綾辻行人 水車館の殺人

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あらすじ

水車館という館がある。中村清司という建築家が建てた洋館だ。中村清司は既に没しているが、その建築物には奇妙な仕掛けと余人には計り知れない後ろ向きな魅力がある。何故か中村清司の建てる建築物では悲劇が起こるらしいのだ。
それは昨年(1985年)の水車館で起こった事件だ。9月28日というのは前当主藤沼一成の命日に当り、偉大な幻視者であり画家であった彼の業績をたたえる意味で彼の作品を限られた人物にのみ開放する日であった。現当主の藤沼紀一は十数年前に自動車事故に遭い、両手足と顔に大けがを負って以来引きこもっていた。顔は二目と見られないような姿であったため、自身を恥じてかつての顔を模したラバーフェイスを付け、車椅子生活を余儀なくされていた。画家の息子であった紀一だが、芸術方面には自分の道を見いださずに金融の道へ歩を向けていたのだが、事故をきっかけに自分の資産をすべて精算して、一成の離散した絵画をすべて買い集めた。こうして水車館は閉鎖された美術館になったのだった。
屋敷には紀一の妻藤沼由利絵と朋友の正木慎吾、執事を勤める倉本庄司、家政婦を勤める根岸文江がいた。由利絵は父親の柴垣浩一郎が一成の弟子をしていたが父親が亡くなったのを紀一が引き取り育てたのだった。だが、このテレビすらない館では情報が制限されているのと人里離れすぎていることから籠の鳥だった。正木慎吾は一成の弟子だったが紀一と共に自動車事故に遭って以来筆を折っていた。事故以来失踪をしていたのだが、半年ほど前にひょっこり現れ、以来居候をしている。倉本は厳格な執事であり、根岸は世話好きの中年女性である。
解放される水車館に現れたのは大石源三、森滋彦、三田村則之、古川恒仁の四人だった。それぞれ一成の作品を扱っていた美術商、大学で美術史を教える教授、父親が一成と親交の深かった外科病院の院長、同じく父親が一成と親交の深かった藤村家の菩提寺の副住職といった感じだった。
事件はその夜に起こった。消灯前に古川が別館の二階から立ち消え、飾ってあった絵画の一枚『噴水』が消えた。雷雨とどろく夜闇に古川は消えたらしい。正木は紀一に古川を探しに行くと言い残し、夜闇に消えた。その後倉本が地下室に続く階段部屋のドアが開いているのを発見し、紛失したはずの『噴水』をみたのだが、背後から何者かに襲われる。早朝に紀一に発見された古川は猿ぐつわを噛まされ拘束されていた。拘束を解いてから紀一は本館二階の由利絵の所に行くと煙突から煙が出ていた。焼却炉は地下にある。そこで皆が発見したのは人体を六つに分解した黒く爛れたそれだった。そのての左手薬指は欠けて生々しいままに焼却炉の前に落ちていたが、どうやらそれは正木慎吾の死体であるらしかった。
翌年、悲劇の起こった現場である水車館では再び限られた作品の公開が行われようとしていた。そこに前回には居なかった一人の人物が立ち入る。島田潔と名乗る男で古川恒仁とは旧知の間柄であったらしい。紀一は追い返すことにしていたのだが、島田の口から中村清司の名前を聞き、考えを変えたらしかった。
水車館で再び惨劇の幕が上がる。

感想

綾辻行人の本二冊目ですね。しかしまぁ、作中で考えると二十年前ですか。本書がノベル判ででたのが88年なので大した違いもないですが、二十年というと一昔ですよね。とはいえ、文体も古くさいわけでもないわけで新奇さは無い物の、安定してます。館シリーズ二作目と言った方が通りはいいんでしょうね。しかし今回は構成に凝っているものの、それ以外については結構微妙です。懐古趣味に回帰しすぎている感がしないでもないですね。あらすじ説明でもうトリックがばれたも同様ですしね。確か似たような話が『金田一少年の事件簿』に遭ったようなきがします。むしろ私の場合は江戸川乱歩横溝正史のそれぞれのあの有名な作品を思い浮かべずには居られませんね。
構成がメインな割に引っ張りすぎな気もします。フーダニットとハウダニットがアレ過ぎなので、雰囲気を楽しむ小説といえそうです。とはいえ乱歩や横溝の御大の如くキャラクターの個性化やら重厚な雰囲気にはかなり劣ってますね。古典大好きッ子が(;゜∀゜)=3ハァハァ楽しむのが良さそうですが、ミステリーを普段読まない人なら別段気にせずにするっと読めると思います。
館シリーズが回を追うごとにダメっぽくなってるって風聞は聞いていたけど、もしかして、この雰囲気を楽しんでトリックはスルーな方向へ行ってるからなんだろうか?だとすると乱歩のようなフェチズムやセクシャリティ溢れる妖しさが欠ける綾辻さんにはちょっと荷が重い気もするがなぁ。何かしらの独自の味が欲しいとおもった本書でした。キャラクターにほとんど自己主張がないんだよね。籠の鳥である由利絵を筆頭にして。ゴシックな雰囲気だから許されるけど、それならもっと雰囲気を大事にして欲しかったな。
70点。
蛇足:あとがきで「雰囲気という名の本格小説ミステリのエッセンスがつまってれば自分にとっては本格である」みたいな本格論を出しているので、やっぱり雰囲気小説に堕するみたい。

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ネタバレ

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横溝だとその物ズバリ『犬神家の一族』ですな。スケキヨだっけか?ラバーマスクといえば。もうね、マスクとかでてる時点であー入れ替わりなのねってバレバレですよね。人間のでることの出来ない窓からどうやったらでることが出来るのか?とかも古典的。殺してバラバラにしたら出すことは可能とかね。
そうなると唯一楽しみなのは入れ替わった人物はどこ?ってのと何故に『幻影群像』なる絵画は公開されないのか?ってのと、一体誰が事故を起した車を運転していたのか?というあたりの謎ですな。ここら辺が楽しむためのキーワードとして機能するか否かで面白いか決まりそうな予感。
乱歩だとその物ずばりなやつがどうにも思い浮かばないんだけど怪人二十面相シリーズでラバーマスクの男が二十面相だったケースと明智が装ってたケースがなんか記憶に残っているので似たような話がありそうなんだがなぁ。もしかしたら映像化で勝手にやってるのかも知れないけどね。