西澤保彦 彼女が死んだ夜

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あらすじ

浜口美緒が自宅に帰ると庭に面したダイニングで女の人が倒れていた。美緒の両親は丁度親族の不幸を弔うために出かけていたので家には一人美緒だけしか居なかった。美緒は明日から夏休みを利用したアメリカへの短期語学留学をする予定だった。両親は実に厳格な人物だった。語学留学そのものもその厳格な両親を長いスパンで説得しようやく手に入れた自由だった。なにしろもう二十歳になるというのに門限があって、しかもそれが午後六時とは小学生並の箱入り状態だっただけにあだ名が「ハコ」と付くぐらいだ。
その日、珍しく両親から羽を伸ばすことの出来たハコは学友達と居酒屋で呑んでから帰ってきたのだ。呑む理由は「ハコのアメリカ行きを祝して」であった。しかし、事態がこんな切羽詰まった状況ではアメリカ行きなどと悠長なことは言っていられない。
ハコは倒れている女性(三十代ぐらいの化粧の濃い身も知らぬ女)を何とかしなければならないとただそれだけを考えていた。ただ、自分でそれをやる気は毛頭無かった。生きてるか死んでるかわからない人間を持ち上げて移動させるなんてその手段もないしごめんこうむりたい。それに見ず知らずの人間がここにいることすらおかしいのだ。ハコは決断をする・・・自分に好意を持っている人物を利用することを。

一方飲み会のメンツは呑む趣旨の張本人が早抜けした関係で二次会は閑散とした物だった。メンツはたったの三人だけ、それも一人の自宅で行う小規模な物に落ち着いたのだ。現場にいたのは住居の主であるボアン先輩こと辺見祐輔、タックこと匠千暁、ガンタこと岩田雅文のみ。ついたそうそう男三人で呑みだしたのだがガンタが絡み出してくるに及んで電話が一本舞い込んでくる。宛先は主のボアン先輩ではなく何故かガンタで電話をしてきたのはハコちゃんだった。そしておもむろにガンタは席を立ち、非礼をわびて帰って行った。ハコちゃんから電話が来ること自体不思議な話だ。ガンタからかけるというならばわかるが・・・ということで狐につままれたような二人であったが、酒はあるのでガンガンと呑み進むことにした。ほどよくフラフラになった二人の元へ、今度はガンタから電話がかかってくる。車を持ってきて欲しい、という事だったが、場所はハコちゃんの家にということだ。勿論タックとボアン先輩は酒に酔っている。これで運転をしたら飲酒運転で捕まるのは目に見えているが、たっての希望なのでしょうがないとばかりにボアン先輩はタックを引きずりながら外に出た。ボアン先輩曰く一蓮托生なのだそうだ。タックは事故って死にたくなかったから抵抗したが無駄だった。が、家から出たボアン先輩はそこに止めてある自分の車を一眼だにせずにどこかに向かって歩き出した。タックは思わず車じゃないのかと聞いてみたのだが、ガス欠なのだそうだ。では一体どこに向かっているかというとガンタのアパートで、なんとボアン先輩はガンタの車のスペアキーの隠し場所を知っていたのだった。ボアン先輩は後輩の秘密を一杯握っているらしい。何しろタックの預金通帳と判子の事まで知っているというのだから恐ろしい話だ。
ガンタの車でハコちゃんの家に向かうと凍りついているガンタとハコちゃんが中にいた。皓々とあかりが庭に差し込んでおり一人の女性が倒れ込んでいる。死んでいるのかいないのか、それが問題だが車はこの女性を遺棄するために呼ばれたものらしい。警察を呼ぶべきだというごく当たり前の主張はハコちゃんに退けられて、逆上したハコちゃんは片付けてくれないと死ぬという。狂気血走った目は本気のようだ。だが、警察が現場の検証をしない限り下手をしたら決定的な証拠が損なわれて終いかねない。ボアン先輩はなんとかなだめて警察を呼ぼうとするがタックはもしも警察が事件を解決できないようならば、自分がそれをするとして遺棄することを認めてしまう。結果としてその女性の身体はガンタによって遺棄されることになった。そうしてタックとボアン先輩はボアン先輩の家で呑み直すことにした。
翌日ボアン先輩のうちにやってきたタカチによって二人は起されることになる。時刻は既に午後の五時をさしていて夕方だ。タカチは朝刊と夕刊を携えていたので飛びつくようにして昨日の事件の報道を見た。実に大きな事件として報道されていたので二人はちょっと気まずかった。しかし、そこにいるのがタカチだということを失念してしまっていた。
「どういうことなのか、ちゃんと説明してくれるわね、全部?」
そう問われた二人はペコちゃん人形のようにカクカクとうなずいていた。

感想

西澤保彦三冊目。今度こそタックシリーズの始めから読むことにしました。同じ過ちは犯すのもあれですしね。一応時系列が書いてあったのでメモ的に。

  • 彼女が死んだ夜
  • 麦酒の家の冒険
  • 仔羊たちの聖夜
  • スコッチ・ゲーム
  • 依存(読了済み)
  • 本書の文庫本が出た時点では未定(卒業編)
  • 解体諸因

ということらしいです。『謎亭論処(めいていろんど)』『黒の貴婦人』がどこにはいるかは読み進まないとわからないですな、こりゃ。
まぁ、今まで読んできた作者の作品の方向性からはずれていないしごく期待通りの作品でした。視点は基本タックで、愉快な仲間達が四人ってのは先に『依存』読んじゃったからしょうがないんですけどね。『依存』に出てこなかった人物に注目してなんの先入観にも囚われない読み方が出来なかったのはちょっと残念ですが、この際うじうじ言ってもしょうがないです。はぁ、あと三回もこんな思いするのか(ため息)。
それはさておき、本書は中々評判のいい物みたいですね。本格ファンにも物語を愉しむ人にも勧められているようです。本格の方については文庫版の解説を書いている法月綸太郎のいうクレイグ・ライスというアメリカの作家からのオマージュのようなので知っているとなお愉しめそうですが、私はそこまで手が出ていないのでよくわかりませんでした。物語を愉しむ向きに関しては四人組の良さはすぐにわかると思うのでここで記すべき事は何もないかと思われます。しいていうならばボアン先輩とタックが出張りすぎてタカチとウサコの出番が少ないのが問題かな。ウサコはほんとに脇役扱いだし・・・。
参考のために他の人の評を眺めてみましたが、褒める意見が大半を占めていて、私はそこに違和感を覚えました。だって本当に気持ち悪くないのかなぁと思ったんですよ。本書は叙述の部類だと思います。都合のいい勘違いが三度も起きるのはちょっと不自然じゃないですか?いくらなんでももっと早い段階で気がついてもいいのではないかと思うのです。まじまじと見る機会は三度ともあるわけですし、加えてうち二回はよく知っているはずのことを偽っているわけです。でも、その偽りは本当によく似ている贋作を作ろうとする類の物ではなく、真作を別作に変えるぐらいの物であって、見破る以前に雰囲気なり大きさなりで気がつきそうなものだと思うんですよ。あんまり詳しく書けないのでネタバレの方へ追記しておきますわ。
えっとあとは構成の問題かな。といっても、好みの問題だから気になるかどうかは人によるだろうけど、その場面ではわからないことを先にばらすのはやめてほしかった。最後は驚愕でシメたいんだろうけど、それならば未消化のまま次作持ち越しでもよかったんじゃないかな、シリーズものなんだし。最後にドンデンを持ってくるなら適当な解法編が出来ない状況だろうからそれも一つの手だと思うわけですよ。でも、未完成と見なされてしまうかもしれないなぁ。でも私は未完の大器的な伏線引きまくりで解答無い類の本は好きだったりするから許せちゃったりするけど、フェアだとはみなされないだろうね。そこが問題だわな。
最後に気になったのはウサコのキャラ設定か。どうも『依存』での視点がウサコであったためになんか違和感があるんだよね。本作でのウサコは典型的なバカキャラというか、お調子者のキャラクターという位置付けに対して、『依存』では理知的で内罰傾向の非情に強いキャラクターという真逆の立ち位置にいたりするからしょうがないんだろうけど・・・。それに本作では完全に居ても居なくても良いキャラクターだしねぇ。絡むのは一点だけだし。
読みやすさは薦めやすさにも繋がるからいいんだけど、叙述部分がマイナスかなぁ。もしかしたら枝葉に拘ってるだけなのかもしれませんが・・・。
65点
とはいえ、シリーズものですから読んでおいて損はないかと。
蛇足:ハコちゃんの両親とその友人達の秘密のパーティーの様子が読んでみたいです(藁
追記:映像化は恐らくほぼ無理。小説でしかできないネタだと思われる。

参考リンク

彼女が死んだ夜
彼女が死んだ夜
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西澤 保彦
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ネタバレ

未読の人は読まない方がいいかと
上の最新の日記から戻ってくださいな。



























































































というわけで勘違いについてです。タック達は三度も勘違いしているわけです。ガンタは兎も角としてタックとボアン先輩が勘違いしているのはどうにも微妙なんですよね。まずハコちゃんの家にあった女性の死体だか気絶体だかのもの。三十代ぐらいの女性と二十代の女性は間違いようがないと思うんだよね。しかも似顔絵が公開されてるのに気がつかないとかちょっと不自然。ただ、後に暴行されたようだから顔の形が多少変わっててもしょうがないかとも思うけどね。
二番目はいくら格好を変えたからといってよく知っている人物が髪染めた、髭をつける、声をしゃがれさす、グラサンかけるぐらいでばれないものなのかな?体格とかでわかりそうなもんだけどなぁ。
三つ目は一度実際に見ている女性をもう一度見て違和感を覚えないんだろうか?という点。もう一度というか二回見ているのでそれはなおさらか。
これらがあるからこそ事件が解決したといえるけれど、でも気がつくタイミングが遅すぎはしないかな。もっと早く気がついても良さそうな気がするんだがなぁ。ここが私は気になってしょうがなかったわけです。わりと細かいところを気にする本格好きの人が気にならないのはなんでかとっても不思議なんですけど・・・叙述であると割り切ってるからなのかな?