蘇部健一 六枚のとんかつ

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あらすじ

保険調査員小野由一とその友人で推理小説家の古藤、太めで食いしん坊の後輩早乙女の織りなす不協和音なコメディミステリー

  • 音の気がかり

ある富豪の子息の誘拐があり、富豪が誘拐保険に入っていたので小野はかり出されることに。警察に届けることを拒否した富豪を尻目に、小野は脅迫電話の背景に聞こえる音を頼りに犯人を特定しようとする。

  • 桂男爵の舞踏会

男爵いもで儲けたから桂男爵と呼ばれる富豪の妻のブルー・サファイアが舞踏会で忽然と消えた。小野は舞踏会中に宝石から目を離してはいけないのだが、ついよそ見をしたその隙に消えてしまったのだった。

  • 黄金

都内の宝石店で時価数千万円の金の延べ棒が盗まれた。犯行から容疑者がわりだされ、すぐに犯行を自供したが、肝心の金の行方はようとしてわからなかった。案の定宝石店は保険に入っていたので小野が解決に乗り出すのだが・・・。

  • エースの誇り

ある男の大切にしていた時価一千万円の切手が盗まれた。犯人は男の愛人なのは状況から見て明白なのだが、男が愛人の部屋を徹底的に調べても見つからない。小野は後輩の早乙女と共に海外旅行をしている愛人宅を捜索する。

  • 見えない証拠

湘南の海岸で殺された女子高生。陸上選手で砲丸投げを自主練していた最中に殺されて、保険がかけられていたダイア入りの十字架が盗まれたのだ。被害者はダイイングメッセージを残っていた。

  • しおかぜ17号四十九分の壁

保険金殺人らしいものが起きたのだが、容疑者にはアリバイがあった。早乙女の代わりに小野が解決しようとするのだが・・・。(挿絵)

  • オナニー同盟(文庫版のみ収録)

自宅で刺された父親を見つけた息子、父親には生命保険がかかっていた。奇妙なことに被害者は刺された後に台所の冷蔵庫の所まで来ていた。どうやらダイイングメッセージらしいのだが・・・。

クイズと事件、似たような内容で片方が解けた後にもう一方が解けるようになっている。A地点からB地点へ地下道を目立たないように移動するというものなのだがどうしても七十秒足らない。

  • 欠けているもの

美術館から盗み出される所の彫刻をなんとか未遂ですませる話。

  • 鏡の向こう側

高額な生命保険の受取人となった男、死んだ女性は一人ではなく二人で、しかも外にも受取人となっている被保険者がいた。保険がかけられている女性達はみなその受取人の男の愛人で、男にはアリバイがあった。残り一人の殺害をなんとしても止めねばならない・・・。

  • 消えた黒いドレスの女

小野は金持ちの叔父の八ヶ岳にある山荘へ古藤と共に訪れていた。そこのタイミングで叔父は死ぬのだが、少し変だった。死ぬ直前に一緒に呑まないかと誘いに来た小野が見たのは叔父が女性と一緒にいるところ。死ぬ直前には部屋には嫌な匂いが立ちこめ、銃声のような破裂音が聞こえた。一体何があったのだろうか?

  • 五枚のとんかつ

占星術殺人事件』のトリックを使った話

同じく

事件とは全く関係のない話。

  • 最後のエピローグ

「しおかぜ17号四十九分の壁」のてんどん(ネタの繰り返しのこと)

  • (ボーナス・トラック)保険調査員の長い一日

写真のアリバイを暴く話。

感想

蘇部健一の蘇部は「そぶ」と読みます。「そべ」や「あざぶ」、「あざべ」じゃないです。本作は第3回メフィスト賞を受賞してます。そう、またメフィスト賞がらみです。だってしょうがないじゃないですか、まだ受賞作を全部読み終わってないんですから。
さて、冒頭の掌編を読み始めてすぐに「なるほど、こりゃあめたくそにこき下ろされるのも無理はない」と非難囂々な理由が把握できました。何しろ大半のお客はミステリーを求めて読み始めるだろうからね。それでも一応出身がメフィスト賞だから気構えは出来てなきゃ駄目だと思うわけですよ。予想の反対側だとしても起こるのは筋違いというものだろうしね。何しろ清涼院流水のあとですから・・・。
ま、有り体に言うならば本書はアンチ推理小説のユーモアものとでも言えば佳いんだろうかな。私はバカミスがどういう定義なのかいまいち理解していないのだけど、バカミスとの違いは推理そのものをネタにしてしてしまうか否かで判断できると思う。推理という行為は神聖不可侵な存在であって馬鹿馬鹿しい結論が出ても、きちんと論理が噛み合えばバカミス、推理そのものもネタに使ってしまうのがアンチミステリーで蘇部ユーモアミステリーなのではないかな。
本書の既定路線はユーモアだ。だが、そのレベルは決して高いとは言いかねる。わざとらしすぎるから気になるのだと思うのだがどうだろう。ほとんどの読者は作者の意図を把握しつつ、オチを先読みする。だから笑いといっても意外性ではなく予定調和で笑う吉本新喜劇的な物になるわけだ。しかし、これを読む人はほとんどが蘇部健一という作家の書いた小説にまみえるのは初めてのことだと思う。ということは共有するバックボーンは広いわけではないわけだ。畢竟高度な笑いというものにはならずに低俗に走るのも致し方がない。ただ、ミステリーを求める読者はその様なものを読みたくて読んでいるわけではないだろう。その方向性は正統派ミステリーの意外性を見据えているのだろうから、噛み合うはずもないのもまたうなずける。
故に「バカミスですらない」という点と「くだらなすぎる」という点の二つからミステリー愛好者からバッシングを受けたものだと推測される。アンチミステリーとしては草分け的な存在である清涼院流水御大と違って毛嫌いされるのも、振り切れ方、突き抜け方が中途半端であり、随所に下ネタを仕込んでいるからではないだろうか。突き抜けて否定的なものとやや否定的なものでは評価もまた変わってくる。正面から比較すること自体がナンセンスなのは百も承知であるが、かといって比較対象が出来る手ごろな本を私がほかに知らないのだから致し方がない。
そういう意味では新しい部類のミステリーなんじゃないかな。でも私が知らないだけな気がするけどね。特に有名作家の自作パロディとかでやってそう。
私はくだらない低俗な笑い(褒め言葉)は大好きなので、これからもめげずに頑張って貰いたいものです。
あと、本作は三種類でていますが、私が読んだのは文庫版です。文庫版の方が改稿されていたり、新たに追加されたエピソードがあったりと手が入れられているので、おそらくはこれを読むのが一番良さそうですね。でも削られたエピソードなどもあるので、気になる人は両方読まなきゃいけないかもしれません。
しかしガッツ石松で笑ってしまったのは不覚だったなぁ。その瞬間に「まいった、やられた、降参、白旗」とか思っちゃったし。
70点
怒ったら負けですYO!

参考リンク

六枚のとんかつ
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蘇部 健一
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おすすめ度の平均: 3
4 バカミスの星
1 残念この上極まりなし
3 くだらない

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