西尾維新 ネコソギラジカル(上・中・下)

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感想

西尾維新十二タイトル目。冊数で考えるのはもうナンセンスですな。分冊で刊行されている本も含まれていることだし。
本書を一言で評するならば『華麗なる戯言サーガの綺麗な終焉』ですかね。
ちなみに今回は三冊の合計1113ページにわたるごっちゃりごちゃごちゃな内容で、しかも今までのシリーズ総決算とあって、あらすじを有り体に語ろうとも決して十全で重畳とは行かないことは明らかっぽいので、出来ないことは諦めることにしました。何はともあれ常に保ってきたテンプレートを逸脱するのは残念無念であるけれど、この場合はしょうがないと思う。何しろ規格外にフィットしてしまったのだから。
この三冊に分冊された物語は今までの戯言シリーズの何よりも、何とも言語化しにくい力があるように感じる。一番近い言葉を探すと心地よさに近いかもしれない。文章を読むことに心地よさを覚え、繰る手が止まらず、時間と場所を忘れて読みふける。読書人にとって至福以外の何者でもないですね。これまで幾多の本の最後の巻末に「解説」という形で書かれてきた、営業的含みの言葉だと思っていた『自分のために存在する本』という者の凝縮された形を、顕在された形を顕現しているという感覚。これは喜びであり、福音だと思う。
でもこう書くと何書いてるんだこいつは「キモっ!」って思われること必定w。しょうがないじゃない、そう感じるんだから。もう「ぶっちゃけぶっちゃけ」って感じで灰キュアですよ。
ま、この本は戯言サーガ(もうシリーズというよりこう言った方がいいと思う)の一連の本を読んだ後の最後の結末、最後のサービス、って奴なのでここまでたどり着いた人だけが読んで愉しめばいいと思う。人によって善し悪しは別れるかもしれないけれど、『ヒトクイマジカル』で盛り上がりを感じた人はほとんど大丈夫だったんじゃないかな。まるっと戯言で収まった物語で今までのように可読性をそぐような韻文はほとんど無いのがちょっと寂しいけど、それはそれ。無くてもカバーできるだけの「立てば嘘吐き座れば詐欺師、歩く姿は詭道主義」な戯言遣いの独壇場なわけで。
ま、作者も作者ですわ。これが浮き世に咲かす最後の桜とばかりにぶっちゃけはっちゃけおちゃらけて、何かのリミッターを強制解除しちゃったみたいですね。もうしたい盛りのやりたい放題とばかりに八面六臂。その分産みの苦しみは「いっそ殺してくれ」という状況までいったとか。ま、なんにしろご苦労様。
それでは零崎の方とりすかの方を早急に進めてください(鬼
以下感傷的な戯言

読後感はすがすがしかった。
案の定読み終わったあとは軽い放心で空白になっていた脳に響くのはBGMとしての扇風機の音(タバコ吸うので換気扇代わり)とかすかな呼吸音だけ。過ぎ去ったのはこぎみよい文字の羅列を燃料とした時間を食べ尽くす自動機械としての時間。
文字の羅列は焼き尽くされて凡て泡と消えた。一抹の謎すら残されなかった*1。最後の最後で提示されたかに見えたもの、それはあくまでファンサービスなのでシリーズの最後を飾る死に化粧と言った意味ぐらいのものだろうから希望は捨てた方が佳い代物だろう。
ふとこんなことばがよぎる。
「おもしろきこともなき世をおもしろく(すみなすものは心なりけり)」
誰の辞世の句だか*2忘れたが、なんだかぴったりな気がする。そう、この物語はそんな人物を主人公に据えている。事件は凡て起こるべくして起こり、人が沢山死ぬ。シリーズの最終巻で今更言うべき事でもない、すでに当然のことなのだろうが改めて強調してみる。これは一種の冒険小説なのだ。またビルドゥングスロマンですらある。ただ、成長は成長として考えるには当らない。何故ならば時は壊れていたのだから。何一つ獲得できないまま失い続けていた存在が回り凡てを巻き込んで、ひたすらに行っていたのは単なる乱痴気騒ぎ。その定石が崩れ去るに至るのはこの物語が終焉を迎える頃。一つのたった一つの答えがようやく出るわけだ。失うことが終わるわけは決断を下したからだろう。
ここで終わるのは必然でどうしようもないことなのだが、惜しくて仕方がない。でも奇妙な話だが、同時にどこかほっとしている部分もある。物語は省みられる頃合いに終ってしまうのが一番いい。ダラダラと続いてしまっては惰性になってしまう。鉄は熱いうちに打つべきで、冷めてからではものにならない。
ただ一般論と実感でこれが最適解だとわかっていてもこのシリーズの終焉が寂しい。
なお、ファンの人は好すぎるからこそ距離を置いて欲しい。時間的に精神的にも。あまりに拙速に進んでしまうと勿体ないようにも思えてしまうからだ。じっくりたっぷりゆっくり読んで欲しい。味わい尽くせるところまで味わうのがこの本の趣向なのだから。

戯言終わり
こんな言葉で飾ってもしょうがないからねぇ。
そういえば前回読んだ『ニンギョウがニンギョウ』で私は作者を大きく見誤っていたみたい。てか、あまりに強調される方が偏っていたからなんだが、作者は妹スキーではなくシスコンだったんだね。上でも下でも関係ない無節操さが基調と。
終わりは妙にあっけなかった。気が抜けたコーラみたいに気がついたら終わっていた。余韻は謎がなかったので後を引かなかったように思う。とはいえ完全に凡てが終わりきってジ・エンドではないわけだが。
文章の面白さから言ったら平井和正級、ただしまとめ上手みたいな。ある種の理想だねぇ。
読み終わって早々だけどもう一度読み返したくなりました。人に勧めるためにももうワンセット確保しなきゃなぁ。
95点
余韻欠如がちょっとね。でもこのラストは嫌いじゃないよ。
ん〜これできちんとレビューになってるのかなぁ、ちょっと不安だ。
ま、兎も角感想から考察の方にちょっと入ってみるか。

考察

一連のサーガを読み終わって思ったのはあーやっぱりEVAの呪縛は強いのねってことかな。
EVA機体色=キャラ髪色説をここに唱えてみる。そうするとなんともしっくり来てしまうのだからおかしなものだ。
綾波(ゼロ号機初期色は青)=青色サヴァン
アスカ(二号機機体色は赤)=キルドレッド、哀川
三人目の綾波(ゼロ号機機体色はオレンジ)=橙なる種
だとすると
一人目の綾波いーちゃんの妹
とかなりそうな感じ。
戯言遣いは紫とか?もしもこの先があるならば、紫をイメージカラーに使いそうだわ。
下巻の最後の方の部分だけ見てみると
「はじまりのおわり、おわりのはじまり」のトートロジーは劇場版のcmのモノローグじゃなかったっけ。
「真心のための戦い」>「まごころをきみに」「男の戦い」
「それから」>幽々白書
「自分が無能力者で回りに助けて貰わなければ生きていけないという」くだりはワンピースのルフィ
とかこんな感じかな。
あとはちょっと直接的には関係ない話。
富野イズムは庵野から作者に継承されたと考えて佳いんじゃないかね?何よりジェノサイダーなのだから正統だろうし。アニメと小説という媒体の違いはあっても、影響は無視しにくいと言えるんじゃなかろうかね。

後は残された謎かな。一つめは闇口濡羽の主人の謎。
やはり春日井春日さんかなぁ。最終巻には名前しか出てこないことだし、あるいは三好心視も怪しいところ。でも判断材料がないなぁ。
二つめはいーちゃんのフルネームは何か?って所か。正直わかりませんが、捜したところ「あのひとつあとに」と「あのつぎにくるじ」とか「あいしてたきみを」とか中々にエキセントリックな仮説が唱えられているようです。これらどれでもありですな。でも最終巻の下巻での状況では名乗りは五文字のようなんですよね。やっぱり漢字なのかな・・・。
三つめはいーちゃんの名前を知ると破滅するという事が現実味を帯びなくなったこと。これは散々シリーズで語られていたことだけど、結局単なるはったり、戯言の一つだったみたいだね。ただ、いーちゃんがそれを真剣に信じて居るみたいだったので、決して普通の戯言ではなかったわけですな。帰納法的な結果から導き出された法則だったわけで。でもそれには事故頻発体質の方に問題が有ったわけで名前の方じゃなかったと。
最後にこれを謎と言えるのか微妙なんですが、この最終巻は三冊とも371ページで終了してます。あとがきをいれても373ページです。なんか意味あるんですかね。わざわざそろえてくることには意味がありそうな気がするんですが・・・。
今回はこれで以上です。はげしくねみぃ・・・。
追記:id:architectさんところのコメントで話題に出た「書けなかった第24幕」についてですが、三冊とも既定枚数で書かれていることから、「書けなかった」ではなくて、元々この最終巻には挿入するつもりが無かった、つまり「書くことは初めから予定されていなかった」ととる方が正しいように思えます。それに終章と第23章の間には断絶はないように思いますしね。確かに変質しないように気を使った最終形態と悪運ですよ。道は示されていたわけだし、選択もした。そうしたらこうなるしかないわな。

参考リンク

ネコソギラジカル (上) 十三階段
西尾 維新
講談社 (2005/02/08)
売り上げランキング: 8,494

ネコソギラジカル (中) 赤き征裁VS.橙なる種
西尾 維新
講談社 (2005/06/07)
売り上げランキング: 8,214

*1:これ嘘

*2:確か高杉晋作だっけか?