殊能将之 樒/榁

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あらすじ

  • 樒(しきみ)

鮎井郁夫の未発表小説である『天狗の斧』が本編の内容。なお、劇中は一九八六年二月とのこと。
名探偵水城優臣とその助手鮎井郁夫はその前に起きた『紅蓮荘事件』で知り合った高見綾子に誘われて、彼女の実家が経営する温泉宿に逗留することになる。事件の直後に誘われていた経緯があったのだが、社交辞令だと二人とも思っていた。しかし、きちんとした手紙が届くに至って本気なのだということがわかり、厚意に甘えることにした。
行き先は香川県は飯七(めしがい)温泉だ。色々あって着いたその地はひなびた温泉宿と言えば聞こえはいいが、着いた先は閑散とした田舎宿だった。逗留客は水木と鮎井を覗いてはたった三人だけ。観光名所と呼べそうなのは崇徳天皇関係とされている天狗の逸話のみ。しかし、こんな何も起きそうもない場所でも事件が起こる。それは密室事件だった・・・。

  • 榁(むろ)

石動戯作は学生時代の友人に誘われて十六年ぶりに飯七駅のプラットフォームに立つこととなった。駅は閑散とした無人駅だったはずなのに遺跡が見つかったとかで一躍観光地化が図られたらしく現地は様変わりしていた。何より友人が婿入りした宿などは鉄筋コンクリートの新館が出来ているなど昔では考えられないほどの代わり映えをみて思わず時の流れの無情さを考えてしまうほどだった。
夫の友人ということだから無理に部屋を取ったと云わんばかりの女将は昔に比べると勝ち気になったような気もするが、戯作は一度しか合ったことがなかったのではっきりしなかったが、夫である平山次郎いや、今は高見次郎は尻に敷かれているのは間違いがないようだった。サービスして貰えるとあてにした宿代も当てが外れ、ちょっと落胆した戯作はこの旅館で十六年ぶりに起こった密室事件にぶち当たるのだが・・・。

感想

殊能将之五冊目。文庫判で読まれる方は『鏡の中は日曜日』で一緒になっているので分ける必要も微妙だったりします。てか、ノベルス判で読む意味は皆無ですから文庫判を手にすることを勧めておきますわ。何しろたった120ページほどで735円では割に合わなすぎますから。西尾維新の『ニンギョウがニンギョウ』ほどバカ高いわけじゃあないですが五十歩百歩ですしね。こんな薄い本を作るのには理由があったようです。講談社ノベルスが創刊20周年記念ということでメフィスト作家達に密室本を書かせたらしいのですが、清涼院流水が極太の糞厚い本を出したのに対比するように薄い本を出したみたいですね。木偏を取ったら密室とは考えても
なお、読むに当って絶対に守って欲しいことがあります。鏡の中は日曜日』の前に本書『樒/榁』を読まないこと。冒頭にいきなりネタバレが有りますので注意です。

本作は自作の本歌取り構造ですね。始めの短編「樒」と似た構造を後の短編「榁」で再現する。書く動機が『取材費を使って温泉に行こう』という物でなかったら褒められるんですが・・・、『鏡の中は日曜日』で味をしめたんでしょうね。おかげで水城の方の短編はその取材を生かそうと無理矢理に近い古典知識を詰め込んでます。いくらなんでも脈絡が・・・と思わなくもないですが、ここはスルーしていいでしょう。ほとんど意味無いですし、編集者への大義名分の為でしょうから。
鏡の中は日曜日』の中で出てきた過去の<名探偵水城優臣>を主人公とした鮎川が執筆したという作中作を実際に読者に提示していますが、果たして本作は読者サービスなのか、はたまた詰まった時用の命綱として残しておいているのか、そのあたりは微妙です。でも流石に洒落でやってるだろうと思うので、今後水城を主人公にした話は出てこないでしょうねぇ。詰まって作中作を書く可能性は否定できませんけど、ここ最近は訳書の『どんがらがん』出したぐらいで新刊出てないみたいですし。年一冊ぐらい書いて欲しいなぁ。
本作はインパクト勝負で云うと過去最低でしょうね。小さくまとまりすぎてしまって微妙でした。なんかいろいろと素人にはわかりづらい小ネタが沢山挟み込まれてるらしいですが、全くわかりませんでしたわ。精々わかったのは「樒」の方の鮎井と新鋭の推理作家のやりとりぐらいのもの。それも「なんか実在の作家と結びついて意味があるんだろうなぁ」ぐらいでそこに込められた寓意は計りきれませんでしたわ。
トリックスターぶりを期待する向きには向かないかと。やっぱりちょっとした読者サービス短編の域から出てない作品なんでしょうね。ま、「榁」の最後の最後で笑えたからいいんだけど。
45点

参考リンク

樒・榁
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鏡の中は日曜日
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