石田衣良 少年計算機 池袋ウエストゲートーパーク

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あらすじ

  • 妖精の庭

Webcamのモデルを仕事にしているアスミは最近ストーカー被害に悩まされていた。アスミをスカウトした元女の現男はショーといい、小学校時代の誠の同級生だった。そのよしみで仕事を頼まれた誠ははじめっから出そろっている情報から追い込みをかけることにした。

  • 少年計算機

エストゲートパークで出会った少年は変なガキだった。名前は多田広樹。観察から接触へ向かってわかったのはこいつがLD、つまりラーニング・ディスアビリティだということ。もしかしたら自分もそうだったのかも知れない。誠はその奇妙なガキとそれとなく付き合うようになる。奴の特技は数字にまつわること。なんでもかんでも数えずには居られないのだ。ただ、広樹は両親に恵まれていなかった。母親は芸能人だから恵まれていないというのは言い過ぎに聞こえるかも知れない。でも父親は池袋の三巨頭の一人多田三穀夫だったりするわけ。金銭的には恵まれているのかも知れないが、それ以外はダメだ。母親のシャロン吉村は広樹の初めての友達を歓迎したが、決して手放しではなかった。どうやら誠の個人情報を洗ったようだ。そこからはじき出された結論は、白って事らしい。だからといって何がどうなるわけでもないのだが・・・。
ある日、デニーズでゼロワンという凄腕の情報屋に広樹とつるまない方がいいと助言される。持ち前の反発心ではねつけるが、後に広樹が誘拐されるという羽目になってゼロワンが正しいと言うことを知る。広樹をさらったのはシャロン吉村のもう一人の息子らしいのだが・・・。

  • 銀十字

誠は礼儀正しい老人とひたすら卑猥な事ばかり言っている老人と知り合う。勿論向こうから声をかけてきた。仕事の話だ。ここ池袋で多発している引ったくり事件を解決して欲しいのだそうだ。ここには来ていないとある老婆がその被害者となって腕と骨盤を骨折する被害に遭い、その報復の意味もあるみたいだった。あくまで仕事は仕事、だが、辛苦の人生を生きてきた老人達が金銭的に汲々としているのを感じ取り、報酬を受け取らない方針にしようとしたが、向こうはガンとして譲らない。結局三千円かける24回で手を打った。
被害者となった老婆から情報の提供を求めると、ひょんな事から重要な情報が出てきた。誠の持っているボールペンだった。ヘッド部分に輝く正十字のメタリックな装飾を持つこのボールペンはなんとかというブランドの物で一本七万円もするらしい。だが、べつにボールペンが高ければそれだけ佳い記事が書けるというわけではない。でもなんとなく誠は身につけていたのだった。犯人は銀髪、及び正十字の連なったブレスレットを腕にしていたという。重要な証言だった。
誠は自分が寄稿している雑誌の方向からそのブランドの中核と話を持てないか打診を始める。

  • 水のなかの目

短い記事だけに飽き足らなくなった誠は少し長い原稿に取りかかることにする。走ることや山を目指すことと似ている。そこで頭に浮かんだのは千早女子高生監禁事件。被害者はさんざんな目に遭った挙げ句衰弱した体力でふらふらとしているところ車に轢かれてあの世行き。綺麗に引かれたところで死にきれなくて搬送された病院ですら何か食べ物をねだりながら死んでいった。無惨な話だ。
誠は従犯ということで保護観察処分で済んでいたアツシに連絡を入れていた。詳しい話を聞くために。
一方街では大人のパーティが襲われていた。大人のパーティってのは非合法の風俗の一種だ。一定の期間普通のマンションの一室なんかで行われた後、すっと姿を消す。勿論警察は噛んでいないので地元の組織のどこかに尻持ちをして貰っている。そんな危ない事をする連中が居るというのも驚きだが、もっと驚くのは一件だけではないということ。誠は三大巨頭の二人から呼び出しを食らって、この件を調べて欲しいと打診された。当然ガキの王のキングも一緒だった。条件は一つだけ、自分は一人で動くという物だった。普通なら舐めていることになるんだろうが、顔が通ってるのですんなり行きそうだった。だが、一人知らない男里見は更に条件を付けてきた。ボディーガードを一人つけること。必要となれば、撒けるだろいう自信も有ったので承諾した。
そうとなれば勿論情報収集だ。だが今日はもう遅かった。翌日現場に向かうことにする。
ボディーガードは無口で待つことに慣れている通称肉屋のミナガワ。市場から商品を買ってきて開店準備を始めているところに男はやってきた。一通り済んだところで店を母親に任せた。
着いた先はコンパニオンが全員障害者という店だった。そこで手に入れた情報は犯人の一人の背格好の情報、そして左手の肘の裏にタバコの根性焼き。ただそれは五角形を表すかのように五つあったそうだ。
次の店は外人ばかりなので、英語の出来ない誠は苦肉の策で先ほど話を聞いたマドカに同行を願った。彼女はたまたま大学の福祉科に通っている学生で、障碍は持っていないということだったし、大学生ならば誠などより英語も達者だろうとの考えからだった。しかしそれが裏目に出る。マドカは翌日犯人グループにさらわれることになってしまった。

感想

石田衣良八冊目ですか。人に読まない方がいいといいながら、図書館から予約入れていたこの本が来てしまったため読むことにしたwhiteowlです。なんだかんだいいながら、回転率が佳いみたいですよこの本。一応シリーズで五冊も出てますしね。
しかしまぁ、ちょっと短絡的な話ばかりですわ。まだこれなら前作のほうがましのような気がします。短編*3+中編*1という構成からしてきちんと整えた話を書くというのも無理がありそうな感じでもありますが。でも定型パターンで書こうとしている感じを受けるのでそれならば長編で書けば佳いんじゃないのかとか思わなくもないです。特に今回の中編『水のなかの目』はあまりにも思った通りに事が進むのでちょっと萎えました。最初の9ページで全体像がつかめちゃうってのはどうでしょう・・・。迷彩かます方向を差し挟んで欲しいという感慨を持ちました。そうすると必然的に長編ということになるので、頑張って書いて欲しいところです。でも作者は短編の人だからなぁ・・・。
ミステリー好きな読者が求める物はほぼ無いかな。ただ、エンタメとして読むのならば、ライトな闇世界物ということで好奇心を満足させたり、暴力描写で楽しんだりは出来ると思います。
文章的には多分今まで読んだ石田衣良の本の中でライトです。というか、吹っ切ったんですかね。もろ「卑しい街をゆく高潔の騎士」の現代版というのを地にすることにしたらしいです。故に誠という主人公は仕事じゃない仕事ばかりに振り回されることになります。もうここまで来ると道楽の気がしてならない。でも本人的には仕事なんですな。偶に金は入るが、大概は依頼人という友を得る。なんとも日本的な感傷的チャンドラーイズムですわ。こうなってくると、時代物とかの方向性に近いかも知れない。舞台背景なんかはあくまで現代ですがね。
否定的な方向では、「また出たぞ!有名な事件」が一件。"コンクリ"でググれば一番頭に出てくるような事件です。そう、女子高生コンクリ詰め殺人事件。やっぱりどっかの事件からインスパイアしないと話は出来ないみたいです。事件のネタからの引用の創作はもう辞めてほしいなぁと思う次第。被害者感情とか度外視ですからね。前に読んだ何かの本のあとがき曰く「事件追悼」の為らしいけど、どう考えてもそうじゃないのは明白だと思う。白々しいのも大概にしておいて欲しい。
ただ、普段本を読まない読者には丁度いいんじゃないかな。でもドラマ版をあらかじめ頭から追い出しておいたほうが無難です。
68点
追記:文体は相変わらず誠が読者に語りかけるスタイル。初っぱなに来ている『妖精の庭』はドラマ版で確か使われたネタの一つ。

参考リンク

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