東野圭吾 予知夢

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あらすじ

  • 夢想(ゆめみ)る

輸入会社社長の娘の部屋にやってきた男を母親が猟銃で威嚇して追っ払った。男は逃走の途中で人身事故を起してお縄となったのだが、犯人の坂木信彦は変なことを昔から云っていたらしい。「自分は森崎礼美と結婚する」というようなことは今から十七年も前から言っており、当時の記録として文字になって残っていたし、家宅侵入を行った娘の名はなんと森崎礼美だったのだ。
坂木曰く何度も手紙を書いたところ一通返事が来たというのだが・・・。

  • 霊視(みえ)る

細谷忠夫は大学時代につるんでいた小杉浩一が長井清美と付き合いたいという事は呼び出された店で見せる雰囲気でよくわかった。清美はその店で働いていたのだ。しかし、細谷は小杉に抜け駆けをして当の清美と付き合い始めてしまう。その日清美と細谷は小杉にどうやって打ち明けるかという話になり、細谷の方から告げることになった。会うより電話と言うことで電話をかけてみるが出たのは小杉ではなかった。同じく大学時代の友人の山下で小杉に留守番を頼まれたという。閑でしょうがないので酒盛りをしないか?ということだったので細谷は帰宅するのではなく小杉の家に向かった。時間はたちまち過ぎていき、やがて山下は寝てしまった。そこで細谷は電灯を消してみたのだがくらくなった室内から外の窓に黄色い人物が立っているように見えた。黄色の服装は清美のトレードマークだ。外を見渡しても先ほどの黄色い人影はどこにもない。不安になった細谷は清美の自宅・携帯と両方にかけてみるがどちらもつながらない。細谷は更に同じマンションに住んでいる清美の同僚に電話をかけて清美を見に行って貰うのだが、そこで小杉とすれ違ったという。清美の部屋には鍵がかかっておらず中にはいると洗面所で倒れて既に死んでいた。

  • 騒霊(さわ)ぐ

草薙は非番の日、小汚い自宅で森下百合から電話を受ける。色っぽい話ではなく彼女は実姉なだけなのだが、彼女の友人の相談を受けて欲しいという。なんでも失踪事件らしい。相手が女性であるならば問題が無いどころではなく、進んで話を聞きたいところだが姉はこちらの心境を読んでいたかの如く、承諾を聞いてから言った。「失踪者は彼女のご主人よ」と。
よって草薙は騙された気分だった。若くて綺麗な神崎弥生という女性が相手でなければ非番をこんな事で潰すのは不本意だった。話を聞いてみると弥生の夫が失踪したのは五日前。健康器具メーカー勤務の夫は老人ホームやリハビリセンターの器具のメンテナンスにライトバンで飛び回っていたという。そうして八王子の老人ホームを出たのが午後五時でそれ以降の足取りは絶えてしまった。乗っていたはずのライトバンも一緒に消えてしまったという。しかし、一箇所弥生には気になる家があるという。昔浄水器の訪問販売をしていた頃に夫が親しくしていた府中にある独居老人の家だという。そこの住人の高野という老婆についても弥生は電話をしてみたらしいのだが、ちょうどその時当の高野の葬式の準備をしているところだという親類のものが電話に出てすぐに切ってしまったというのだ。

  • 絞殺(しめ)る

ヤジマの社長矢島忠昭が昔バブル期に金を貸していた相手から返して貰えると言って出ていったのは午後三時をまわった頃だった。娘の買い物に出たいのだがと言った貴子に忠昭は今日はやめておけと言ったのみだった。それでも貴子は四時に出ていき、帰ったのは八時を過ぎていた。
翌日になっても忠昭は帰ってこなかった。そうして午後までに帰ってこなかったら警察に連絡する・・・そう従業員と話をしたあと、皮肉にも当の警察から電話がかかってきた。

  • 予知(し)る

菅原直樹は懇意にしている後輩の峰村を自宅に呼び、会食をしていると不倫をしている瀬戸富由子から電話がかかってくる。富由子は不倫の関係が強くなってくるに従い段々と結婚の為の強権を発動するようになる。菅原の家のマンションの真向かいにある賃貸マンションに越してきた。
電話は丁度窓から見える場所からしていた。そして段々とヒステリックな調子を帯びていく富由子は死んでやる!という一言を残して首を吊ってしまう・・・。

感想

東野圭吾十五作目。本書は『探偵ガリレオ』に続くシリーズの続編です。この次が『容疑者Xの献身』ですな。
しかしまぁ、パワーダウンを感じる本ですねぇ。佳作は「絞殺(しめ)る」くらい。他は水準作ってレベルかと。本作では普通に草薙が「ガリレオ先生」と呼んでます。ただ、勿論普通の呼びかけは「湯川」のままです。二作目にしてようやく呼ぶってのもちょっとずれてる感じはするけど、一応収まりをつけたみたいです。
個人的にはシリーズなのにストーリー上でのお約束が文章ではほとんど無いので寂しい限り。「ロードスという島がある。」から始まる某ファンタジー小説みたいにお約束の文章がちょっと欲しいなぁ。京極堂なら「眩暈坂」の部分なんかが相当するんだろうけどそういうお約束は嫌われてるんかな。
とりあえず本書に限ってのお約束はタイトルの『予知夢』に沿った形で話がとりまとめられております。故に様々な不可思議を探求する姿勢が一つのものに絞った形になってしまって『探偵ガリレオ』の時のような色がそれぞれ違う感覚とは相成りませんでした。なんでこうなってしまったのかは不明ですが、正直不満です。尺が統一されてしまっていることからも商業的な香りがしてきます。
前作と同じく草薙がガリレオこと湯川に事件を話して解決して貰うスタンスですが、リアルさはどんどん失われていきますねぇ。まるで『名探偵コナン』的な週間殺人事件みたいな感じです。ただ、湯川の理系っぽくない人間くささはいいところです。
「例えば銃はガンロッカーで厳重に保管しなきゃいけないはずだし、実際に他人が手にとって発砲なんて銃刀法に違反しまくり」とか「警察の守秘義務が蔑ろ」とかはこの際置いておきましょう。リアルな実録物っぽいものをあてにしている人はやめておいた方が佳いかと。
でもいい部分もありますね。「探偵は犯人を暴いて罪を償わせる」というワンパターンにはまり込まない方が私は好きなんですよ。あまりにも強権発動になってしまうと独善的で不愉快になってしまったりするケースが有りますから。あくまで部外者の湯川はそのあたりをよくわかってますね。
軽い読み物としては最適。ただし、深い部分での何かを求めている人には向かない。浅いから夢中にはなれないかな・・・。ちょっと物足りない。
60点
『容疑者Xの献身』でガリレオシリーズに興味を持った人でも格別に読まなければ!と思わなくて佳いかもしれません。ミステリーを普段読まない人向けかと。ディープじゃないですしね。

参考リンク

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