三島由紀夫 仮面の告白

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あらすじ

三島由紀夫の半自叙伝。同性愛者のそして残虐嗜好の"私"が、通常人という仮面を被り生活し、死に憧れながら死ぬのを恐れ、戦争にも行けず、とある女性に恋をしたように思わせ、性的興奮を覚えられずに終戦を迎える。唯それだけの物語。

感想

三島由起夫初読み。三島由起夫が同性愛者であることは美輪明宏との親交などからなんとなく想像できましたけど、どこにもそれは直接的には書かれてませんねぇ。だからてっきり私は「同性愛者」ということは小説のネタとして用いているのではないだろうかと思いました。だって後年作者は結婚して家庭も持ってますし・・・。実際の所はどうなんでしょう。わざわざ研究書を読む気もないのでわかりませんが。
文章的には実に耽美でロマンチックです。題名による「仮面」とは同性愛者だと言うことがその一面。また、倒錯者であることを隠して普通人らしくしていることも含むのでしょう。「告白」とは罪を知る者の弁です。これは懺悔を意味するのでしょう。而して作者は自己弁護自己憐憫の権化でもある事は嫌でも解ります。故に反省らしい反省の声は聞こえてこないのです。全ての言葉はただ責任逃れに繋がるように描かれています。戦争においての一節に書かれている「自分だけは死なない」といった現在では自然な自分こそが自分の物語の主人公であるが故に正しく、また特異であることを強調していますね。これは英雄願望の一種何じゃないかなぁ。
主人公の略歴を端的に述べるならば、男性に興奮を得てしまうような幼児体験、生活の中で女性とばかり過ごしたこと、更にはナルシズムとマゾヒズムの融合した自殺願望、加えて死への渇望から嗜虐にすら性的興奮を覚えるに至ったという実に放逸望外、波瀾万丈ぶりが印象に残る。その後の男性への初恋、そして好奇心と自分の性癖を韜晦した女性との逢瀬、そしてその失敗。これが主なストーリーなのですが主人公の情動は常に矛盾に満ちています。それがグジグジと女々しいこと夥しいのでイライラさせられますね。それは文章にも表れています。装飾的に肉薄してくる格調高い文章で筋骨隆々とした男性に性的興奮を煽られたりする描写とか、オナニーにアポロン的肉体を持った男性の死の凄惨酸鼻な様子の自作春画を用いる話だとか、自分の肉体が見窄らしく恋する相手に見られたく無いだとか、恋する相手の無様な様子を見たく無いだとか、だらだらだらだら続きます。正直うざいです。感情移入はこれっぽっちも出来ませんでした。ただ、女性やガチホモな人たちには受けそうではあります。ですが私はそのどちらでもないんで無理ですね。
私は同性愛者の苦悩を描いた小説だと知っていればまず読まなかったでしょう。この作品での感性の共有は私には不可能だなぁ。時代的に考えても相当過激であろう事は想像に難くないです。でもこれが出た当時というとカストリ雑誌が乱立していた時期でしょうし、美少年の残虐な挿絵の冒険小説なんかが子供向けとして流行ってもいました。時代の混乱期ということもあり需要があったんでしょうねぇ。そういえば師事していた川端康成もかなりのロマンチストでしたっけ。
これが三島由起夫という男の代表作であることはある意味で非常に明快です。ここには後年の割腹自殺に至る経緯の根底が見えます。死の美学に魅入られながら怯懦に襲われていた男が自らの虚弱な肉体を改造し、ボディービルやボクシングなどであこがれを手にして理想へと近づいていき、理想とかけ離れていく国体を憂えて(自らは疑わず)義挙に走ったわけです。そういう青臭さが本作には有るわけですね。永遠の少年的な部分は垣間見えます。
ただ、名著というのは今の感覚では違うように思います。作者の原典であり半生記であるでしょうけれど一般には異論の方が強いでしょうから。
変態オブ変態、それが三島由起夫という男なのでしょうねぇ。
45点
なんか「文学の権威」に媚びた評価が多いような気がする。本当に面白かったのか?こんなカビ臭くしかもナルシシズムに傾倒した小説が。解ったフリをしている自分に酔っているんじゃねぇのかという疑問ばかりわく感想が多くてうんざり。だって「薔薇族」とか「さぶ」とか「アドン」的な内容だぜ?そこに面白さを持ちうる要素って普通無くないか。今日的美意識からすると相当に遠い場所にいる過去の人物だしな。

参考リンク

仮面の告白
仮面の告白
posted with amazlet on 06.02.21
三島 由紀夫
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