倉知淳 日曜の夜は出たくない

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あらすじ

  • 空中散歩者の最期

ちまたを騒がせる死者が居る。まるで空中に沸いて出たような死体なのだ。科学的見地からすると20m以上の高さから落ちなければこれほどの衝撃は受けないはずなのだが、死者の周囲のビルの高さは20mもない。むしろ500m以内に20mを超える建築物そのものが無いのだ。
僕はその空中散歩者になった夢を見ていた。

  • 約束

共働きの両親を尻目に鍵っ子の麻由はぽつねんと家に居るのが嫌だった。誰も居ない薄暗い家の中でただ一人でいる寂しさに耐えられなかったのだ。肌を切るような寒風吹きすさぶ中、麻由はそれでも自分の居場所を求めるかのように彷徨した。家の近くにある通称六角公園でおじさんに会ったのはそんな時だった。おじさんはどこか所在なげに寂しげな雰囲気を漂わせながら一人ベンチに腰掛けていた。麻由は気付いてしまった、同類だと。矢も盾も堪らなくなった麻由は普段の引っ込み思案などどこへやら気がついたら話しかけていた。

  • 海に棲む河童

大学生二人が雑誌の記事に踊らされて西伊豆の海岸にやってきたのはゴールデンウィークの頃だった。いくらなんでもこの時期に海水浴にやってくるうら若い女性が居るはずもなく、ただ人の居ない海岸があるだけだった。二人は騙されたと思っていたが、普通に考えて気温も水温も低い時期に海水浴に来る奇矯な人物が来る方が珍しい。レンタカー代やガス代を考えるとどうにもしゃくに障ったので二人は猫丸先輩がアルバイトをしている遊覧船こと渡し船に乗ることにしたのだが・・・。

  • 一六三人の目撃者

小規模の舞台演劇の最中メインの俳優が死んでしまう。パニックが起きないように女優がアドリブで繋いだのだが、残るのは誰が殺したか?ということだ。

売れないフリーライターが小規模月刊誌の編集長にねじ込まれた仕事は「TOKYO不思議スポット」を紹介するというものだった。徹夜明けで鈍った脳で渋々承諾すると、言い捨てられたのは夕方の六時がデットエンドで枚数30枚。いくらなんでも無理だろうと思いながら筆を走らせるが妙に古式ゆかしい文体になってしまう。先ほどまで怪異体験記事に取りかかっていたせいだろう。実際の現地に行かずに想像だけで書いていたのだが、やはり無理がある。取材にむかわなければならないか、寄生虫博物館へ。

  • 生首幽霊

NHKの受信料の集金を生業にする男はその日災難だった。集金を求めると逆に宗教への勧誘をされたり、うら若い女性だと鼻の下を伸ばせばNHKの集金と聞いた途端に灰皿が飛んできてよけた弾みに怪我をするとか・・・。顔の怖い人物へ集金に訪れると何故か普通に払って貰えたという僥倖もあったにはあったのだが・・・。
怪我をさせられた女性へ酒を飲んだ勢いでちょっとしたいたずらをしようとゴムの蛇をそのアパートへ行ったのだが、何故かドアが開いている。不用心だなぁと思いながらそのゴムの蛇をセットしようとしたが、変な物が視野に入ってくる。玄関からまっすぐの部屋の中央に鎮座するのは人の生首。聞こえてきたのは・・・「オマエヲ──ノロッテヤル」

  • 日曜の夜は出たくない

今まで長く付き合っていた男性と別れることになって男性不信気味になっているOLはようやく次の男を捕まえていた。捕まえられた男は優柔不断気味で優しい。前の男性が自己主張型だったことによる反動だろうか。プラトニックな関係を未だに続けているのはやはり男性不信の後遺症なのかも知れない。
最近では日曜に二人でデートをする、それが日々のモチベーションアップに一役買っていた。もう私も若くはない。だが、彼女はデート後発見してしまう。彼女の自宅の近くに彼らしい人影を。いつもデート後45分経った後に電話で雑談するのが二人の習慣だったのだが、

  • 誰にも解析できないであろうメッセージ

隠されたメッセージの解法

  • 蛇足──あるいは真夜中の電話

ひねくれまくった作者あとがきの様なもの

感想

何の因果か順番バラバラに読んでいる倉知淳の処女作を読んでみました。とはいえ本来の処女作となると五十円玉二十枚の謎の方の奴になるんでしょうが、本としてはこれが処女作です。これで読むのは四冊目ですね。なお、この本は猫丸先輩シリーズの一番初めの本と言うことも出来ます。
随分と統一感の無い構成ですが、筆者の多才さを表す論証として考えるならば特に問題はないんじゃないでしょうかね。それに一見纏まりのないこの構成にも実はきちんと意味を持たせてたりします。また、謎を筆者自らが説明しているので悩む部分はほぼ0ですが、マニアからミステリーをそもそも読まない人までボーダレスに読める本であるのは確かです。個人的にはこの猫丸先輩シリーズの1なるひな形である本書の本編部分は今までの物の中で一番好きかも知れません。熊さん八っつあん式の落語じみた語りにはユーモアがにじみ出てますしね。ただ、それについては他の本、例えば『猫丸先輩の推測』あたりでもっとアクが強くなっているのでそっちの方が落語じみた語りで言えば面白いと感じるんでしょうが、本書の場合それだけじゃなく前述したようにテーマを変えたネタで色々な方向でも書けることを証明したという点で、オムニバスの映画を見てるが如く基礎は同じなのに載ってる具が違うという読者を飽きさせない労苦を初っぱなから買って出ている気っぷの良さを感じました。
とはいえ、読者に余地を残さない様に頑張りすぎているので私にはちょっとばかし、最期の二章は蛇足かなぁとか思ったわけで。
昨日もフェア、アンフェアということについてちょっと首を捻ったわけですが、今回も作者の考えていること読者知らずみたいな点が強調されるようなネタが仕込まれてましたね。ただ、あまりにも分かりづらいので、作者自らがばらすという「どうなのそれ?」な手段を使ってましたが。謎の追究ということでは、まずしかるべき設問がなければ解答を出すという思考回路にあまり直結しないと思うんですよね。ただ、ミステリーって事ならば、特にその謎という部分を突っ込んでやり合うものなので、何もかも疑ってかかり、妄想なのではないのか?と思われるぐらいやらなきゃならない物なのだろうかなぁとか感じました。
この本のなかでの好みは「約束」かな。子供を描くって点ではぴかいちかと。どうにも泥臭くなる人が多い中適切に言葉を紡ぎ上げているのにはにやりとしますね。
ミステリーってことでなら「一六三人の目撃者」も捨てがたい。短い枚数での説得力はそれなりだし、キャラクターの肉付けも強烈でいい。ただ単にステレオタイプをなぞってるだけとか言わないように。ま、演劇に関しては門外漢ですから語る言葉はないですな。
色々な話を書ける人だと言うことをこの本で証明しているのですから、寡作ではなく猫丸先輩以外の何かも読んでみたい今日この頃です。
ああそうそう、敵役とか欲しいところです。猫丸先輩に話を聞けばすべて丸く収まるという神探偵の終幕帰着型はそろそろ飽きてきました。いやこの作者のこの本にというわけじゃあないんですが。単に読んでる本が偏ってるだけなのかも知れませんがね。
70点
追記:激しくどうでも佳いことですが、表題作はセカイ系の走りみたいな話でした。自意識過剰で思いこみが激しくて世界の中心は自分とかどう考えてもそうでしょう。ま、存在そのものが名付けられたのが遅いだけですが。

参考リンク

日曜の夜は出たくない
倉知 淳
東京創元社 (1998/01)
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