首藤瓜於 脳男

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あらすじ

中部地方名古屋市に次ぐ第二の大都市である愛宕市、そこできな臭い事件が起こっていた。
まず初めに七星建設という大阪に本社を持つ建設会社が東京進出への足がかりとして愛宕市へ支社を造ったのだが、その落成記念パーティの席上で爆発が起こった。幸い直接的な被害は創業者の銅像が多少破損した程度で、実質的には0だった。だが、周囲一キロに轟くほどの大音量での爆破音にパーティ会場はパニック寸前にまで陥った。警察が調べたところ、銅像に置かれた弁当箱ぐらいの物が爆発したようだった。注目すべき点は銅像の下にまかれたと言うよりほかない毛を刈られたネズミだろう。死んだネズミは毛の代わりにマジックで書かれたとおぼしい目のような物が沢山ついていた。
それから十日後、再び爆発物事件は姿を見せる。場所は市街地から十キロほど離れた丘陵地帯の閑静な住宅街の一角で、金城理詞子という占いを生業とするテレビタレントの住む邸宅だった。その家の女主人は様々な交友関係からいかがわしいパーティをしばしば行っていたらしいのだが、その席上で爆発は起きたらしい。前回と同じく直接的な被害はなかったが、パーティの性質上参加者が脱兎の如く逃げ出したおかげでもみ合いによる負傷者を十一名出した。今回は犯人のサインと言える物は特に出てこなかった。
そして再び捜査が進まぬまま一月が経過して事件は三度起きる。地元出身の灰谷六郎という国会議員が一連の事件では初めての犠牲者となった。灰谷は最寄りの市立病院に食中毒で担ぎ込まれたはずだったのだが、容態が途中で急変して手足の先が壊疽を起しだした。検査の結果壊死性筋膜炎という奇病に冒されていることがわかり、近くのもっと大きい病院に移る為に救急車に乗った直後だった。救急車は爆発し、天井部分は空高く舞い上がった。
国会議員の爆破殺人と言うことでマスコミ、政治家からの捜査本部に対する圧力は高まっていった。しかし、爆発物を作るための材料はありふれた物が多く、鑑識が集めた破片から類推される商品のほとんどが大量生産品で地取りから犯人を捜し出すのは無理があった。それでも犯行は続く。
第三の犯行から二週間後、今度は裁判所合同庁舎の門で爆発があった。門衛が見つけた不審物を動かそうとしたなり爆発が起こったのだった。今までと違い、殺傷能力を出すために鉄球を爆弾内部に仕込んであったらしく被害者は四人が死に、重軽傷者40人以上という大惨事となった。
茶屋警部は一連の事件の捜査を行ってきたが、鑑識からは色よい言葉がほとんど戻ってこないことに歯噛みする思いでなんとか食らいつきながら捜査を続けていた。そんな茶屋の元に届いた鑑識の黒田からの「見つけた」という言葉は、よりどころのほとんど無い捜査に一条の光を当てるに等しかった。見つかったのは「針金に付着した炭化タングステンの微細な粒子」という奴で、針金を切る目的で使われた道具に付いていた物らしい。切断面から弓鋸であるということははっきりしていたので、販売されている商品と成分比分析をかけてみたら一つ商品と同一であることが判明したという事だった。早速茶屋は百十五名の捜査員全員に招集をかけ弓鋸販売を行っている店と替え刃の販売経路の特定を急がせた。
些細な糸口は地道な努力によってやがて特定となり、最終的にアリバイが無くなった緑川という会社員をしている普通の男が犯人だと特定できた。捜査員は二十四時間態勢で緑川の監視内偵を行い、ついに爆弾製造工場を突き止めた。そこは波止場にある倉庫街の一角で寂れきってしまっているので人が居ることはほとんど無い場所だった。
茶屋は捜査員と一緒に突入をかけるのだが、そこでは緑川ともう一人男が居て揉み合っていた。男は「入ってはいけません」と機械的に言ったが、捜査員が突入する方が早く、入りかけた捜査員が爆発で茶屋の元へ吹っ飛ばされて来た。結局爆発物を投げつける緑川は逃亡し、確保できたのは身元不明の男一人だった。
男は鈴木一郎と名乗り、年齢は二十九歳で小さな地元の新聞社を経営しているとしていたが、調べたところ鈴木一郎なる人物の戸籍は他人の物で実在した人物の方は二十七年前に二歳で死亡していた。彼は第五の事件が起こることを警察に告げた為に共犯者と見なされ、一連の爆破事件の裁判にかけられることになった。そこで弁護側は鈴木一郎の精神鑑定を申し出て検察が異議を申し立てなかったために愛和会愛宕医療センターに来ることになったのだった。そこで鈴木一郎の精神鑑定をすることになったのが鷲谷真梨子だった。
彼女は精神鑑定を鈴木一郎にしていくのだが、その中で小さな齟齬を感じていく。

感想

第四十六回江戸川乱歩賞受賞作、首藤瓜於初読み。
何故か罵倒されまくっていたので読んでみる気になりました。が、言われているほど悪くはない出来でしたね。ただ、TVドラマナイズされていて、先の展開はすべて読めてしまうのが問題ですか。可もなく不可も無しな作品って奴ですかねぇ。
なんか江戸川乱歩賞はフジテレビが協賛するようになってから映像化しやすい作品ばかりを受賞させるようになったとか揶揄されるのを聞きましたが、なんかそんまんまですねぇ。手に汗握る展開というかカタルシスがほとんど無いのはどうでしょう。読者を驚愕させたりするのは難しいですよこれ。探偵役が自閉症の様な病が治ったサヴァン症候群っていう設定だけで突っ走っている感じですね。続編が出てきそうな引きで終了してますが、今のところまだ出てないようです。いやはや、出さない方がいいと思いますよこれ。正直続編が出てたらどうしようとか思いましたよ。続編多分出てたら出てたで読むだろうし、でもこの調子じゃ結末に納得しかねそうだしねぇ。
殺人を犯す正義の味方、でもその悪を絶つために行う殺人に苦悩するとかアメコミのスーパーヒーロー調ですよね。ただ、あまりにも淡々としすぎているために情緒とか緊迫感とか台無し。感情部分が表に出てきにくいという設定をもっと全面に押し出して、人間性の獲得か、はたまた憧れているけれど決して獲得できない苦悩がにじみ出てくるようにしてこないと駄目ですよね。
地の文や会話文の読み味は丁寧且つ軽妙で楽で良いんだけど、ト書き読んでる感じがします。何処にも抵抗感がないんですもの。ほのかな味付けは感じるものの、あえか過ぎて個性がないわな。あとストーリーでみた場合、起承転結だと締める部分がかけてるかな。なんとも不安定で結末たりえない部分がきちんとまとまってくればもっとよかったんだろうけど、枚数制限に引っかかっちゃったのかな。倍の尺なら多分きちんと終わったんだろうけどなぁ。惜しい気もするけど、一応サスペンスとして成立させてるんだから、落とす部分がなくちゃあやっぱり駄目か。
本当に可もなく不可も無しだなぁ。これを受賞させることには確かに疑問を感じなくもないわ。
60点

参考リンク

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