大沢在昌 天使の牙(上・下)

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あらすじ

河野明日香は信頼する上司に見込まれて有る女性を保護しに行く。それは超極秘任務のはずだった。その女性、神崎はつみは西日本だけでなく東日本にも手を伸ばしつつある犯罪組織「クライン」のボスの愛人である。クラインはアフターバーナーと呼ばれるアッパー系ドラッグでシャブやヘロイン、コカイン、大麻を駆逐していった新興の組織だが、古株のヤクザ組織は飲み込まれるか潰されるかの二択が常に待っていた。何しろクラインは警察にもその手を伸ばし、浸食しているために地元の警察も役には立たないのだった。当然ヤクザはクラインから手を回された警察によって取引情報や、売人が摘発されまくり弱体化していくのだった。
はつみは君国辰郎の手から逃れたが、警視庁の幹部が君国と会合を持った時に相手の顔を覗いてしまったことで汚職の重要な証言者となるはずだった。しかし、同時にクラインだけでなく警視庁の汚職警官からの追跡すら受けることになるのだった。当然その人物にとって死活問題なのだから。
明日香は九州に飛ぶ前に同僚でありバディである古芳刑事から指輪を渡された。本当は上司の芦田の言を守るならば、誰一人として接触してはならないのだが・・・。明日香は決して可愛い女というわけではない。だが、男勝りな明日香にとって、初めて古芳こと仁王が頼れる男だった。この指輪は不器用で無口な仁王のプロポーズの証なのだろう。生きて帰ろう、そう強く思った明日香だった。
明日香とはつみの接触、それは細心の注意を払ったはずだった。しかし明日香が自分の部屋にはつみを連れてきてすぐに爆音がホテルを駆けめぐった。窓のすぐそこに現れたのはヘリで、一つ目の機関銃の銃口が二人を狙っていた。
そしてすべてはブラックアウトする。
半年後明日香は目覚める。体に違和感を憶えながら。上司の芦田と会ったことで霧がかかった頭がシャープに働くようになった。そして知る脳移植の事実を。明日香ははつみの体に押し込められたのだ。いつ拒否反応が出るかも知れない、危険な体だった。芦田はそんな危険な状態にある明日香に一つの提案をした。囮になってはくれないか?と。明日香は芦田に条件を出した、ことが終わったら殺してくれと。

感想

大沢さんの本、ここで書くのは初ですね。でも確かもう十冊程度は読んでたような。新宿鮫はほとんど内容忘れちゃってるんで二冊以降読み直しかなぁ。でもありゃもう随分古いシリーズでもあるんで読み直す必要があるか、ちょっと疑問でもあります。
本書の変遷はなかなか驚きです。まず小学館でハードカバーが出て、光文社でノベルス判になり、角川書房で文庫化。激しく珍しいですよ、このコンボ。私が読んだのはノベルス判だったんですが、これはハードカバーの奴を加筆修正したもので二分冊した物という位置付けっぽい。加筆修正というのは重要な点ですな。故にハードカバーは辞めた方がよさげ。まぁ、光文社が小学館から買うのはなんとなく予想もつきます。光文社のカッパノベルスでは新宿鮫シリーズをだしてますしね。角川が文庫判の為に買ったのは映画権のかねあいでしょうか。
にしても本作は映画になってるので概略が分かりすぎで上巻のほとんどは予定調和ですね。まぁ、宣伝したからしょうがないんでしょうが。無骨な化粧っけのない女性が、見目麗しい外見を手に入れるとかはなはだ男性にとって魅力的な話ではある物の女性にはほとんど見向きもされない話なんじゃないでしょうかね。大沢さんがこんな話を書くとは個人的には相当に驚きでした。だってまるでラノベか安っぽいハリウッド映画のようですし。脳移植とか云ってますが、脳だけ移植なんて手段が有るわけ無いじゃないですか。一体脳はどのレベルで移植したんでしょうね。全脳なのか前脳なのかってだけでも相当気になるところです。だって脊髄関係に手を入れられて復帰できる物か甚だ疑問だからです。それが出来るなら脊損も手があるはずでしょう。まぁ、物語ですから野暮なことは言いっこなしですが、やってることは秋本治の『ミスタークリス』や『ロボコップ』並ですな。
設定が安っぽいのでどうにも内容も安っぽくなってる気がします。でもサスペンスとしての期待感は標準以上ではありましたね。ハードボイルドやサスペンスに特有の重苦しい空気感は文章からにじみ出てますし、鬱っ気にも触れました。脇役かと思ったら結構本編に食い込んでくるキャラとか意外性は中々でしたが、それでも予定調和の感覚はぬぐい去れませんでした。何かが足りないんです、何かが。恐らく感情移入させるだけの怒りの質量、出力があまりにも低すぎる。やはり女性視点が中心に据えられているからだと思います。元々強力だった肉体から軟弱な体に移り弱気に苛まれる主人公はあまりにも怯えすぎていて、狡猾に立ち回ろうともそこには自己の保身が垣間見えます。従って怒りの導火線に火を付けるには低温すぎるんですわ。そもそも被害者ですしね。まだ仁王視点の方が燃えられそうです。
さて、なんでこの本を読み始めたかというと本屋でこの本の続編を目にしたからです。ミーハーですなぁ。とはいえ、大藪亡き後のハードボイルド、ノワール路線の後継者の一人でもある大沢さんの本を読まないわけにも行かないんですわ。
今回は設定に拘り過ぎてたかも。普段このジャンルの本を読まない人にも意外性から読む切っ掛けを与える本ではありますな。とはいえ、本領発揮にはほど遠いかと。緩いですしね。ただ、長所としては、キャラクターメインで書かれている所かな。一般人向けになっているというか、なかなか外連味に満ちた奴らが出てきますから。
73点
蛇足:映画版の仁王は大沢たかおではなく、照英にやらせた方が佳かったような。どう考えても大沢たかおじゃ体格が悪すぎる。演技でなら大沢たかおの方が全然いいんだけどね。なんか映画の方は随分原作から手が入ってるとか。
友人に勧めたけど、大沢在昌の文体はかったるいんだそうな。この文体でかったるかったら読めない本が沢山ありそうなんだがなぁ。大藪とか絶対読めなそうw。

参考リンク

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