舞城王太郎 土か煙か食い物

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あらすじ

サンディエゴはホッヂ総合病院ERで外科医をしている奈津川四郎はスピーディー且つリズムカルに己の仕事を片付けていた。
チャッチャッチャッチャ。切り刻み、元通りにする仕事。四郎は自分の仕事に誇りを持っていた。この忙しすぎる仕事を。
だが、日本から思いもよらぬ情報が入り、再び仕事に取りかかろうとした四郎は返されることになる。母の陽子が頭部に重傷を負って意識不明だというのだ。
日本に帰ることについては全く気がすすまなかった。何よりあの糞オヤジと相まみえるかと怖気が走る。アメリカくんだりまできて外科医になったのも、元はといえばあの糞オヤジの丸雄が諸悪の根源なわけで、家族の急とはいえそれだけは避けたかった。
日本への帰郷は決めた。数々のガールフレンド達への連絡も適当に、一番早いチケットで日本へ、そして福井の西暁へ。四郎には自分の連続性がまるでとぎれたように思えた。道中一番の問題は鎮静剤もなんの役にも立たず、睡眠が全く取れなかったことだ。スッチーは「よくおやすみのようでしたね」とか言って笑ってたが、全然全くこれっぽっちも寝た気がしない。
各種交通機関を使い、西暁に戻った四郎が駅であったのは偶然そこにいた同級生の高谷義男、通称高谷ルパンだった。丁度いいのでルパンの車を足代わりに病院へ向かうことになるのだが、道中聞かされた事件概要に四郎の感情は暴れまくる事になる。
頭を殴ってポリ袋を被せられて埋められただと?!FUCK!!FUCK EVERYTHING!!!!!
ルパンの車を力任せに叩きつけ、凡てを壊したくなるような破壊衝動がふくれあがる。ルパンになだめられなかったらきっと廃車同然になるまでボロボロになっていただろう。その時点で四郎は決めていた。連続婦女暴行事件、母の陽子が巻き込まれたこいつを解決することを。

感想

舞城王太郎三冊目。第19回メフィスト賞受賞作です。こう、なんで一作目を読まないでその時々の本から読み進めちゃうんでしょうねぇ・・・再び後悔ですよ。佐藤友哉の時と同じ轍を踏んでるってことなんですがね。
本書は前二冊と比べると一番読みやすかったです。てか、『阿修羅ガール』の後半は薬でもキメてんじゃねぇのかっていうようなぶっ飛んだ内容、且つようしらんファンタジーからインスパイアされてみたりと正直言って理解しろと言う方が無理な内容な為好きになる方が難しいかと。また、世界観そのものも随分異常で、女性視点で書かれたりと個人的に駄目な部分は枚挙にいとまがないほどですが、それらを補ってあまりある勢いのある文章、スピーディーな物語展開、等が三島賞で評価されたんでしょうね。
世界は密室でできている。』の方はあくまで『土か煙か食い物』の世界観を踏襲するものという位置付けだったんでしょう。ルンババが出てきたり、舞台が福井県だったり、そしてデビュー後初めての本だったようですし。でも『世界は密室でできている。』は『土か煙か食い物』と比較するといささか劣りますね。パワーダウンというのとはちょっと違う感覚だけれども、テーマの軽重だったりするんだろうか。
ま、兎に角本書のテーマは「家族愛」でしょう。ミステリというには少々家族の込み入った説明が多いのはそのせい。始めの方で背景説明はし終わったかな?とか思った頃合いに唐突にある日失踪した四郎の兄である二郎の話がドバドバドバッと登場。これがまたこれでもかと長い!おいおいもういいよ・・・とかダレかけるんだけど今度は別のベクトルの話が続いたりして過去話。一段落して回想から戻ってくると今度はミステリの推理が始まったりと実にあわただしい。そのあわただしさは単に説明不足じゃなくてみっちりと説明も込んでいるんだけれど、気がつくと飲み込まれているというかなんというか。
例えるならば、嵐で津波で最後は鳴門海峡のうずまきな立ちふさがるものをぶち壊していく様な魔力を持っていますね。ストーリーの中盤をちょっと過ぎたあたりでショッキングにハイになれた場面があって、気が遠のくのを知覚したんだけど、こんな気分は久々ですね。怒りで気が遠のくとは。これだけでも十分に評価できるわ*1
ミステリとしては結構斬新。ぱっと思いついてぱっと結果が出る力押し。理で知でまとめ上げ最終結論が出る、とかいうタイプじゃないので直感型とでも呼称すべきなのかな。まぁ、所謂ミステリの範疇ではないものの、逸脱はしていないぐらいの内容。要素があるぐらいに思っていた方が佳いかも。あくまでもメインはこっちじゃないですしね。
そうそう、なんか本作は「ジャンルとしてはノワールなのでは?」とかいう評がある模様。ん〜ノワールか。犯人を捜して捕まえることを"復讐"と捉えてそれをもってノワールというのはまた違うだろうから、多分二郎が丸雄に復讐をするという点を持ってノワールといっているんだろう。言って言えないこともないだろうけど違うんじゃないかな。それならば視点を四郎から二郎へ変えるべきだろうしねぇ。もしくは複数視点による形にしてみても佳かったのかも。でも作者は結末のために設定を作ってる節があるので、きちんと考えていると仮定するとノワールより、ミステリーより、物語としての形を重視していることからわざわざジャンルに拘泥はしないだろうね。ミクスチャでいいんじゃない?若しくは村上春樹みたいに独自ジャンルと考えても良いかも。慣れるまで取っつきにくい文体といい、ストーリー性といい、そう考えても問題なさそう。
あとはあれか、『阿修羅ガール』で気がついても佳かったんだけど、もしかすると作者は女性だったりなんかするかもしれない。最近の読書傾向では拒否反応の一つの指標として女性が書いた小説ってのが私の中であるっぽい。覆面作家としてほとんど情報を明かしていないわけだし、有り得ない話じゃないよね。
80点
ようやくまともに読める舞城の小説にであったのだけど、文学の方面に旅立っちゃったみたいなので、新刊まわりは多分拒否反応出るんだろうなぁ・・・。この次に舞城を読むのはいつになる事やら。

追記:サリンジャーに影響された部分ってのは、この間教えて貰ったグラース家的な壊れた家族の部分なのかな。
更なる追記:題名の『土か煙か食い物』とは「人間死んだら土か煙か食い物になってしまう」という作中人物の言葉から引用されている。

参考リンク

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*1:注:怒りのファクターは私にとって重要なのです。こればっかりはなにをさておいてもいいぐらいなので、一般的には実に奇特に思えるでしょうがほうっておいてくださいw