった幼子、それがタカチなのでしょう。彼女の中では巣立ちとは=で逆に支配する側になると言うことなのかもしれません。その証左として独善的な存在が大嫌いであるという物があります。具体的には自分に対して偉そうだったり、かさにかかってきたりする自分よりも上位だと振る舞う存在が居るのが鬱陶しいということになっています。ですが支配する側にまわりたくないという心理的抑制が働いているために一種同族嫌悪に陥っているのではないでしょうか。ここでいう心理的抑制とはそれが正しいというわけではないと解っている本人自身の考えを言います。でもここはあくまで想像の段階なのでそれ以上踏み込むことは出来ないんですけどね。つまり要約すると、支配される側であることは「自立していない」ということで、大人になるということが「支配する側にまわる」と経験則で知っているタカチですが、心理的嫌悪によってそれを拒否して子供であろうとしたわけです。故に恵という横暴な人物の支配に屈することとなったわけですがそこにジレンマがあったと。で、やはり「支配する側にまわろうとする」のですが、その術が上手くないタカチと支配しようと躍起になる恵がすれ違ってしまったのでしょうね。ちなみに惟道の婚約者にタカチが強制するくだりがありますが、なんか大人=支配者をまんま地で行ってる気がします。
それにしてもタカチは決定的に人生経験が足りなかったのでしょうねぇ。安槻大で彼女が丸くなったのは時間の性ではなく、その足りなかった経験を埋めたおかげなのではないかと思いましたわ。
まぁ、それにしても「独善的」ってようはエゴってことでしょ。エゴがないっていうのは日本人の悪い癖だって外に出てきた作者にはよくわかってるはずなんだけどなぁ。逆に美点をみてしまっているのだろうかねぇ。
えーっとミステリーとしてはですね・・・動機がダメ過ぎなのではっきり言って×。タカチの心理的な推移と内面吐露が良くできてるだけに勿体ない。心理物とミステリーを切り離しても良いんじゃないかなぁ。てーかミステリーとは離れたところで一度作品を書いてみるべきだよ。それじゃあ仕事来ないのかもしれないけどね・・・。
ロジック部分は妙に納得してしまうところもあるけど強引だよねぇ。我田引水な牽強付会はもうちょっと謹んで欲しいところ。
70点
男性のナルシシズム云々の所はもしかしたらギャグでやってるのかもしれない気がしてきた・・・。

参考リンク

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*1:一応書いておくが共学であり女子校ではない

*2:支配(dominance)と服従(submission)

*3:(嗜虐(Sadism)被虐(Masochism)

*4:拘束(Bondage)と支配(dominance)、訓練(discipline)