殊能将之 黒い仏

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あらすじ

2000年の日本シリーズが開幕しようとする頃、石動戯作は助手のアントニオと共に東京にいた。珍しく仕事の依頼が入ったのだが、アポイントの時間が恐ろしく遅かった。ベンチャー企業の社長らしいのだが、忙しすぎて時間に忙殺されているとのことで、零時に会社のビルで面談するはずだったのだが、既に30分近く遅刻している。金曜の夜中に六本木方面へ車で移動するってのは渋滞に捕まらないわけがない。「だから地下鉄にしようって言ったんです」ぼやくアントニオを諫めるのはもはや時既に遅し。
漸く依頼主の待つビルの前まで来たら、社長自らが待っていた。流石に30分の遅刻だから降りてきたのだろう。平謝りしながらビルの最上階、社長室まで行ったのだが、何故かアントニオと石動を逆にとられたらしい。二人とも完全にフリーターそのものな格好をしているのでどちらがどちらととられても仕方がないだろう。兎に角依頼内容を聞いてみる。
福岡県にある阿久浜というひなびた町の安蘭寺という寺に伝わるらしい円載という九世紀頃の遣唐使が日本に帰るときに持ち帰ったとされる宝を探してくれという物だった。丁度安蘭寺の住職も用事で東京に来ているらしい。詳しい話はそちらに聞いてくれと言われ、料金の交渉に入った。賃金は十分すぎるほどの物だった。
翌日、東京の一流ホテルに泊まる生臭坊主の星慧という人物にあたることになった。再びアントニオの助言があったのだが、やっぱり車で行ってしまった。おかげで15分ほど遅刻したが、前回よりは失地は少ない。「土曜の午後にお台場に行こうって方が間違ってます」まぁ、その通りだろう。
結局星慧の部屋で円載の略歴を聞くことになったのだが、円載は日本に生きて帰ってこれなかったらしい。ただ一人智聡という円載の従僧が生き残った。ほとんど船に積み込んだ宝物は海の藻屑と消えたのだが円載が死した翌年、木箱が一つ漂着した。木箱は変色していたのだが、中身は無事だったらしい。その時に中に入っていた仏像は黒智爾観世音菩薩(くろちじかんぜおんぼさつ)として本尊として祭られている。だが、それ以外の物は門外不出として隠されたらしいのだが、隠したことを示す古文書が見つからないらしい。それをなんとか捜してくれ、というのが正確な依頼のようだ。早速近日中に福岡に発つ準備をし出した石動だったが、いつも無精なアントニオが真剣な顔をして今回はついていくと言っている。珍しいことだが、今回は依頼人が太っ腹だし問題ないだろう。二人は日本シリーズの始まった福岡へ旅立った。
だが、そこでは殺人が幕を開けていた。

感想

昨日に引き続き殊能将之三冊目です。いやいやいや、こりゃあ賛否両論になるわ。前作も十分にオカルト臭がしたけれど、こちらは比較対象にならないぐらいガチでぶつかっていってます。作者はミステリー作家という感じだったのに、これを許してしまった編集者もまた凄い。講談社メフィスト系の作家は自由ですねぇ。まぁでも大きな点でメフィストの例の壁本としての違いがありますね、アレと。アレって言ったらメフィストで自分の中ではただ一つですよ。勿論清涼院流水。あいつは謎を作るだけで消費はしないわけですが、こちらではきちんと消費されています。その点でアンチミステリーとそうでない物を分けていると言っていいでしょう。
しかしまぁ、それでもジャンルの位置付けが難しい。やはりオカルトミステリー
って感じですなぁ。ホラーミステリーってのだと趣がちょっと無さ過ぎますわ。だって元の母体が同じなんですから。ケーキとか作って小麦の固まりと言うようなもんです。
個人的にはこの話は大好きですね。まぁ、孔雀王とかで幼児期にすり込まれてる部分が有るのでこういう方向のオカルトでも許容できるんだと思います。でもこりゃあ地雷になりうる本ですわ。特に本格とか純粋にミステリーという所を期待していた人にはなんだこりゃあ!ですわなぁ。フェアとかアンフェアとか超越してますし。因果律弄られたらそりゃあどうとでも出来ますわ。卑怯だなんだと、口汚く罵りたくなる気も分からなくはないです。
予備知識でアレを知り得ないと楽しく読めないかも知れないけど、でも最小限に抑えられているような。単にミステリーとして読もうとしている読者を陥穽に陥れる構造ですね。てーかミステリ読みの人だとこれミステリーである必然性は皆無なんじゃ?とか思うのかも。まぁ、どちらかというとファンタジーよりであるのは確かですねぇ。SFとか書いてる人が居たけど、SFならばやはり理論的に裏付けがないと。あれがこうしてこうなってってのがないとSFとは認め難いですなぁ。
黒い仏という題名からしてミステリ読みの人はフリーマン・W・クロフツが連想されるんじゃないかな。クロフツというと『樽』からアリバイ崩しがメインの小説という連想もされそう。まさに間隙を縫うとはこの事ですな。
ま、詳しくはネタバレで。もう十分すぎるぐらいネタバレしてるだろうけど、ここら辺で踏みとどまっておきます。
今回はダラダラせずにきっちりまとまっているので、比較的読みやすかったですね。トリックが古いとか解法が古いってのは今更何言ってるんだか、って感じなので取り立てて取り上げるべきじゃないでしょう。そもそも私はパズラーとかミステリ読みというよりエンタメ読みですしねぇ。
79点。
笑って許せる人だけ読んでください。先入観は持たない方が楽しめそうです。
蛇足:折り返しについていた筆者のことば「私は旅行が大嫌いなので、次作は家から一歩も外に出ずに書ける話を考えようと思っています」ってのに大爆笑。

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ネタバレ

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ええ、一言で言うとそう、クトゥルーネタなんですよ。クトゥルーというとホラー読み以外には案外知られていませんが、H.P.ラブクラフトというアメリカ人が書いた架空の神話です。旧支配者と呼ばれる連中と旧神と呼ばれる邪神たちがかつて地上を跋扈して支配していたが、今はたまたま休眠状態なだけで、いつ又その恐怖が襲いかかってくるかわからないよー的な話なわけです。その中で本書で登場するのはナイアーラトテップ。「無貌の神」とか「這い寄る混沌」とか呼ばれてますが、こいつはしばしば人間に化けるんですよ。で、ほとんどジョーカーな扱いなんですが、あくまでも旧支配者の使いっ走りだったりします。まぁ、それでも十分すぎるぐらい人間には脅威ですがね。本書の中で時空を弄くる描写が有りますが、ナイアーラトテップにはそんな力はないです。やれるとしたらヨグ=ソトースかシュブ=ニグラスあたりですかね。ヨグ=ソトースだとすると人間の女性を孕ませることが出来るので、恐らくヨグ=ソトースでしょうなぁ。なお、ナイアーラトテップには知性があって旧支配者の使いっ走りでは有るものの、旧支配者には知性がないので、陰の支配者的な役割も持ってます。また、世界を滅亡に導く者としての役割も担っているので、作者はここら辺を適当にごっちゃにしてるんでしょう。まぁ、あくまでもこれが本筋だとはとてもじゃないけど言えないけどね。
本筋でサイキック方向に唐突に移行してしまう所ではちょっと驚いたけれども、これはこれであり。ラスト二行のその後が気になるところですが、ラノベにでもして書いて欲しいところ。いやしかし、まさかアントニオの為の本とは・・・。高野山の連中が出張ってこないのがちょっと残念。
ああそうだ、筆者のHPここを読むと更に楽しめるかも知れませんね。
石動が出てくる作品の次が出るかどうか微妙とか言うべき所ですが、もう既に出ているようなので、折を見て読みたいと思います。いやはや、石動シリーズが打ち止めにならなくて良かった。