奥田英朗 空中ブランコ

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あらすじ

空中ブランコが飛べなくなってしまったサーカス団員山下公平の物語

先端恐怖症が酷くて進退の危機にまで発展しそうになるヤクザ猪野誠司の物語

  • 義父のヅラ

義父のヅラを取りたいという欲求が高まってガス抜きが出来なくなってしまった精神科医兼大学講師の池山達郎の物語

  • ホットコーナー

イップスで一塁に上手く球が投げられなくなってしまった三塁手板東真一の物語

  • 女流作家

作品の設定が既に書いた物と被っていないか気になる強迫症心因性嘔吐が段々と激しくなるライトな恋愛模様を得意とする作家(牛山)星山愛子の物語

感想

奥田英朗九作目。本作は第131回直木賞受賞作です。また、『イン・ザ・プール』の続編でもあります。
正直なところ『イン・ザ・プール』と比べてしまうとパワーダウンを感じますね。前作は不揃いな作品の集合体というイメージで玉石混淆でしたが、今回は何故か妙に揃いすぎているように感じたのです。まるで工業製品。いや、愉しいんですよ、読んでいて。それでもどこか予定調和が妙に強く感じてしまって勿体ない感覚に襲われたんですよ。
今回も笑いながらニヤニヤ読める本である点では問題ないんですが、ただやはり前作を読んでいる、読んでいないではかなり印象が違うのではないのでしょうか。読んでいない場合には問題なく楽しめる、読んでいるとパターン化された内容に違和感を感じるのではないかなと。
こうなってくると、直木賞を受賞したのは本作ではないように思われるのです。前作である『イン・ザ・プール』にこそ受賞させるべきであったのではないかと考えちゃうんですよね。
作者はエッセイによると計画して執筆することの出来ない作家であるようです。暖めている作品その物は結構な数に上るらしく波があるようなのです。ここにあるのは津波の後のさざ波に過ぎないのではないでしょうか。妙にこぢんまりしてしまって面白さが定量的になってしまっているような。もっとパワフルな破天荒さのある意外性を求めていたのに少し残念です。まぁ、元々変化球であるのでこれ以上の変化をと言っても一筋縄でいかないのは百も承知なんですが。
一つ例えを挙げるとするならば、前作では「治らなかった」けれどそれでも生活は続けていられるし、逆にそれが褒められることとなった話がありました。今回はどれも快方に向かうだけなんですよ。これでは予定調和を打破していないと言われても仕方ないんじゃないですかね。
主人公の精神科医伊良部について少し。なんかより行動的ですね。運動その物が嫌いというわけではないみたいですが、きっかけ次第なんでしょうか。熱しやすく冷めやすいという割に段々と超人化していっているような・・・。とは言えとぼけたダウナーな癒し系は健在ですね。
ストーリーに関してはテコ入れとして個人的には伊良部病院の他の先生を出してみてとか、伊良部先生の友人を出してみるとか、看護婦の話を広げてみるとか、患者を出さずに普段の生活を描いてみるとか、そういう意外性があったら良かったのかも。まぁ、『義父のヅラ』で友人というか本人にとっては知人が出てきては居ますけどね。案の定昔から変人で通ってたらしいです。むべなるかな。
『女流作家』については興味深いですね。ある意味でこれは作者の投影でしょう。そして読者サービスでもあります。もっと精進するから楽しみにして待っていてくれと言っているように思えてなりません。ストーリーをひねり出すのも大変だと愚痴こぼしても居ますけどね。同時に編集者は当てにならんという意趣返しにもなっていますw。まぁ。編集者イジメは或程度仕方ないですけどね。まぁ、最大の驚きポイントは看護婦のマユミでしょうけど楽しみを削いでしまいそうなので最後まで読むことを薦めます。
75点
ファンだけにちょっと辛いかなぁ。

参考リンク

空中ブランコ
空中ブランコ
posted with amazlet on 06.02.26
奥田 英朗
文藝春秋 (2004/04/24)
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