小川洋子 偶然の祝福

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あらすじ

私小説スタイルで語られる小川洋子の日常を脚色したらしいもの

  • 失踪者たちの王国

小川洋子と失踪者の関係。失踪者達はみなここではないどこかの世界に行ったものとしている。

  • 盗作

作者の『バックストローク』という作品は盗作であることを述べている。ただ、事実かどうかはよくわからない。

  • キリコさんの失敗

作者の子供時代にお手伝いさんとしてきていたキリコという女性の物語。作者の創作への道を開いた人らしい。

作者の自称弟という電波さんのお話。彼の話を作者は書いていると思いこんでいる。

  • 涙腺水晶結石症

飼い犬のアポロが病んだ話。*1

  • 時計工場

小説を書くと言うことを時計工場に例えた話。不倫関係を結んだと思われる指揮者の男性とのなれそめもそこに。

  • 蘇生

『貴婦人Aの蘇生』の元となった老婆との出会いが描かれている。元々息子と作者に相次いで出来た腫れ物が病院に行くことの布石となっているが、それぞれを取ったことにより作者が喋れなくなってしまった事も書かれている。

感想

小川洋子の本二冊目です。エッセイのように書かれているものの、それ自体物語っているようですね。故に現実と物語の境界線が曖昧になっており、典型的境界性人格障害(俗に言うボーダーってやつですわ)の女性の物言いに見えてしまっているのは残念というかなんというか。意図的にやってるのかもしれないけど、意図的とは思いにくいんだよなぁ。作中に漂っている自己憐憫はなんなんだろ。壊れてしまった自分の親の家庭という轍があるのに、不倫をしてしまうとかそれを美化しちゃってるのは男性からするとあーもう大丈夫?って感じです。不幸がやってくればやってくるほど倍した幸福が必ずややってくるという童話の世界観を地でいって欲しいという願望はちょっと理解不能。希望は持てば持つほど落胆するっていう可能性は排してるらしいね。まさに夢見がちって奴ですな。不思議な手触りしてるからそれもまたありなんだろうけど。
女性の共感は得られそうですが男性の共感は難しいんじゃないかなぁ。現実主義的であればあるほど厳しいかもしれない。逆に現実逃避したい人には合うのかも。
かつての作品とのオーバーラップを狙った本みたいなので、ある意味一粒で二度おいしいのかもしれない。読者にとってじゃなくて作者に取ってね。
なお、グロテスクとの評が作者によくあるが、露悪趣味という気がしないでもない。まぁ、この本に限って言うならエッセイなんだかよくわからない文章ってのが根底にあるわけだし、仕方がない話だけれども。ただ、この根拠のよくわからない妖しさに惹かれる人は多いようですな。
なんか女版黒乙一みたいな感じではある。ただし、乙一の特徴の一つであるドンデンが無いのパターンね。
まぁ、なんにせよ他の著作を先に読むべきだったんだな。作者の本を数冊読んでからじゃないと楽しめないと思った。
50点
人をむやみに不安にさせる文章は上手いが、どこか不思議で不気味話にはちょっと今は興味がない。ほんのりよりは劇的にやらかして欲しいかな。エンタメというには繊細すぎるのが難かと。
追記:漫画家だの小説家だのはなんでも飯の種にするといういい例ですな。書かれる方はたまったもんじゃないかもしれないが。

参考リンク

偶然の祝福
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小川 洋子
角川書店 (2000/12)

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小川洋子の他のエントリ

貴婦人Aの蘇生

*1:涙腺に結石が出来る病そのものは有る様子。dacryolithiasis(涙石症とか涙結石症)とかいうらしい