西尾維新 新本格魔法少女りすか

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あらすじ

少年供犠創貴(くがきずたか)は世界に絶望した後方向転換を図ることにした。現在の世界はあまりにも愚昧なる連中に占められすぎている。それならば人を使うために生まれてきた自分が支配すればいいじゃないか、と。
つまるところ彼は二つに区別したのだ。使う側の人間と使われる側の人間を。彼我の差はとてつもないがまだ社会的地位がない小学五年生という立場からすれば表だって活動するのは避けねばならない。社会的体面というのも面倒な物だが、状況を見て機敏に動くのは創貴にとって苦痛ではなかった。これも必要経費と割り切るよりほかはないのだから。彼にとっての日常は馬鹿との対話であり、いわば騙し合いと言ってよかった。
しかしこれだけでは事を成す為の足場作りに過ぎず何も成し遂げられないだろう。単独では何事も上手くいかない。優秀な指導者は有能な手駒を持つのは当然のこと。彼の日常は「優秀な手駒の選定と手駒の育成」に当てられていた。
そんな中出会ったのは水倉りすかという少女。創貴は世間を欺く方法としてクラス委員をしており、世間的に目上にあたる生物の点数稼ぎの為に不登校児であった水倉りすかという人物に接触を図った。が、これが思わぬ方向へ転がることになる。彼女は「魔法の王国」とあだ名される長崎県の出身者だったのだ。勿論長崎県といえば、魔法使いが住まう場所だ。当然の事ながら彼女も魔法使いである。魔法の王国から出る魔法使いは基本的にごく稀であることだし、かく言う創貴もりすかが生まれて初めて出会う魔法使いだった。彼は五時間にわたってかき口説いた。自分の手駒にならないか?と。
りすかにはりすかの目的があった。彼女の実の父親である水倉神檎を捜すために住み慣れた魔法の王国を離れ城門の外にでたのだ。なんとしても見つけ出さなければならない。創貴はそんな自分を生まれて初めて強烈に求めてくれた。それは友情か恋心かは分からないが、とてもうれしい物だった。
創貴の目的は世界征服、りすかの目的は神檎を見つけること。創貴はりすかの駒としての確保を先にするために、彼女に力を貸すことにした。
「魔法使いを捜すなら、本来城門の外にいるはずのない魔法使いをさがせ」
こうして二人は魔法使い狩りを始める。

  • やさしい魔法はつかえない。

創貴の前で四人もの人間が同時に線路の中に飛び込んだ。人身事故というやつだが、同時に四人も自殺を試みるような事は普通ないだろう。りすかにその事をはなし、魔法が関わっているかどうか調査を始める二人なのだった。

  • 影あるところに光あれ。

影谷蛇之という魔法使いが起した誘拐事件。それに創貴とりすかの級友が関わっていた。手口から見て間違いないという。二人は級友の在賀織絵を助けるのと神檎の情報を得るために追うのだが・・・。

  • 不幸中の災い。

創貴は影谷蛇之の事件の後、りすかから拒絶されていた。ナイーブな女の子のすることだから仕方ないだろう。とはいえ、面会に出向くたびに拒絶されるのにうんざりする頃、一人の男が城門を越えてやってきた。水倉破記とこちらの言葉で名乗った男はりすかの従兄弟らしい。彼は創貴にりすかを長崎へ帰すためにやってきたと言う。創貴にそれを手伝ってくれないか?とも言うが、そんな気はさらさら創貴にはなかった。交渉は決裂し、破記は自身の魔法━━不運を対象にしかけるというもの━━を創貴に施す。

感想

西尾維新九冊目。ファウスト上で連載されているりすかを読んでみました。
ネタとしてはそんなに悪くないんじゃないかなぁとか思ったものの、表紙と中身のギャップは流石に凄い物がありますね。気のよさそうな創貴が世界征服を狙ってるとか、自分以外の人間を駒としか考えていないとか、ドライというには微妙な感じ。まぁ、人生経験足りないあたりの年齢ならばまぁ、分からないでもないんですが、表紙と中のイラストとのギャップはやっぱり凄いです。てーか、表紙は生瀬範義ちっくな油絵というかペインター調なのに対して中のイラストはのっぺりのっぺりな普通のイラストと来てるので同じ物書いてるはずなのに凄い差異があるというか。もっと大きな違いというと、どう見ても表紙は高校生ぐらいに見えるって事ですかね。これで小学五年生ってのはないだろー。中のイラストは年相応に見えないこともないかなーってとこか。でも西村キヌさんのキャラデザにしては水準を割って無くもない。この先どうなるかは不明ですな。
中のネタとしては小学生を描くってのは端っからシカトこきまくり。説明過多なのと難解な言葉がそれらを忘却の彼方へ誘います。流石に収録されている三話のうち始めの二話には無理がないかなぁと思ったのだけれど、三話目できちんと位置付けがされたようなのでなんとか違和感からくるダメっぽさから回避できたのでは。ちなみに三話目が一番スピード感がありますな。故に三話だけをプッシュ。二話目も悪くはないのだが、三話目への布石でしかないかと。一話目は完全に舞台説明の為のきっかけだしね。
相変わらずドライに、そして下手をしたら安易にキャラクターを殺す手口は変わらず。多分ここら辺が嫌いで読まない人いそうですな。いつも通りなのである意味折り込み済み。
設定面では長崎言葉が英語のように転倒している点が執筆時に大変なのではないかなぁとか思ったり。えらいややこしいしね。てか、長崎が魔法の国って設定もぶっ飛んでるな。この世界での二次大戦時の状況ってのも気になる。ま、題名の「新本格」の部分の方がぶっちゃけ気になるわけだけど・・・。
戯言シリーズとの対比では

  • 主人公ペアが男女
  • 能力面では突出して女側の方が高い
  • 主人公はそれを使う側

ってあたりが同じですかね。まぁ戯言の方だといーちゃんが使うとか言う方向ではないんじゃないかってのはあるんですが、完全に否定はできないんですよね。あとは恋愛を否定しながら実際はその問題が背後に聳え立ってるとかですかね。ただ、りすかの方はそこまで行ってない気もします。恋愛感情以前の友愛って奴の方がしっくりくるかと。どちらにせよ主人公の成長物語であるのはかわらないようです。あとは好き嫌いの問題になるんでしょうな。
魔法ネタではどうにもGURPS*1が元になってる匂いがします。でもGURPS Magicだけじゃなくて妖魔夜行とかサイバーパンクとかサイオニクスを参考にしているふしがあるような。気のせいなのかも知れませんがね。
70点
蛇足:最近のミステリーは行き詰まりを感じてホラーに回帰しようとしているんだろうか・・・。

参考リンク

新本格魔法少女りすか
西尾 維新
講談社 (2004/07/17)
売り上げランキング: 16,979

*1:富士見で新たに発刊し直されてるというのを見たけど価格を見て仰天。そして妖魔夜行が第二版となって百鬼飛翔とか言うのになっているのもびっくり。ルールブックが5000円近くするようになっちゃったらもう小学生が気軽に遊べないじゃないかw。まぁ小学生がTRPGやること自体が稀なんだろうけど、精々その半分ぐらいの金額にするべき。サプリも同額近くってのはどうなのよ。まぁ、そうでもしないと出すこと自体が難しくなってるんだろうけどね。前回の誤植はあらかた直ってるんだろうか