西尾維新 きみとぼくの壊れた世界

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あらすじ

櫃内様刻(ヒツウチサマトキ)は高校三年生で、妹が居る。櫃内夜月(ヒツウチヨルツキ)という娘で同じ学校の一年生だ。彼女はブラコンである。そして彼もシスコンなのだ。それぞれ度を超しており家族の親愛の情からは遠く隔たった一種の恋愛感情を別段隠すわけでもなく日々を暮らしていた。
兄の妹を思う端的な証左は小学校時代にある。妹を虐めていた同級生たちを一人一人闇討ちし、挙げ句の果てに小学校を移ることになってしまった。
そんな兄妹なわけだが、様刻は妹から親しくしている女性が居るのではないか?と問われる。心当たりは二人いたが、教室でとのことだったのでおそらく同じクラスの琴原りりすの事だろう。様刻は妹が何より一番なので即友達の縁を切ることにした。
翌日早速それを本人に向かって言う様刻。当然の事ながら切れられるが仕方がない。何しろ夜月の為なのだから。そこにフォローを入れるように近づいてくる一人の男。友人の迎槻箱彦だ。(なお、様刻は「友達」の基準を付き合い一年以上と決めているので箱彦は友人だが、琴原はそうではない。)すぐに妹がらみと気付かれシスコンを辞めろと釘を刺されたが、言われて治る物ならどうにかなっているはずだろう。
昼休みにもう一人の親しくしている女性の元を訪れることにした。病院坂黒猫という曰く付きの不吉な名前の女性なのだが、正確はサバサバしすぎてむしろ男性的だ。訪れるという言い方になったのは彼女が教室にいるわけではないからだ。保健室の主と言ったら佳いだろうか。人混みアレルギーの様な物で教室には来れないのだからこちらから行くしかない。「シスコンだ変態だ」と言われる事は分かっていたが、なんとなく気が向いたのだ。だが僥倖が向こうから葱背負ってやってきた。妹に「兄に女が居る」みたいなことを吹き込んだ男の情報を手に入れたのだ。「保健室はもっとも情報の集まりやすいところ」という病院坂の言を裏付ける論証だ。そいつの名前は数沢六人といい、夜月と同じクラスだという。剣道部に所属しているというので剣道部の主将をしている我が友箱彦に午後の授業の合間にそれとなく聞いてみる。「ランダミングランブル」なるあだ名を付けられているそうだ。「ピースメイカー(破片拾い)」なんてあだ名を付けられている様刻は少しうらやましかったが、それとこれとは別だ。品行方正とは言い難く、部活もちゃらんぽらんだが一応剣道部のレギュラーで先鋒を受け持っているとのこと。箱彦には悪かったが様刻は決めていた。
授業後、様刻は一年の七組に赴き、腕力と言うより迫力で数沢六人に釘を刺してきた。なによりも妹が一番だから・・・。
翌日箱彦から部活終わった後のPM七時に剣道場へ来るように言われた。まぁ、相手は剣道部のレギュラーなのだから仕方がないと思った。授業後時間が空いたのでまた病院坂の所へ行ったりした。
時間が来たので剣道場へ行くと箱彦がもくもくと稽古を数沢につけていた。どうやら一時間にもわたってしごいていたらしい。箱彦は約束がどうのと言っていたが、制約を科したらしく、これで奴を許してくれと言ってきた。まぁ、妹に手出しがされないのなら様刻には数沢六人という男に興味はないので流しておいた。そこへ距離を置いたはずの琴原りりすが現れる。琴原と箱彦は幼稚園からの幼なじみなので箱彦が画策したのだろう。仕方なく以降仲直りという事にした。が、箱彦と別れ、バス停で琴原とバスを待っているときに虚を突く出来事が有った。抱きつかれて告白を受けたのだった。返事は明日としたが、うかつなことに委員会で遅くなっていた夜月が反対のバス停でじっとこちらをみていたそうだ。それを嬉々として語る病院坂と情報交換し、観念して家に帰る。
妹との悶着が有ったことだけはここに記しておこう。
翌日、告白の返事をする間もないまま死体があがる。勿論数沢六人の死体だ。

感想

西尾維新六冊目ですな。今回は戯言シリーズとは全く関係無いものの以前西尾ワールド全開の本でした。
例えば名前の付け方とか、語りが語り部を置くとか、漫画的というかラノベ調の砕けた物言いとか、くだくだしいと言うよりもくどい物言いとかね。
でもなんかもうね、
『 こ れ な ん て エ ロ ゲ 』
と思わざるを得ない状況の数々なので、エロゲ好きにはたまらない作品じゃないですか?
シスコンにブラコン、語尾特徴に僕っ子。ヲタ臭い男装的な物の言い方に体操服ブルマ。突然の告白にハーレムルート。まだまだ沢山有るわけですが、かるーく見渡すだけでこんな感じ。
煽りの「本格ミステリー」ってのは作者の中でこれでいいんじゃないか?って奴なんだろうけど、文体や掛け合いが面白いので良しですよ。なんかもう本格っていうのはそれぞれの中にある価値観のような気がしてきてならない昨今ですが、べつにもう本格でも佳いかなぁと流されることにしました。いや、だってこの本楽しいからw。
いつも思うんですが、金言・格言*1とかどこから持ってくるんでしょうねこの作者。いくら何でも全部憶えてるわけにはいかないだろうし、それに始めの方では随分とマイナーな(いやマニアには有名だが)戦前の作家群の名前を出してきたり、もしかして全部読んでるのかなぁ。だとしたらとんでもない読書量ではある。流石に澁澤龍彦はサドの翻訳しか読んだこと無いw。岡本綺堂の本なんて見たこともないからなぁ*2。まぁ本筋とは関係ない話なのでさておいて。
ええ、わたしゃ変なキャラクターが大好きです。本作ではもう明らかに狙いすぎて突っ込みどころ満載のキャラクターである病院坂黒猫に惹かれましたな。つか、病院坂なんて名字はねぇだろう!って西尾作品のほとんどのキャラクターの姓名は実在しそうもないものなんで突っ込んでも虚しいんですがね。どうやらキャラクタのデザインの元ネタはげんしけんの大野さんっぽい(私見)。とはいえ病弱属性とかは佳いにしてもブルマはこのご時世にどうかと。そんなにいいもんかねブルマとスク水。そこにフィティッシュを感じないのでわからん。ラバーとか革の方がよっぽど佳いと思うんだがなぁ。ってまた脱線ですかorz。
要約すると頭の回転の速いキャラが好きなんですな。てーわけで、キャラ萌えって奴ですか。そう言うことになったわけですよ。属性で言うと妹とか友達の幼なじみとかいうのはないのでね。メガネとかならまだ脈があったんだがなぁ。
なんの話をしていたのだかよく分からなくなってきたので、本書の内容に。
萌えだけではない、きちんとしたミステリーの内容とそれに至る道筋が理路整然と、だが時に感情的に滔々とまくし立てる場面もあり、引き込まれます。やっぱりラノベ調は読みやすい。読んでいて疲れない。だが、西尾維新の場合は京極夏彦ばりの長口上しばしばあるので、慣れてないと退屈に感じるかも知れませんね。だって結論が出てると思われるのに、ながーいかたーい口上を読む必要があるわけですし。でもこれってある意味でとことん親切なんですがね、読者に対して。
私の場合ミステリーを読むにあたって考えるのは、殺人事件の場合、一番がフダーニットではなく、ワイダニットなわけですわ。普通はwho、how、whyというのが解決編の推理証明なわけですが、何故か私の場合はWhyから入って行っちゃうんですね。でもこれ、本格だと結構ないがしろにされてますよね、所謂動機。そう言う意味で本格は人を描いていないと非難されるのは致し方ないのだと思います。今まで読んだ自称他称出版社称本格って奴でそこに重点を置いた物というのはほとんど無かったですね。ある意味邪道の変格ですが、私はこれはこれで佳いんじゃないかなと思います。ひいき目ですが。やはり心理描写は大事ですわ。だって犯人にしろ被害者にしろ、血の通った人間ですから。恐怖にしろ、怒りにしろ、やはり必要です。でもやはり激情が一番好きですな。
さて、不純物たっぷりの新変格を堪能しても罰はあたらないかと。
でも、これは周知する場合、青春エンタな気がするんだがなぁとか思いました。ストーリーの比重は殺人より青春よりっぽいしね。
面白いミステリーという形で中高生に勧めるのに程良い内容かと。それなりにミステリの細かい専門用語の説明も含まれてるしね。
85点。
蛇足:ただ、漫画とかラノベとか読んだことのない中高年は表紙からして手に取りにくいわな。全年齢向けというわけではないかと。ヲタであればあるほど合いそうな予感。
実にどうでも佳いことだけど、何か名前に仕込まれてそうなんだよね。主人公は(ヒツウチサマトキ)、妹が(ヒツウチヨルツキ)。ヒツウチっては明らかに非通知だけど、そこから先がちょっとわからん。なんか隠れてそうなんだけどなぁ。
個人的にはシリーズ化されても佳いなぁ。

参考リンク

きみとぼくの壊れた世界
西尾 維新
講談社 (2003/11)
売り上げランキング: 14,397

*1:作中の比喩とことわざについては作者の力量は相当な物だと言うことを感じさせる。ってーか普通日常生活で使わなそうな言葉を良く覚えてるなぁと感心してるだけだけどね。

*2:嘘でした。よく考えてみたら半七捕物帖読んでましたね。国枝史郎とか埴谷雄高については読んでません。