小川洋子 まぶた

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あらすじ

  • 飛行機で眠るのは難しい

とある古書肆が飛行機で出会った老婆の話

  • 中華野菜の育て方

寝室のカレンダーに書かれた黒い○の日に現れた不思議な老婆

  • まぶた

Nという男と少女の日々

  • お料理教室

料理教室だというのに料理を教えず勝手に作る先生の話

  • 匂いの収集

匂いを蒐集する女と蒐集される男

水泳選手である弟の左腕が上がったままになる話

  • 詩人の卵巣

不眠症の女性が睡眠薬中毒を断つために外国旅行を決意して名も無き詩人の記念館に迷い込む話

  • リンデンバウム通りの双子

離婚で養育権を失った娘が留学先の英国で問題を起したために、飛行機が苦手な元妻に変わって作家の元亭主が呼び出しを引き受けるのだが、ふとした気まぐれでオーストリアのウィーンにてドイツ語に自著を翻訳してくれている人物に会いに行く話

感想

小川洋子三冊目。また掌編集ですが、はっきりしたことが二点。一つめが私小説スタイルの執筆方法は変わらないと言うこと。キャラクタの記号化を狙ってるんですかね。二つめは三冊目にして気付いた作者の何処が好きになれないのかという事。スプラッタ系ホラー映画の定石であるところのこれから惨劇始まるというお約束に近いもの、予感の様なものをほとんどの作品にまとわりつかせながら、その先へ足を踏み出すことを渋るキャラクターにイライラするみたい。気配はすれど姿は見えずを地でいっているわけだ。これから誰かが不幸に襲われる、死出の旅路に出るという濃厚な気配(死亡フラグとも言う)を持ちながら、それはほとんどの場合杞憂で終わる。つまり、期待させるだけさせておいて、実際には何も起こらないガッカリ感に失望してたわけですな。
ホラーならホラー、ファンタジーならファンタジーで驚ける何かをやってくれていれば何も問題ないんだろうけど、あくまで日常のちょっと変わってるけど枠の外に出ていかない話になっちゃってるわけです。こりゃ合わないはずだ。ショッキングなものとかドキドキを求めてるのに寸止め調教されてる気分ですわw。でも不思議話の場合でも物によっては大丈夫なんだよなぁ。梨木香歩の『家守綺譚』なんかはその筆頭かな。やはり雰囲気にゆったりとした馬鹿馬鹿しさが漂ってると安心できるからなんだろうか。息詰まる静謐さのような漂う雰囲気が妙な緊張をもたらしているのかも。
前回も書いたけど想像に色が上手くのらないですな。どうにも白黒セピア色。その代わり匂いが想起される感じがします。なんともカビ臭く陰湿で、なおかつ粗野な感じ。モダンな内容を取り扱っているのにどこかゴシックホラーの様な妖しさをベールのようにまとってます。すべてがホラーの体裁ならば面白そうなんだがなぁ。収録している『匂いの収集』の様な話なら大歓迎なんだが。不思議不思議で終わられちゃうとどうにも不完全燃焼。

これは前に読んだ『偶然の祝福』に収録されている『盗作』の内容とほぼ一致する。果たして本当に「盗作」であるのかは作者のみが知ることで読者が知り得ることではない。まぁ実際「盗作」であろうとはるか昔のと云って佳い1901年だかに発行された洋書が元になってるんじゃ流石に判じかねるけど、この話が初めて売れた小説であるってのにはちょっと異論があるな。世に出たのは1996年十一月号の『海燕』誌らしいが、賞を獲ったのは1988年だったりするので虚がまじってるのは明白です。なんでそんな嘘をついたのか?と言う疑問が残るわけですが答がないんだから問を発したところで無意味か。最後の「処刑場」っていうフレーズは父のことなのか、弟のことなのかよくわからん。言うに事欠いて「処刑場」ってのもないわな

  • お料理教室

映像実験じゃ有るまいし、これは何がしたいのか全く不明w。シリアル・ママの様な先生を描写するだけじゃギャグにしかならないよ。頼むからオチだけはつけて終わって欲しい。

  • 飛行機で眠るのは難しい

ノスタルジーの方向へ傾きかけたお話。なのにどこかおどろおどろしいのはなんでだろ。袖すり合うも多生の縁って奴でこういう話は嫌いと言うよりはむしろ好きなんだけど、牧歌的な内容は作者の方向性とは違うんだろうなぁ。メインストリームっぽくないし。

  • 詩人の卵巣

ザンドマンの亜流なのだろうか。でもこれに類似する話って聞いたこと無いなぁ。卵巣に生える髪の毛ってのは何を意味してるのかようわからんわ。

  • リンデンバウム通りの双子

ラストの「たまらなく、娘に会いたくなった。」の部分には溜の後の切迫感が出ているけれど、表層的にはわかっても本質的に了解はしかねるなぁ。麗しき兄弟愛をみて感化されたと考えるのが自然なんだろうけど、ちょっと言葉足らずな印象は否めない。省略せずにもっと言葉を連ねて貰いたいもんだなぁ。
ただ、初めて作者の話で色が付いた感覚を覚えることが出来たというのはある。

総体としてメッセージ性の低い掌編集ですな。不可思議で有ることが第一義的に重要なんでしょうかね、作者にとっては。もっと言葉を敷き詰めて、濃密にして貰った方が読み手としては楽しめそうな気がするんだがなぁ。
70点
作者のホラー物が読んでみたい。勿論寸止めじゃなくてちゃんとした話をね。正直これだけ雰囲気有るんだからホラー書かないと損だわ。

参考リンク

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