東野圭吾 探偵ガリレオ

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あらすじ

湯川学:帝都大理工学部物理学科十三研究室の助教
草薙俊平:帝都大学時代の湯川の友人。現在は警察官をしている。社会学部卒。

  • 燃える(もえる)

閑静な町のバス停のベンチは格好のたまり場となっていた。バイク乗りの若者達はそこで周囲の迷惑を顧みずに騒いでいたのだが、唐突に若者のうち一人の頭が炎上する。しかも近くに石油の入ったポリタンクがおかれていたため、その場にいた残りの四人も軽傷を負った。その後頭が炎上した被害者は死亡した
事件を調べていくと当夜赤い糸が目撃されており、死亡した被害者は後頭部から炎上していることがわかったのだが・・・。

  • 転写る(うつる)

中学生の山辺昭彦と藤本孝夫は二人して趣味の釣りに出かける。藤本は友人から聞いた情報で自然公園にあるひょうたん池にやってきていた。ここで鯉が釣れるという情報だったのだが、一向に釣れない。担がれたかと思った二人であったが、鯉じゃない奇妙な物を手に入れた。
草薙は姪っ子が文化祭で舞台に立つということでカメラ係を姉から頼まれて引き受けた。舞台の撮影は終わり、フラフラと時間つぶしのために訪れた「変な物博物館」という展示物を見て回ることにするのだが、そこでとんでもない物を発見してしまう。職業柄よく見て知っているから断言できるが、死んだ人間の頭をかたどった石膏像、所謂デスマスクという奴だ。嫌な予感はあたり、そのデスマスクめがけて人がやってきた。
「兄さんよ、間違いない……」
そう女性は絞り出すように言った。事情を聞いてみるとこの石膏像の人物は失踪しているそうなのだが・・・。

  • 壊死る(くさる)

内藤聡美は自堕落な女だった。周囲の人間に借財を作り、放蕩を続ける。その為に面はOL、裏は水商売の商売をしていた。今彼女は困っていた。金を借りている男の愛人をしているのだが、同居を迫ったりしてきている。奥さんは既に死んでいるから問題ではないが、相手の歳や容姿は結婚を考えられる類の物でなかった。そんな彼女は胸の内を面の顔のOLの方で吐露してしまう、たった一度だけ寝ただけの田上という男に。田上は聡美に勘違いをして結婚を前提にした付き合いを望んでいるのだが、聡美は田上を屁とも思っていなかった。勿論田上にしたって聡美は金を貸りている。愛人をしている男ほどに金を返してから別れろというせせこましいことはいわないのは田上が聡美に惚れているからだった。聡美はいう、「私のために人を殺してくれる?」と。
その場では言葉に詰まった田上だったが、死因の特定できない殺し方を勘案し聡美に提示したのだった。もちろん田上にはそれで聡美との結婚の道が開けると思ったらしいが・・・。

  • 爆ぜる(はぜる)

湘南の海で爆発事件が起こり、帝都大学の職員が一人死亡した。それと連動するように、帝都大学の卒業生の一人が自宅で死んでいるのが発見される。それぞれの事件は関連があり、卒業生の方の被害者は最近勤めていた会社を辞めていた。その会社はニシナ・エンジニアリングという工業系熱交換機まわりの配管設備を製造している会社なのだが、それが事件に繋がっているのに気がつくのは相当後のことだった。

  • 離脱る(ぬける)

腐敗臭で管理人に通報が行き、てっきり長期旅行をするのに生ゴミの処理をし忘れたせいだろうと高をくくった管理人が発見したのは住人の死体だった。扼殺されたようだが腐敗の進行が酷く、酸っぱい匂いが死体を見慣れているはずの捜査員をえずかせる。手がかりと言えそうな物は状差しにあった保険外交員の訪問を告げる名刺ぐらいの物だった。
一方、とあるフリーライターの病弱な息子が幽体離脱をしてその事件を見た絵を描いたという話がマスコミを賑わしていた。警察にはそれが証拠となりうるだろうと数々の苦情が寄せられるようになる。確かにその子供がいた部屋からは現場は見えないはずなのだが・・・。

感想

東野圭吾十三冊目。実に久しぶりですね。本書は第134回直木賞を受賞した『容疑者Xの献身』の前の事件を取り扱った探偵ガリレオこと湯川学とその湯川に事件を持ち込む草薙俊平のシリーズの第一弾です。まぁようするに『容疑者Xの献身』を読もうと思っているので、まずシリーズの頭から読もうと思い立ったわけです。
読み始める前から思っていたのは「何故ガリレオなのか?」という疑問でした。でも結局本書を読み終えるまでにその理由は特に明示されませんでしたわ。ガリレオというあだ名さえ警察関係者が草薙が外部の湯川に情報を漏らしていることを揶揄する時に「ガリレオ先生から何かないのか」とただの一度(思い違いしてるかもしれないので数度かも)言われているに過ぎず、名前の由来は一般的な方向から想像するよりないようです。通常ガリレオという言葉の語感から生まれるのは「ガリ」という部分の痩せているという想像でしょうかね。でも実際の所運動神経が良いとかいう特徴が出てきているため、痩せていたとしても「ガリガリ」というのは当らないでしょう。「ガリガリ」ってのはしなやかな筋肉が付いてたら普通使わないだろうし、骨張ってるイメージがあるしね。だとすると「ガリレオ・ガリレイ」という著名な天文学者の方に向かう以外に説明は付かないだろうと思われます。「ガリレオ」は天文学者であって、湯川は物理学者ですが、天文物理学という物があるぐらい近しい間柄だったりします。しかもガリレオ天文学の方が有名ですが、物理学者・数学者でもありました。数々の実証実験を行ったりしたようです。ピサの斜塔から球を二つ落としてみたりする話*1が一番有名でしょうか。恐らく物理学者の先生ということからガリレオという事になったんでしょうけど、ニュートンだとかコペルニクスとかが選ばれなかったのは天文学や数学などが身近ではなく、感覚的に分かりやすい実験の記録があまりないのが原因なんじゃないかなぁ。とはいえ、ガリレオ天文学者の方が有名で、あの有名な実験も実際には行われなかったらしいところからして微妙なネーミングですな。ガリレオというと有名な宗教裁判の最中に「それでも地球は動く!」だか「それでも地球は回っている!」だがいうのがありますが、これも実際にはなかったことのようです。頑迷さを出すためにガリレオというネーミングにしたにしては湯川は随分のさっぱりした性格のようですし、なんか納得がいかないけれど、あんまり拘ってもしょうがないか。
まぁ、なんでこんな長々しい前ふりをしたかというと本書の探偵役が科学者であるということがポイントなんですわ。ワトソン役の草薙刑事が科捜研に頼むわけでもなく、あくまで一般人の友人に事件のヒントを貰おうとする話なんですな。そういう意味ではリアリティがどうのという話ではないんで気になった方、そこはスルーで。守秘義務は解決すりゃあどうでもええんじゃ!!とかいうスタンスの方はそもそも気にならないかな。ミステリーとしては薄口でライトな感じだけど、科学捜査を全面に押し出した本ってのはあんまり多くない*2と思うので中々軽快で良いわ。ただ、じっくり重厚な物を読みたい人には勧められんわな。
ああそうそう、東野圭吾というと何とも言えぬ齟齬のような昏い感情がワンセットになってることが多いけれど、これは違いますね。陽の方向だけ見ている、事件の解決だけしている、そんな印象でした。故にいやーな気持ちになることは少ないかと。そこに物足りなさを覚える人もいるかもしれないけど、そういう人は他の本を読むことを進めておきます。『殺人の門』とか『片想い』とか。なお、語り口の平易さは『おれは非情勤』に近いかも。そんなわけでなんとなくジュブナイルな雰囲気を醸し出している気がしてしまいますわ。理系ミステリっぽいとか思って蘊蓄を期待している人が居るかもしれないけど、それもなし。だからかな、ジュブナイルくさいっていのは。
そういえば電気系の技術者だった筆者が物理現象を主体とした科学物を書くっていうと『天空の蜂』を思い出しますな。本作にもそれと被るネタがちょっとだけ出てきますけどあんまりピンと来ないかもしれない。
小耳に挟んだのだが、本作の主人公湯川助教授を俳優の佐野史郎をイメージしているとか。軽快にバトミントンを楽しむ佐野史郎・・・言っちゃ悪いけど想像付かないよ。でも無愛想な象牙の塔の住人っぽさはあるわな。映画の『感染』で白衣来てたけど必要以上に似合ってたしね。
あとはそうだな、トリックとかか。二番目の「転写る」は確率だからなぁ。ご都合主義が透けて見えるようであんまり好きではないかな。現象の方を思いついたから書いたように思える。うーんそんなところかなぁ。特にこれ!っていう話がないんだよねぇ。
悪くないんだけどちょっと物足りないかなぁ。こういう科学トリックが実験みたいな話はわりかし好きなんだけどね。サラサラッと読んでみて下さいな。
70点。

参考リンク

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*1:これは弟子のヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニが創作した話で実際には行っていないらしい

*2:監察医が主人公のドラマとか科捜研が舞台のドラマとかは一応あるけどね