石田衣良 骨音 池袋ウエストゲートパーク3

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あらすじ

  • 骨音

誠の友人のハヤトはバーガーショップのバイトをしながらサクセスを夢見るバンドマンだ。誠はハヤトの居るがら空きの店で原稿を書くのが一種の習慣になっている。四畳半の部屋で言葉をひねり出そうとするよりこちらの方が楽だからだ。今日も一時間半で二ページ半、原稿が進んだ。きりの良いところで締めて店に帰ろうとしている道すがら回収本を販売しているホームレスから声をかけられた。いつも通りの仕事だ。
その男は身長が足りなくて顔だけ勝新太郎みたいな感じのホームレスだった。通称もカツシン。その男が言うにはホームレスが襲撃される事件が起こっているらしい。もはや珍しくも何ともない話ではあるが、ここ最近起きている事件は少し妙だった。特定の事件では同じような事象が起きているらしい。曰く何か薬品を嗅がされ、体にジェル状の物を塗られ、骨を折られる。その手口が共通する四人の被害者はそれぞれ、すねと膝の皿、腰骨、肋骨を二本、肩と鎖骨と折られている。骨折していく箇所はだんだんと頭へと近づいている。
誠は平和を取り戻すための仕事を始める。

  • 西一番街テイクアウト

誠はウエストゲートパークで少女と出会う。といっても偶に眺めるぐらいだった。別にロリコンではないのだから。少女はよく街頭に流れる曲に合わせて踊っていた。だが、好みの曲でないと踊らずにただ本を読んでいた。
ある日編集部から書評を頼まれたときにウエストゲートパークで本を読むことにした。内容は黒人ラッパーの成り上がり自叙伝。夢中になりながら読んでいるとその少女が「面白い?」と聞きに来た。その時に二人は名前を交換した。彼女は桜田香緒と言った。
その次の日、またウエストゲートパークに本を読みに行くとやはり香緒は居た。が、途中でコンクリートを打ち付ける音と共に香緒は後頭部から崩れ落ちる。駆け寄ってみると凄い熱だった。誠は店に連れ帰って、寝かすことにした。携帯電話を貸して貰い、親への連絡を入れる。
その夜、十二時の半をまわったあたりに香緒の母親がやってきた。見た目は水商売、実体も大して変わらなかった。
誠はそれから香緒母親が売りをしているのを知ったが、場所が外国人ばかりの所にあるので、邪魔をされているという。暴力をふるわれているというのも察知した。早速サルに電話して聞いてみる。正攻法では難しそうだった。そこへ現れたのは誠のおふくろ。彼女なりのやり方でこの問題を解決するという。

  • キミドリの神様

池袋の地域通貨を推進するNPO団体のトップから誠のPHSに電話がかかってきた。キングからの紹介だそうだ。小此木克郎と名乗ったその男はこれから事務所に来てくれないか?と言った。もちろんいつもの厄介ごとの解決依頼って奴だろう。誠はビルの事務所へ向かった。
小此木は身なりの佳い紳士だった。誠は当然依頼の経緯と説明を求めた。そんな誠に差し出されたのは今朝目にした地域通貨だった。「ぽんど」と名付けられたこの通貨は独自の経済を回している。二枚差し出された紙幣は片方だけが本物だという。そう、今回の依頼は地域通貨の偽造犯を突き止めるという物だった。何故地域通貨という物が必要なのか、そう問う誠に小此木は何度説明してもその度に慣れることはないという。地域通貨というのは雇用創出の為の一つの手段だという。国で作られている通貨は既存の枠にはまっているためフレキシブルにサービスを提供しようとしても無理な側面がある。特に若年層は職に就くことすら難しい。その為に地域は何が出来るか?という答えの一つがこの地域通貨なのだという。自分が出来るサービスを提供してその対価を地域通貨で得る。地域通貨といっても国の通貨との両替も出来る。きちんと経済はまわるのだ。
誠は若年層の失業率を目の当たりにしているので素直に感心した。そして早速仕事にかかり始めた。

  • 西口ミッドサマー狂乱(レイヴ)

キングが誠に電話で幕張まで来てくれといったのは冗談ごとでもなんでもなかった。しかも時間は夜中の十二時。問いただすとレイヴが開かれるらしい。徹夜で騒ぐ西洋盆踊り。また仕事の話だろう。キングは受付に誠用のチケットを預けておいてくれるといって電話を切った。二枚くれるらしいので知り合いのエディを誘うことにした。女友達はみな口をそろえたように「また誘ってね、まこちゃん」と言ってPHSを切ったからだ。
エディはジャンキーだ。それも何でもかんでも喰って試す類のハードなジャンキーだ。レイヴには薬は切っても切れない関係がある。別にそれが何かの影響を与えたとかそう言う話じゃない。レイヴは音楽と踊りと薬で成り立っていると云っても佳い。ま、それでもエディを誘ったのは単なる気まぐれだった。
レイヴ会場は盛況だったが、誠の頭は随分と冷めていた。そこにキングから電話が入る。スタッフルームへ来るようにとのことだった。
対応したのはトップとお抱え美人歌手(片足義足付き)で、詳しい話は先延ばしにされ、ドラッグとレイヴの歴史を聞かされることとなった。頭の中で要約されたのはソフトドラッグは見逃し、ハードドラッグを押さえる、そんな内容だった。トイレで出会ったウロボロスと呼ばれるドラッグを特に排除したいらしい。片足を突っ込んでしまった関係上、そしてキングの紹介というしがらみから誠は渋々仕事を引き受けることにした。

感想

石田衣良九冊目。もういいかなぁと思わなくもないですが、前作と一緒に借りてきているので読みました。
今回も前作前々作と大して代わり映えしない感じです。子供の関わる話を一編、年の行った人の話が一編、その道の(社会派)エッジの話が一編、最期に若者の風俗に関する話が一編。すっと素直に入ってくる言葉の群れは中々魅力的ですが、この人の文章は砂糖付きオブラートにくるまれているので生な感じはしないんですよね。優雅に上品にお高くとまった社交辞令のように。土足で人の心の中に踏み込むような手荒なまねをしているように書いてはいる物の、しっかり作者はそこの部分を書かずに見えないところで靴を脱いでいるというか、まるで舞台ですよ。割り振られた役割を唯々諾々と舞台監督の望むように演じる役者のようでもあります。どこか真剣みが足らないんですよね。そして、きれい事ですませすぎる。そこにあるのは感情であっても怒りでも悲しみでもなく、哀れみでしょうかね。ただひたすらに傍観者であろうというしているのが、読者に語りかける文体で分かります。この文体は媚びも帯びているので気持ち悪いです。ここで断定したいのは作者がスノッブだって事でしょうかね。スノッブについてはここ参照。
ま、ここまでは今まで読んできた作者の著述から出る端的な評価ですな。この作品に拘らずほぼ全部の作品に当てはまるんじゃないかなぁ。唯一の例外は『Last』ですが、これはこれでネタが被りすぎて一編だけなら佳いものの、一冊の本としての出来は最低でした。って作者の今まで読んだ本を総括してどうするんだかって感じなのでここら辺にしておきます。
本書についてですが、色々見て回ったところ三作目にして前作、前々作と比べてパワーダウンという言葉が踊ってました。でも正直こんなもんなんじゃないか?って評価は変わりませんね。正直言って前作前々作とそこまで変わらない出来だと思いますよ。軽佻浮薄というこの作者のためにありそうな言葉で表すと、このシリーズはそれらしい若者のそれらしい話をそれらしい社会的な話と絡める事によって成り立っている社会派物の風俗小説を若者に受け入れられるように作られてるわけです。軽佻浮薄故に内容は特にない。仕事は常に片付き、友を得るか友をなくす。佳い思い出は出来ても、決して佳いことには繋がらない。悪くはないけれど佳くもない。絶望の深さを覗かずに希望を語るようで浅いんですよ。でも軽さで読書をしない人が本を読むきっかけになればそれはそれで僥倖だとは思いますがね。
ライトであること、その時代の先端のネタを集めること、褒められるのはここら辺ぐらいですかね。あとはジャンクでしょう。ミステリーとしては三流以下。それにしてもだんだんと暴力性や怒りから遠のいていきますね。仏心がどんどん強くなってるんでしょうか。本来ノワール的な色彩が強い話でもあるんですから上がりの話をぺーぺーに語らせるのはダメっぽいって感じるのは私だけですかね。
そうそう、頭部切断は神戸須磨児童連続殺傷事件からまた持ってきたんでしょうか。二度も同じネタ使うのもどうかと思います。
65点
追記:唯一の収穫はゴアトランスのゴアってのはインドの地名って事を知ったことですかね。オランダとかの地名かと思ってた。

参考リンク

骨音―池袋ウエストゲートパーク〈3〉
石田 衣良
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