高野和明 13階段

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あらすじ

過失致死に問われる事件を起した三上純一は、下された二年間の刑期を一年と八ヶ月で仮出所出来るようになった。だが、出所した彼を待っていたのは現実だった。例え過失致死罪で殺人罪に問われず、罪が軽いとは言えそれはあくまで刑事事件。民事の方では莫大な罪を償うための金を両親は彼の代わりに肩代わりしていた。弟に聞いたことに寄ると残りの借金は二千万を超えるらしい。それでも住み慣れた家や家財道具、工場の工作機械を売り、親戚等に借りた上にまだ未だに残っている借金らしい。
そんな金に困っている三上純一の元を訪れたのは彼の監督をしていた刑務官の南郷正二だった。彼は純一に実に風変わりな提案をした。死刑囚の無念を晴らす証拠集めの仕事をしないかと持ちかけたのだ。成功報酬は一千万。それとは別に三ヶ月の報酬は三百万。月々百万は貰えるということだ。それとは別に必要経費も三百万までは落ちるらしい。あまりに話がうますぎるのだが、間に弁護士が通っていたので問題はないのだろう。話を聞かされてから件の弁護士である杉浦とも会った。愛想笑いが顔にこわばって取れなくなったような男だった。持ってきた者が刑務官、そして弁護士が間に立っているという事で信頼することにした純一は南郷の話を承諾する。
かくして更正のため、借金のために純一は走り回る。

感想

高野和明初読みです。なお、この本は第四十七回江戸川乱歩賞受賞作です。映画化された奴の方が有名なのかな。確か反町が主人公を演じてたかと。
法と人の間で板挟みになっている検察と刑務官。どちらも法務省管轄ですが、どちらも等しく人の命を消すための仕事をしているわけですな。それについての是非を問う言葉はしばしば散見され、そして殺人者となってしまった自分を哀れむような言葉でごまかしうなされる。どちらかというと犯罪者よりではなく、法務省よりの本ですな。法が人治主義*1に傾くか、それとも厳罰を望む法家主義*2に向かうかで揺れる気持ちもきちんとやってるものの、その法が刑務官をも殺人者に変えてしまうという法の盲点に着眼した卓越したセンスが光る一品です。
しかしまぁ、ミステリーとしては導入本にあたる本でもあります。構成がしっかりしているのと分かりやすい内容から入りやすいものの、どうにものめり込むほどには達していないかなぁと。専門的な部分についてはきちんと調べ上げられてますし、まとめも適切で説明が冗長でないのも読みやすさに寄与していますが、しかしキャラクターの感情の方向性が「許すか、許されるか、それが問題だ」ってな物に落ち着いてしまっているので感情移入が出来ても燃える方向には向かわないんですよね。動と静では静側の小説ですかね。でも進行していくストーリーは動側ということで徹底してないんですわ。内面と外面の二面性がメリハリとして利くほどまでは行ってないと、まぁそういうわけです。あえて云うと心理描写は上手いものの踏み込みが足らないですわ。
なお、サスペンス要素の強い作品ではあるもののそういう背反する要素を入れてしまったために少々横広に延びてしまったシャツのように間延びしてます。いや、ちょっとだけですがね。しまりがないとは言い切れない分量でまとめてあるのでほとんどの人は気にならないとは思いますが、サスペンス・探偵物・推理物・社会派・犯罪物とミステリーの内ジャンルをごった煮にしてあるので欲張りだなぁとも思いますね。ただ、エンターテイメントしようとする作者なので語り口は軽妙かつ諧謔にとんでいます。
ま、この話の肝は贖罪はどのようにして行うのか?ってのが本筋なんでしょうが、あくまでついでで書いている民事賠償についての部分が目を引きました。まぁ確かに殺人事件は二通りあるんですよね。刑事では被害者遺族に対する謝罪は無いため、被害者遺族は民事でそれを引き出そうとするわけです。でもちょっと考えると分かるんですが、被害者遺族が年が若いとは言え被害者への賠償金が七千万?額が多すぎませんかね。確かに賠償金の多寡が多くなってるのは司法の欧米化を見るにつけその通りですがよっぽど沢山の人間を殺しているとか、センセーショナルな事件でない限りそこまで取れないんじゃないかなぁ。大体民事で企業訴訟でもない限り一千万の大台を突破すること自体が稀です。それに裁かれているのも殺人ではなく過失致死で加害者も被害者であるという事が刑事で主眼に置かれてますからね。流石に民事の裁判官もそれを軽視するわけにはいかないでしょう。逃げ回っていてたまたま殺害してしまったとなれば殺意の否認が大筋得られるわけですからいくら何でも七千万は無茶でしょう・・・。でもまぁ、そんなことを言い出してしまうとこの話が成り立たなくなってしまいますからねぇ。当然報酬が破格なのも気になる点ではあります。
シナリオのネタとしては二重構造は分かりにくいでしょうな。あとはヒントはヒントたり得なく「志村ー!志村ー!後ろ!後ろ!」と自己主張が強すぎですが、親切設計と見た方が好意的かな。でも高校時代のネタは男女が居て、問題が起こったって事になるとほぼ一つしかないのでドンデンになってなかったのが痛いですね。でもつつける要素は残ってるので問題はないです。
友人に勧められて読むことになった本書ですが、あれだけ絶賛していたのに昨日聞いてみたら、「いきなりSFになったのは興ざめ」とか云ってました。あの程度ならSFじゃないと思うんだがなぁ。
口当たりは甘く少しほろ苦いので万人向け。でもちこっとノワールの香り付き。
79点
蛇足:甘くなった真保裕一みたいな作家さんですな。真保さんほどのくどさが無いのが軽いミステリー読みの人には受けそう。

参考リンク

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ネタバレ

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高校時代の昔話に関しては女の方が被害を受けたような描写が有ったので、その時に気がついてしまいほとんど予定調和的に読みました。レイプされたってのはありがちっちゃあありがちだわな。復讐劇が拍子抜けに終わったってのはある種僥倖だと思うけどねぇ。
でも家庭を取り戻そうとした刑務官が豚箱行きってのは因果応報とかを感じてしまって、許しを得るための方法と云うようにしか感じないわな。警察官・刑務官・検事のあたりは刑務所に入るととんでもない目に遭わされそうな予感。これも因果応報かねぇ。まぁ、裁判次第という終わり方だけどね。
謎として残るのは主人公の借金はなんとかなったか?という点か。殺人未遂であるので逆に告訴できますから恐らく何とかなったんでしょうな。しっかし、被告も微妙ですなぁ。謎をあらかじめ解いておいて、それをネタにゆするとは・・・。なんか二度手間だし、下手すると成就しないかも知れないのにこういう手を使うとは。可能性で云ったら無い方向ですしねぇ。
多分個人的に読んで面白いと思うのは佐村三男視点でしょうな。怒りの波動が伝わってきますし。
エンタメにそって書いているので登場人物の配役にそれぞれ意味をつけすぎているので、欲を言ったら登場人物を増やして迷彩かました方が良かったのかも知れないなぁ。

*1:人の判断で恣意的に法がねじ曲げられるケースバイケースの量刑。言うなれば遠山の金さんタイプだが、基準がはっきりしないため曖昧。治政者によって判断が分かれやすい

*2:指針により裁量が決まっていて厳罰化を望む量刑。商鞅(しょうおう)という(元は公孫鞅という名前)古代中国の戦国時代の官僚はそれが行きすぎて自らの作った法で裁かれることになった