殊能将之 鏡の中は日曜日

ASIN:4061822225
ASIN:4062751194

あらすじ

「ぼく」というアルツハイマーの男がユキという女性に世話をされている。「ぼく」はユキを守るために男を殺した。石動戯作と名乗る男を。

二〇〇一年六月二十八日、石動戯作は殿田良武という零細出版社のエディターに調査を依頼されることとなった。調査の内容は十四年前の一九八七年七月に起こった殺人事件の再調査だ。梵貝荘という奇妙な名の付いた個人宅で起きた殺人事件故に『梵貝荘殺人事件』とあだ名されているのだが、珍しく戯作はそれを知っていた。何しろ鮎井郁介の著作である当の<探偵水城優臣>シリーズを戯作は愛読していたのだから知っているのも当然だった。そう、渦中の事件『梵貝荘殺人事件』は鮎井郁介の創作なのだった。戯作は鮎川の熱心なファンであった。当然渦中の事件も創作であるはずだったのだが、殿田は事実を話した。<探偵水城優臣>は実在すると。加えて今まで発表されてきた作品も事実だったのだ。
戯作は『梵貝荘殺人事件』を知っていた。しかし、この事件はきちんとした形で出版されてはいない。事件は解決をみて探偵は引退し最後の事件となるところまでは雑誌で連載されていた。それから長い月日が経っている。さて、何故出版されないのか?。それに対して殿田はある疑念を抱いた。そして一つの結論に達したのだ。この事件に関しては<探偵水城優臣>の推理が間違っていたという結論に。そうしてこの再調査という実力行使に出ることにしたのだ。未だ出版されていないのならば、調査をして新事実を発見し鮎川の本が出る前に世に出してしまおうという魂胆らしかった。丁度戯作は閑だったし多少面白そうでもあったので引き受けることにした。
そして殿田がアポイントを取った事件に関係していた人物に一人一人当ることになったのだった。この夏はうだるような暑さだった。二〇〇一年七月六日、調査はは鮎川の小説の視点となった田島民輔から始まった。

感想

殊能将之四作目。石動戯作シリーズ三作目です。本作は文庫落ちするときにノベルス判では別冊だった続刊の『樒/榁』と一冊になりましたが、私が読んだのはノベルス判でしたので一応分けることにしました。後ほどそっちの方にも手をつける予定です。
観光ガイドまがいのことをしているけどそこまでしないと取材費落ちないのかな。なんか椎名高志の『GS美神』で香港編やったときに無理矢理背景やらなんやらで観光名所を出しまくってたりして読者に「そこまでやらないと取材費でないんですか?」と聞かれたのを思い出しました。
相変わらず愉しんで読めました。石動が登場人物評から漏れていたので、私はてっきり別の名探偵が出てくるシリーズが始まったのかと思いましたよ。でも荘じゃなくて安心できたかというとさにあらず、そうそうに主人公である石動が殺されてしまうのだから驚天動地、ぐぐぐっとついつい引き込まれる形になりました。
当然メタの雰囲気がプンプンしていたのは言うまでもないわけですが、あんまりネタを割るのもアレですからここまでにしておきます。いやはや実に鮮やかでしたわ。先入観をガラガラとぶち壊す手法はシンプルにまとめて四段重ねですからそれぞれがドミノになっているとやっぱりわからないもんですね。それぞれは結構普通にあるギミックですから推理マニアな方には物足りないかもしれないけど、私には十分かな。そういえば作者の処女作以来初めてまともな本格ミステリーなんだなぁ。その為かもしれないけどどぎついルール違反は無し。今回はたった一点軽い違反がある程度かな。
ただねぇ・・・ノーマルサイドに戻ってこられても困るんだよねぇ、悪いけど。正直そっちに期待しているわけじゃあないし、それに言っちゃ悪いけど普通の本格って肌に合わないんだわ。トリック部分には多少興味があるけどキャラクターというか、登場人物背景の深みが薄いからさ。どうしても本格となるとトリック主眼で何故殺す必要があったのか?という部分は後付的に最後の最後で謎解きされるという展開が普通ですからね。だからどうしても敬遠気味になっちゃうわけで。その点社会派ミステリーはきちんとワイダニットから行ってくれたりするのでしっくり来ます。俗世にまみれてるって部分とおそらくはパズル解きの醍醐味が欠如しているので、社会派が本格原理派諸氏から敬遠されてるんでしょうけど、物語性の豊かさでは比較にならないですからねぇ。パズルとして愉しみたいというのは理解できますけどほとんどが「名探偵」という珍人種に依存したその場でのみ生存を許された人物造形だったりして萎えます。
とまぁ書いてみましたが、個人的なジャンル好悪は余人にはどうでも佳いことですね。
本作を読んで確信したのはやっぱり殊能さんの作品は好きってことですな。なんともえもいわれぬ好感を持ってしまいますね。ただそれでも今回はサスペンス性が高いとは言え、至近距離からショットガンでぶち抜かれるような激しいショックは無かったです。ということでそういう地雷っぽさが無くなったので普通に読める本にはなってるでしょうね。でも私はその地雷的な破天荒さに引かれている部分があるわけでちょっと残念。普通の人に薦められる標準作です。でもこれシリーズ作なんですよねぇ・・・。そこが薦める上で問題になりそう。特にこれの前作はほとんどの人にとっては地雷でしょうし・・・、中々に難しいところです。次作に期待しておくかな。
どうでも佳いことでしょうかが、今回は石動のコールポーター語りは無しでした。有るとうざいけど無いと寂しいってのも難儀だね。前回大立ち回りを演じたアントニオは完全な脇役なのがちょっと残念。もうちょっと出張ってきても良かった気はする。
80点

参考リンク

鏡の中は日曜日
鏡の中は日曜日
posted with amazlet on 06.01.28
殊能 将之
講談社 (2001/12)
売り上げランキング: 43,992

鏡の中は日曜日
鏡の中は日曜日
posted with amazlet on 06.01.28
殊能 将之
講談社 (2005/06)
売り上げランキング: 34,818