西尾維新 新本格魔法少女りすか2

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あらすじ

  • 敵の敵は天敵!

供犠創貴と水倉りすかが漸く和解することによって影谷蛇之の情報が確定した。水倉神檎が託したのはディスク。ただ、持ち主は別にいるらしい。早速行くことにしたのだが、時刻は夜でしかも行き先は廃病院だ。りすかは雰囲気に呑まれまくっている。魔法使いなのに変ではあるが、そう言う物なのかも知れない。いや、魔法使いだからか。科学者故に幽霊を怖がり、魔法使い故に幽霊を怖がる。りすかはいくら魔法の能力が高くても小学生だって事実は変わりようがない。
今回ここで待ち受けているはずの人物は火住峠、属性は『火』。おそらくはディスクの持ち主だ。二人は広い病院の中でついにそれらしい明かりのついた部屋についた。だが、そこに待ち受けていたのはそれらしい首だけの死体と、それを踏みつける黒髪の少女。ただ、少女の額には唇のない口が広がっているのは奇妙であったけれど、その手には紛れもなくディスクがあった。

供犠創貴の通う小学校の終業式、帰ろうとする創貴を呼び止める者が居た。今まで用意周到に表立たずに立ち回ってきたが、それも年貢の納め時という事のようだった。目の前にいる女性はオールバックの髪型が似合わない黒いスーツを着込んだ若い女性だった。まるで重要人物のSPのような外見のその女性は椋井むくろと名乗り、城門管理委員会の委員長秘書だと言った。城門管理委員会とは明治維新以後から脈々と続く、魔法使いを長崎より外に出さないための人間の組織だ。用件は簡単、明瞭、「ディスクを渡せ」。ただ、イレギュラーが二つ。もうこの問題は動いていた。

  • 出征!

色々あった上で、城門を越えた六人の魔法使い-1を夏休みを利用して倒す事にした創貴。今日はその旅立ちの日だ。彼は父親創嗣の四番目の妻、彼がただ一人母親と呼んだ人を思い出していた。その人の名は折口きずなと言った。

感想

つーわけでこれで西尾維新十冊目と相成るわけです。ただ、このシリーズは続けて書くのにあんまり向いてないかなぁ。やっぱり内容量が薄いのが問題かね。流石にレトリックやら韻文多用はされてない一般人向け仕様だけれども、王道なんですよね、これ。この本と前作はあくまで世界の説明、状況の説明、そして目的に至るまでの道程の説明という要素が強いので、インターミッションなわけですが、強くなければ生きていけない、事を成すという強い意志がなければ目的を達することは不可能、見捨てることは簡単だが石に食らいついてでも成さなければならないことがある、といった基礎因子をかなりかみ砕いて一筋縄でいかない形に再構成し直してます。そして、この本の書き下ろし部分に「何故創貴はこんなにも壊れてしまったのか?」という答えが出てきたわけですな。もうこうなってくると世界の敵*1である水倉神檎を見つけ出すというのは必然になってくるわけですが、はてさて、これは完全にセカイ系の展開。前作もまんまそんな匂いがしてましたが、ストレートにすべてを明かさずに韜晦されると可能性はあるけれど断定は出来ないってところでした。ですが、前作はそっちの匂いはした物の、王道な匂いはそんなにしてはいなかったのが実情なんですよね。どっちかっていうとダークヒーロー路線よりだったような。
で、今作でここまであからさまに方向転換やら紆余曲折されたりすると読み手側からするとちいとした混乱が巡ってくるわけですが、ここは作者を立てて「無かったことにする」のが正しいのかな。要するに違和感とか感じなかったというわけです。まだまだ全行程の半分も行ってなさそうな状況で四の五の言ったところで全部を見てみないとしようがないですしね。
ただ、ちょっと個人的にきついかなぁと思うのはこの内容は戯言シリーズと比べて対象年齢が低いって事でしょうか。面白いのは面白いんだけど、手放しでは面白がれないのは確かです。それにファウストで連載されてる分より書き下ろしの方が楽しいってのは秋田禎信オーフェン短編集じゃあるまいし・・・。
あーそうそう、また少し明かされた真実の中に「原爆を長崎に落としたのは私」ってのがあったわけだけど、海渡れるんかいな。それとも何かの取引でもしたんだろうか。あと、今思いついたが、長崎県が江戸時代にはもう幕府によって魔法使いの出入りを管理監視していたと言うならば、出島の問題はどうなってるんだろ。ここまであからさまに世界の改編を行われると逆に興味が湧いてきますな。長崎屋なんて商店もなくなるだろうし。まだまだ自力を出し切ってない感じの本書ですが、まだこの程度では面白いとは言い切れん。もっと先を差し出せ、出してこいと思わずにいられないのはご愛敬。ってことで次作期待。
65点。
蛇足:「変態すること(Hの事じゃなくて姿形が常態から変異すること)」を「変態する」と言わずに何か他の手段の語彙を作者は捜しているらしいが、日本語に拘るのも手だが、無い場合は造語するか、他言語に逃げるのも手なんじゃ。造語に関しては手慣れた物だと思うんだが。
追記:前回があの神話で今回はブレアウィッチですか。トラウマとか設定するのは楽で佳いんでしょうけど、安易に使いすぎると痛い目に遭いそうな予感。今回はそれに魔眼が加わっていた物の、魔眼って言うと吸血鬼なんかにもあったような。ただ、それはチャームだったり金縛りだったりするわけだけど。一応中世西欧魔女の能力としての「視線で殺す魔眼」は話としてはあったはずだけど、作り話だしなぁ。これはどっから元ネタ持ってきたのやら。魔眼でググっても「直死の魔眼」ばっかりでてきやがるし・・・。

参考リンク

新本格魔法少女 りすか2
西尾 維新
講談社 (2005/03/16)
売り上げランキング: 13,723

*1:この場合便宜的であるがこう呼称するのが佳いだろう。だが、このシナリオの方向性で行くと回り回って創貴の敵はここに集約される可能性が高い