リリー・フランキー ボロボロになった人へ

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あらすじ

売れ残ってしまった38歳のキャリアウーマンの多恵子はもはや結婚を恋愛に委ねることに諦めることにした。だが、結婚を諦めたわけではない。"お見合い"なんて十年前の自分には想像も付かなかっただろう。だが、状況はそこまで来ていた。相手が誰だろうと構わない。そこまで切羽詰まったのだった。
東京から三時間近く電車に揺られたどり着いた先、そこが見合い相手が待つ場所だった。相手は農家の長男で、東京の大学を出てから親の仕事の手伝いをするために戻ってきたのだそうだ。
うら寂れた無人駅でぽつねんとしていると迎えに来た人物がいた。見合い相手の父親だった。着ている服はみすぼらしい物だったが、何故か乗ってきていた車はランボルギーニだった。

  • 死刑

未来世界の刑法は実に簡略化されるに至った。すなわち、死刑のみである。あらゆる犯罪、微罪についてもすべては死刑なのだ。そうなると裁判の意味も変わり、どんな死刑方法であるかが問われるようになる。
そう、「どんな死に方」でもいいなどとは言っていられない。それはあまりに軽率きわまりない発言なのだ。どんなに変態的で猟奇的でもそれをこなさねばならぬのだ。
「早く殺してくれ!」と絶叫する声を聞いた弁護士はその気持ちを新たにした。自分が弁護を担当する人物を気持ちよく死の世界に誘うために・・・。

  • ねぎぼうず

女はセックス依存症だった。手当たり次第、相手構わずやりまくった。
二年後、結婚した。それ以来貞淑な妻を演じ続けることに腐心していた。
そこへ男がやってくる。かつて女と関係を持った男の代わりに女を捜してくれという依頼を受けた探偵だった。
探偵は男から渡されたという写真を女に見せる。
「これ、あなたですよね? 岩崎さん?」
そこにはあられもない格好をした女の裸体が男と繋がっていた。
探偵は言う、依頼人はあなたの身体が忘れられなかったそうですよ。身体には相性って奴があって、依頼人も結構な遊び人だったそうですが、あなたとは格別な何かがあったって。

  • おさびし島

男は何もかもがイヤになった。そして東京を離れた。すべてを捨てることにした。世間的には蒸発という奴だ。
後悔はしていない。携帯も捨てた。
そして九州の片隅にある離島へと男はたどり着く。
そこは男錆詩(おさびし)島というまったく文明の香りのしないなんにもない島だった。島に一軒しかない居酒屋のボロ宿へ転がり込んだ男はその島で白痴の娘と出会い、唐突に性交渉を結ぶ。

  • Little baby nothing

夢も希望もないないづくしの現代の申し子のような三人の男達、ツヨシ、修、孝康はファミレスでだべった帰り道で天使のような女をゴミ捨て場で拾う。
三人は彼女と再会するために少しでも自分を磨こうと足掻くのだが・・・。

  • ボロボロになった人へ

死にかけでも死にきれないという話

感想

リリー・フランキー初読み。『東京タワー』でちょっとした話題をさらってる作者なので、まずは小手調べと思い、読むことにしました。
ただ、変態さ加減の独特性と性欲に傾いた掌編ばかりというのはちょっと予想してませんでしたね。TVでみるとただのオッサンコメンテーターでしかないわけですよ(ココリコミラクルタイプ)。寸劇に一言交えるぐらいのなんでこの人ここに居るんだろう?って類の。ラジオの方は喋らなきゃいけない仕事だし、きちんと聞いたのは一遍だけだけど妙に緩い番組だなぁという感想ぐらいかなぁ。自分は相当の変態だ、とアンニュイにいうキャラクターの内面に迫るほど私は作者の何かを知っているわけじゃないんですけどね。
掌編の内容と題材を鑑みると類似する作家は石田衣良かな。石田衣良よりももっと茫洋としたおおらかさを持っていて、加えて変態想像力が加わってるって感覚。どこにも力が入ってないように感じるね。佳い意味でB級文化人ですなぁ。
でも性欲に忠実なのはいいんだけど、正直興味ないわ。ラブストーリーには火傷気味なんでね。エロスの追求とかならまだおもしろそうなんだが、都会から廃残していく者達を扱った一様な物語形成にはあまり面白味がないし・・・。深く掘り下げる方向には決して向いてないよね。物語の軽さが読みやすさを促進してるけど、好きだと思えない人の場合は手の中の砂ようにこぼれ落ちていっちゃうよ。
正直もっと過激か、感動方向の物語作りをする人かと思ってた。まぁ、無駄に大量生産そして消費される類の人じゃないのはよかったけどね。
「死刑」のような過激さを持った話ばかりを書いて欲しいなぁと思った次第。あとは冒頭の「大麻農家の花嫁」ぐらいかな、面白かったのは。落語とかショートショートのようなオチ待ちな話で恋愛をぐちゃぐちゃと持ち出さないのに好感。あと設定がかなり飛んでるしね。ここまで過激だとある意味そんけーするわ。
でも本としての全体の出来は決してよい物だとは言えないと思う。内容からして女性向きっぽいな。
50点
とはいえグロテスクで気持ち悪いって人が結構居そう。
でも全体的にはもっとパンチがあってもいいかと。本あまり読まない人にとっては読みやすいのがいいんだろうけどね。

参考リンク