島田荘司 占星術殺人事件

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あらすじ

占い師で偶に探偵として活動している御手洗潔とそのボランティア助手をしているフリーターの石岡和己の元へ一人の婦人がやってくる。当然御手洗の占星術の客だと思ったのだが、探偵活動の方の客だった。女性の名は飯田美沙子、彼女は四十年も前の迷宮入り事件、通称占星術殺人事件を解いて欲しいとやってくる。
占星術殺人事件とは梅沢平吉という画家が描いた絵に描いた餅だ。この画家は「アゾート」なる理想の女性を求めて占星術を背景とした小説を書き、雪の降る日に殺された。アトリエはカバン錠が内側からかかっており、地面の足跡は女性のものと男性のものの二つがあって、入り口は一つだけの状況から密室となっていた。しかも被害者の梅沢平吉は死の直前に睡眠薬を飲んでいたという。死因は頭部への打撲、脳挫傷だったという。
平吉の死後、なおも殺人は続き、その長女の一枝が自宅で殺されているのを発見されるが、これはまだ口火だった。後に平吉の残りの娘四人(知子・秋子・雪子・時子)と平吉の弟である梅沢吉男の娘二人(礼子・信代)が相次いで殺され、バラバラ遺体が全国各地に六カ所に捨てられるに及び、この事件は占星術殺人事件と呼ばれるようになった。戦前に起きた事件であり、犯人が一向に確定せず、謎に包まれたまま素人探偵諸氏を悩ませ続けて四十年が経過している。アゾートを制作する平吉が書いたとされる小説と一連の殺人事件がダブるために、最初に殺された平吉が身代わりを立てて生きているのではないか?等と囁かれるほどの事件である。四十年という月日は様々な仮説を生んだが事件は袋小路に陥ったまま決して解かれることはなかった。
ところが御手洗の所に来た飯田美沙子という女性の持っていた小冊子、美沙子の父竹越文次郎が書いたものによって新たな事実が判明したのだ。文次郎は家路への道で一枝を見つけ、介抱するために彼女の家に上がったが、そのまま男女の仲になったというのだ。一時の気の迷いであり、明かりもつけずにそのまま立ち去った文次郎を待っていたのは翌々日の訃報であった。その女性が死んだというのだ、しかも丁度文次郎が家を訪れていた十分ほど後に死んだという死亡推定時刻までが割り出されていた。戦々恐々としている文次郎の元に「雉機関」を名乗る郵便が届き、文次郎が一枝殺人犯であることを知っているとほのめかしてきた。しかし、この秘密機関では現在厄介なことに支那スパイの死体の処理に困っているのでこれを片付けてくれれば口を閉ざしておこう、と書かれていたらしい。らしいというのは、「読んだら燃やせ」という指示があったためで文次郎の記憶に基づく情報だからだ。文次郎は警官であり、普段から無遅刻無欠勤な人物であったことから一週間の休暇が簡単に取れ、すぐに計画に移ったらしい。土建屋から車を借りて、ガソリンと食事を用意し、スパイだと思っていた死体を順番通りに所定の位置、所定の深さに埋めていった。以来死ぬまでこの事実を文次郎は黙っていた。美沙子は文次郎の名誉挽回のためにも事件を解くことが重要だと考えていたらしい。そこで口が堅そうな御手洗の所へ来たというわけだ。
果たして四十年間も解かれることが無かった謎は解けるのだろうか?

感想

島田荘司初読み。「しょうじ」ではなく「そうじ」って読むんですね。しかしまぁ、沢山いろいろ同じ本で出ているもんですねぇ。一番始めが1984年らしいので既に約22年前ですか・・・、流石に二十年以上前って事になると古典の域ですかねぇ。本格を読む人の見解としてよく出てくる、面白い本格推理小説に数えられる本書ですが、実際の所どうだろうと思って読み始めました。
初っぱなから作中作的な小説の引用から始まります。旧仮名遣いが現代仮名遣いになっているので読みやすいはずなんですが・・・なんか激しく読み辛かったです。序盤はページが減るのに時間がかかってしょうがないってのもありました。
故に読み始めてすぐに合わないことがわかってしまったのでした。難物だなぁと思いながらえっちらおっちらページを進めていけばいつかは面白い場面に出会える、そう思わなければすぐにでも投げ出したくなるようなそんな出だしでした。
ストーリーは事件にまつわる三つの書物から現代にリンクしています。基礎的な情報から四十年にわたる長期の間にどのような推測憶測がされたのか?そして凍結された謎はどう解くべきなのか?本書はそれらを探る物語なのだと言えます。いやまぁ推理物だから当たり前の話なんだけどね。
それはともかくとしても書物、物語としては少々情報が込み入りすぎているように感じました。行間の間が存在するところには存在しますが、存在しないところでは圧縮された書庫のように滔々と情報が羅列されてしまっています。どうにもそのギャップが激しすぎるように感じました。このギャップが読んでいて疲れてしまう原因の一つであるのはほぼ間違いがないと思います。もう一点「合わない」と感じた原因の一つにらアームチェアディティクティブ(安楽椅子探偵)的な要素があります。本作で初めて安楽椅子探偵が推理する小説を読んだのだけれど、思ったよりも厳しかった。描写で考えると、探偵とは別の人物の感覚を介して状況証拠は集められることになるわけで、スイッチの切り替え的にそれだけでわかるというものでもないっぽいのに何故か解かれてしまう点に納得いかない。それになんか二度手間な気がするし、感情移入はしにくいし個人的に散々。なんか数学の証明問題を解いている気分になっちゃうんだよね。
でも、これらは前半部分だけである、ということに気がつけば気にならなくなります。御手洗と石岡が京都に行って以降が本当の始まりですわな。これ以降はなんとも人間くさいキャラクターの煩悶や懊悩を楽しめるようになります。趣味が悪いって?いやいや、こういうのがなければ物語を楽しむ意味が無くなりますからねぇ。しかしまぁ、世の探偵キャラクターの悩まないこと悩まないこと。むしろ悩む探偵キャラクターの"御手洗潔"が特異な存在なのかもしれないけどね。秘密主義者で奇矯な人物で怠惰、ポー以来の伝統だわな。とは言え「単に鬱な気分」と「病気としての鬱」を同レベルでごっちゃに語っちゃってる所は明らかに作者の瑕疵かと。まぁ時代が時代だからわからなくもないけど・・・。
後半作中にホームズネタが飛び出してきます。御手洗はホームズを「麻薬でやられた患者の妄言を書きつづった小説」とこき下ろします。ホームズを嫌いな人は結構居ますけど、実際にこき下ろす言質は少ないように思います。よっぽど作者は思い入れがあるんでしょうね。これはなかなか珍しい光景と思います(あくまで主観)。ただ、ホームズは古今東西でネタにされるような有名キャラクターだから今更過ぎるのは百も承知。たまたまなんでしょうな、こき下ろされる場面を経験してないのは。あるいは単に忘れて言うだけかもしれないけど・・・。
ま、あまり内容とは関係ない話ですわ。でも主人公の御手洗潔とボランティア助手の石岡和己の関係って明らかに典型的ホームズとワトソンのペア関係なんだよなぁ。屈折した愛情なのかもしれない。
前半の評価は辛くなっちゃったけど、読後感はそこまで悪くなかった。やっぱりどこか癖のある文意には慣れなかったのが心残りと言えば心残りかな。面白いことは面白いけれど全編通して面白くはなかったからなぁ。絶賛するほどではないかと。
70点
蛇足:読者への挑戦ってエラリー・クイーンの国名シリーズでやってたんだねぇ。

参考リンク

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