岩井俊二 スワロウテイル

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あらすじ

円都(イェンタウン)という街がある。そこに住まう異邦人達は街を指して円都と言ったが、日本人が円都という時にはそこに住まう民を指していた。穿って言えば雑多な人種と国籍の混じるスラム街だ。
そこで売春婦をしているフィリピンからの不法入国者のフニクラグリコ*1は兄フニクラナオミ*2のと共に暮らしていた。グリコの仕事場は自宅の古びたアパートで行っていた。
兄は外人墓地の守衛をしているのだが、ひょんな事から棺に金目の物を入れるということが分かったので、友人のヒョウとリンにその話をした。その後墓暴きにせいを出すことになるのだが・・・。

感想

岩井俊二の本二冊目。前に読んだ『ウォーレスの人魚』と引き比べると甚だしくスカスカ。ほとんどプロットの様相。まぁ、あとがきで作者が言い訳しているように元々企画書の体で出された小説だから仕方ないわな。
現代のおとぎ話、そうしっくり来る話ではある物の、少々時代を感じないでもない。1996年に世に出たと言うことは丁度平成不況の鍋底期に当るわけですよ。前年の1995年というと橋本龍太郎が首相になって政治向きが変わるかな?と期待させた挙げ句の不景気でしたよね。バブル期に青春を送った人々には金満期を思い出させまいとする心理的なロックが世相として蔓延してたわけですが、本書もその毒に染まってますなぁ。
以下くくりは駄文なので読みたい人だけ。
ふらふら思うままてきとーに書いてるので、不愉快にしかならないかと。

端的に言って世界への進出、札びらで頬を叩く交渉、金でなんでも賄おうとする傲慢さ、そういう物が異常であり、唾棄すべき物として捉えるべきだと「どこかの高邁な識者」が唱えたかなんかしてそれに付和雷同することで精神的安定を得ようと足掻いた果てが自虐的な内省に結びついたと。例えばフィリピンなんかで商社マンが現地妻を得ていたが、バブルが弾けて本社へ逆戻り。そしてフィリピンの家族は取り残される。そんな事柄をことさら論ってみたり、日本人の開発は手荒でトラックで現地人を轢いても賠償金が安く済むからひき殺すだとか、自然破壊を担ってるとか、そういう無為こそ至高という、禅じゃ有るまいし生活する上では無理があるだろ!って方向へ極端な針の振れ方をして世論を誘導するメディアが有りますが、自縄自縛ですよね。日本人は自国のことを悪く言って悦に入るマゾが多いらしいんですが正直馬鹿ですよね。だって普通自国の外に出て大概の人間は自国の話題を会話の糸口なんかに見いだしますが、日本人は自国の文化にほとんど興味がないんですから。自国を悪く言うことで何をしたいのかわかりませんが、自分の無知を恥じるという事からまず初めて欲しい。上記の日本人はバブル期にアジアで酷いことをしてきたってのはほとんど都市伝説に近いほどの誇大に膨らませた話だったりします。とはいえ、現地妻問題なんかは事実だったりしますがね。しかし、戦後の日本でだって「あめりかさん」なんて言葉が出来るぐらいですから、経済格差のある国ではどこでも起こりうる事だとも考えられなくもないです。世界でどこでも起こりうることをことさら論うのはメディアの悪い癖なので情報のフィルターの透明性が求められていますね。恣意的な情報で誘導する類のことはどこでもやってることですから。
翻って日本の文化ですが、細々と続いている伝統工芸のなんと多いことか。そのほとんどが華麗な技巧を連綿と紡いできていたのにここ最近は廃れることの方が多いです。ブランド物を買いあさる馬鹿に聞きたいですね、そのブランドはどこの国の物で何が優れて居るんですか?と。デザインとしか答えられない人が大半でしょうなぁ。単なるステータスアイテムで体をデコレートしているだけですよ。ファッションとはそう言う物なのだ、という消費者嗜好を反映しているのは明白なのでヒトラーの「大衆は豚」の名言を思い出さざるをえないです。まぁ、感性という人それぞれ比べることの難しい性質で物を語れば万事解決な気もしないでもないです。
かなり話がそれたので戻しますが、大量生産大量消費の流れが変わってきてるのは確かです。ただ、元々それを批判してきた連中の思惑とは少し違うようですが。下手な平等志向が「100人の地球村」を生み出した通り、少数が富を独占している経済モデルが崩壊に向かってるだけです。これは経済を担う蛇口であった石油生産が経済規模の上がってきた国にも必要になったため、総体としての必要量の確保が難しくなった為であって、古き良きはすばらしいではないわけです。単にエネルギー問題なんですよ。あとは地球規模で考えると温暖化と異常気象の干ばつ現象あたりですかね。スローフードとかスローライフとかIターンとかで田舎に幻想を持ってる人たちの朽ち果てていく様は実に醜悪です。金持ちだけが優雅に出来るだけで幻想だけで実現に移しちゃったりするとひどい目に遭います。基本的な矛盾点*3が見えてないのです。夢とか希望とか好きなように呼ぶのが佳いんでしょうが、歳を取ってからの農作業はきついですよ。それに儲からないし、不安定。何か遠隔地でも出来る技術が有れば別ですがね。田舎は過疎で仕事がないというデフォな環境を勘定に入れない人のなんと多いこと。独身で朽ち果てていくなら佳いけど、家族にもそれを背負わせたりするのはなんか違いませんかね。『北の国から』なんかは人によっては郷愁を呼ぶんでしょうが、私にはあそこに住む意味が分かりませんね。雪深い富良野は観光名所になってウハウハでしょうが、似たような場所はごまんとあるでしょうなぁ。
そういえば、書き忘れてたけど地球規模の問題で大きいのがありましたな、人口問題。先進国の少子高齢化傾向、途上国の人口爆発。エネルギー問題をクリアしても場渡り的な物にしかならないです。未だにアフリカ大陸に産業の根が降りるには至らず、乳幼児死亡率が上がるだけという現実をユニセフに寄付する人の内どれだけの人が気付いて居るんでしょうかね。即時的な死と緩慢な死、どちらが人道的なんでしょうか。「やらない善よりやる偽善」という言葉が2CHで蔓延しましたが、割り切るにはイムジン川が多すぎる。知るは苦悩の始まりですわ。

駄文終了

好意的に見るのならば、アメリカナイズした話を日本に持ってきたかったって感じなのかな。他文化ごちゃまぜ人種の坩堝の掃きだめなんざぁ日本じゃとんとお目にかからんしね。作中移民移民と出てくるけどオーバーステイですらない不法入国者ばかりですな。昨今少子高齢化が更に進行する懸念から移民政策をとりいれたらどうか?というのが偶に聞かれますが、単純労働者じゃなくてホワイトカラーならば賛成かな。中国・朝鮮半島系やらつてを伝ってくるブラジル系やらの犯罪者率を考えると単純労働者では何するかわからんわ、ほんとに。それに単純労働の資源として門戸を開くとスラム化しますよ、ドイツやフランスのように。それでなくても中国系やら朝鮮系やらのマフィアが跳梁しているのだから、治安の乱れが現在以上になるでしょうなぁ。現在ですら警察はオーバーフローしているって言うのに、ビザなしとか有り得ないわけですが。南朝鮮系の日帰り犯罪者のなんと多いことか。協力求めても非協力的だし意味が分かりませんわ。徹底した反日政策を掲げる国と親しくしようなんて政治家の腹芸ならまだしも、一般のレベルまで降りてきてませんよねぇ。メディアがどれだけ国辱的なことをされているのか?ってのを真摯に取り上げないのも問題です。メディアは第四権力と言いますが、世論誘導の手段にしかなってない模様。口当たりの良いことだけ云えば佳いなんて、狸を被らなくて佳いです。NHKとか朝日とかTBSあたりは酷いですなぁ。私がTVをほとんど見なくなったのもこのあたりが原因ですわ。

本題はどこへ行った?って感じなのでもう一度まじめにやりますわ。
舞台が日本である必然性はほとんどないですな。フィリピンは国を挙げて出稼ぎで稼いでいる国なので日本以外でも別段問題はないわけです。でも日本人の作者が書いているので日本であることをベースにすればそれだけ書きやすくなるのも事実。ただそれだけではパンチが足らないので異邦人達を出すためにでっち上げたのがスラム街の設定だっんでしょうな。
ジャンルで括るのは難しい内容ですわ。ミステリーとも言えそうだし、ピカレスクでないとも言い切れない。かといってファンタジーと雰囲気だけで勝手に決めるのは勝手だろうけど何も不思議なことは起こらないし、ノンジャンルと割り切るのも難しい。文庫版の解説者が少女漫画的な小説だと巧いことを言っているのでそれを推しておきます。ただ、古き良き少女漫画なテイストですかね。最近の男女区別無く読めるタイプではなく、70年代80年代のロマンス物などに通底する紗のかかった幻想感溢れる感覚ですか。うーん、どうにも私にはこの系統は重たい。エンターテイメントしてるのは確かなんですが、どこを読んでも素直に喜べないというか、不法入国者残酷物語という感慨は変わりようがないかなぁ。
文体はかなりふらふらしていて、誰の視点かよくわかりませんねぇ。一視点かと思いきや、違うようだし。手直しした方が良かったんじゃないかなぁ。とはいえ刹那的な言葉の切り取りが秀逸な部分もあるから難しいか。
ストーリー構成については突拍子もない唐突さの連続で中々新鮮。とりとめない内容が差し挟まれたりするあたりは作者の呼吸のうまさかと。ただ、整合性とか細かいことを言わないのが華かな。
60点
良い点は散見される物の雰囲気が好みじゃないのでこんなもんかな。感性がさび付く前に読んだ方がよさげ。中高生とかに向きそう。
追記:小説版と映画版はほとんど違う話だそうです。
追記の追記:好みじゃないのは詩的で叙情的な雰囲気だけで出来ているような点だけが強調されているからなんだろうなぁ。

参考リンク

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*1:フィリピン人の考えた日本っぽい名前らしい

*2:勿論男性の名前だが、間違えてつけたもよう

*3:つまり生活の方便という地盤