岩井俊二 ラヴレター

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あらすじ

渡辺博子は婚約者の藤井樹を山で失った。裂け目に滑落した樹を当時既に遭難していたパーティは仕方なく見捨て、救助されたのは三日後だった。あの日から二年が経とうとしていた。
三回忌の席上で博子は樹の母親の安代としみじみ昔話をしていた。ふと書棚からのぞいた背表紙には「小樽市立色内小学校」の文字が躍る卒業アルバムが鎮座していた。なんでも卒業する前に引っ越してしまったとか。アルバムに残る彼の写真は遺影のように丸く切り取られて浮かんでいた。博子はふといたずら心をおこして安代の目を盗んでそのアルバムの中に書かれているだろう当時の住所を書き留めた。
その夜、博子はその住所に向かって手紙を書いた。文面は単純だ。

拝啓、藤井樹様。
お元気ですか? 私は元気です。

渡辺博子

色々書いてはみたものの、何を書いて佳いのか分からないまま最期に決めたのがこれだった。もうこの世には居ないというのは分かっている。でも、それでもどこかで奇跡を信じていた。

藤井樹は手紙を受け取っていた。なんとも摩訶不思議な手紙だった。宛名の人物にも全く憶えがない。住所は神戸だった。これも接点と呼べる物は浮かんでこない。それにつけても音信を確かめるような手紙だった。一体何をしたいのか分からない。彼女は気まぐれに風邪気味のことを書いた手紙を返信した。相手の意図を探ろうと。

感想

岩井俊二の本三冊目。これで懲りたいんですが、まだ一冊手元にあるんですよね・・・。観念して読むか。
ま、本書はほとんど内容ペラ紙です。ワンアイデアでさらっと書いた恋愛追憶物。女性向けなんじゃないかなぁ。でもひねりもないので深読みとかしなくても話は進みますね。別にファンタジーでもないし、読み手は選ばなそう。でも恋愛物だーという観念からはいると足元は掬われるかと。だってもう居ない人についての成就することのない思いだから。翻って悲恋好きはそこそこいけるんじゃないかな。
一人の男の過去を二人の女が追うって形式ですが、点と点でその間の交点であった人物が欠如したことによって初めて点同士が結びついた、という形とも考えられるので逆にどちらかが異性であった方がネタ的には佳かったような。登場する秋葉は悪い男ではないのかも知れないが存在感が希薄で登場させる必然性はあまりない。友達として付き合うのは佳いのかも知れないが、それ以上にはなりにくいとか短い紙面ですが感じましたわ。結局そのあたりの記述がないので尻切れトンボとも言えますしね。ま、映画にもなってるのでわざわざ本を読む必要もないかも知れません。映画の出来はよく知らないけれど空気感を感じるなら多分映画の方ですかね。小説の方ではあまり大事にされていないような。しっかし少女漫画で書かれてそうなネタなんですよねぇ。感情描写も死んでから二年ということで有る程度落ち着いて入るんだろうけど、そっちの方に全くと言っていいほど傾かない。叙述させても佳かったんじゃないかな胸の内を。小説で出来て映画で出来ないのは感情のほとばしりを胸に秘めているって事をことさら強調できないって事なんだから*1映画では出来ないことを小説でやるべきだったんじゃないかな。でも作者はそこまでの努力はしてないな、こりゃ。まぁ、読み終わったらにっこりは出来るだろうけど、後味軽やかなだけにすぐ忘却の彼方だわ。好きな人は好きだろうけど、恋愛に拘泥するにしてもこりゃあちょっと私はダメだわ。
もっとひねりがあったらなぁ。
55点
蛇足:これ、岩井俊二の映画監督デビュー作なんですってね。映画の方は中山美穂一人二役とか。つい先日もフジで放送してたみたいだけど、見逃したなぁ。まぁ、この内容じゃ見なくても佳かったかも知れないが。

参考リンク

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*1:ナレーションが度々入りまくる映画ってのもあることはあるけどね