北村薫 夜の蝉

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あらすじ

  • 朧夜の底

あんどーさんに借りた本と正子ちゃんの星座と叢書の怪

  • 六月の花嫁

梅雨と三題噺と吉報

  • 夜の蝉

私の姉と三角関係と和解の切っ掛け

感想

あらすじが寂しく感じるのは仕様です。というか、ちょっと気分転換。
相互関係性の強い文を書く作家なのでだらだらと書いていると、かいつまんだ全文を書いてしまいそうなので適度にポイントを押さえてみましたが・・・ズバリ過ぎてこれもまたまずいか。
ま、兎に角北村薫の本二冊目。この本が作者にとっても二冊目で、第44回日本推理作家協会賞短篇受賞作ですな。受賞したのは『夜の蝉』のみだけど細かいことはいいっこなしで。
前回の『空飛ぶ馬』の時に箸休め的な位置付けだと書いたと思ったけど、なんか違う気がしてきた。作者が国語教師であること、これが多分本書においてはかなり大きな位置付けがされている。主人公の「私」も国文系の文学学生であるから、自然そちらの方へのネタフリが多くなる。私の友達も先生も先輩も自然国文に関わらないが、文学一般に片寄りがち。つまり、そちらへの偏重があるか、偏愛があるか、そういった物に興味のあるなし、許容の範囲といった物が多分に嗜好に影響しそうな形に落ち着いていると思う。前作と引き比べるというのはあまり意味のないことだと思うんだけど、俯瞰的にみた場合かなりはっきりしてくるのはこの部分だろう。いや、そんな当たり前且つ諄く物言わなくても佳いだろうという向きは正解。だが、一冊だけではどうにも判定しずらいんだわ。日常生活と文学的引用のどちらに天秤が傾いたか?ってことなら多分文学六、日常生活四ぐらいに落ち着いたんじゃないかと思う。比率で言うと、和歌・俳諧・古典国文学・高座の知識が有る方が楽しめるで有ろうというのはほぼ確定的。まぁ、でもそんな一般常識とはちょっとかけ離れたハイソサエティ*1ネタと普段接している人は多くは居ないので、静謐な図書館のような世界観に耽溺してるんじゃないかなぁとか思った次第。じゃないとこの小説を激賞する人というのがちょっと理解できない。
読んで浮かんできた文学まわり以外のイメージは以下の通り。
『感傷・シャンソンの枯葉*2・色あせたモノクローム・セピア・縁側でひなたぼっこをする老人・侘寂』
純朴な主人公と柔らかい優しさだけで出来た甘い甘いシュークリームのような世界観なのでどうにも物足りない。私はまだまだ血気盛んなのでそう言う世界観で立ち枯れていくにはまだまだ抵抗があるかなぁ。どうにも作中の色彩感は導入部分とかの時期を表す部分ぐらいにしか感じないんだよね。だから作中は灰色というかセピアっぽい。どうにも生きる糧には出来かねるかなぁ。一応主人公「私」の青春を描いているはずなのに、それを感じないってのはどうなんだろうねぇ・・・。純分的な成文での薄味さってのは人によっては可憐とか渋さ、繊細さを感じるみたいね。そこまで神経細くないので私にゃわからんわ。
一番肝心なところをまだ書いてませんでした。これミステリ?確かに短編賞とってるけど違わないか。成分的には前作の方がまだミステリーしてた。ミステリーを読みたい人は読まない方がいい。文学的な私小説としてよむなら良いかもしれない。近いのはテストとかで長文読解に出てくる面白い本の類。テストとして問題解いてると面白いと思うが、本を買うまで至らないというかそんな感じ。
とはいえ、国文系の学生で落語が趣味のかなり偏った人物にはお勧め。不勉強を恥じるかも知れないおまけ付きですから。
60点。
蛇足:うーん北村薫はこの先読まなそうな予感。とはいえ、最近の本を1冊でも読まないと判断は下しにくそう。これ出たの15年も前ですし、それだけ時間が経ったなら作風も変わっててもおかしくないですしねぇ。
どうでもいいけど、表紙を書いてる人、あれもうちょっと考えた方がいいかも。てっきり過去譚だと思いましたよ。とてもとても成長している様には思えない。あと、服装が高校生の制服を連想させる。こればっかりは仕方ないから、書く人変えるか、ポーズ変えた方がいいような。

参考リンク

夜の蝉
夜の蝉
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北村 薫
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*1:ほんとうにそうかは疑問だがw

*2:Les feuilles mortes