倉知淳 幻獣遁走曲―猫丸先輩のアルバイト探偵ノート
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あらすじ
- 猫の日の事件
猫丸先輩はキャットショーで今日も今日とてアルバイト。そのバイト先で審査員の指輪が盗まれたのだが・・・
- 寝ていてください
治験に参加した猫丸先輩は同室の一人が唐突に居なくなったことに騒ぐ他のメンツをあざ笑うように演技を続ける
- 幻獣遁走曲
アカマダラタガマモドキという長い名前の幻獣を探し出そうという一風変わった人物の以来のバイトに参加した猫丸先輩。山の持ち主には雑草刈りと言うことになっているので、雑草を各自刈っていると唐突にテントを張ったあたりで火が出た。一体犯人は誰だというのだろう
- たたかえ、よりきり仮面
猫丸先輩の今度のアルバイト先はスーパーの屋上にある特設ステージで立ち回りをするヒーローアクションものの悪役だ。真夏の炎天下の中で行われるショーは地獄に等しく着ぐるみを着ているメンツは一苦労だ。一日三回行われるショーなので、次のショーの為に着替えようとすると足のあたりにブルーベリーの甘ったるい香りの付いたガムがこびりついていた。とてもじゃないが汗と黴とブルーベリーのミックスされた匂いは耐えられるものではなく、一同憤り、犯人はそのちょっと前にやってきた熱心なファンの子供ではないかと話すのだが・・・
- トレジャーハント・トラップ・トリップ
宝の山と噂される大量の松茸の取れる有る山の道案内のアルバイトを引き受けた猫丸先輩。無事について現地で山盛りの松茸を採ったのだが、気がついてみるとちょっと前に置いておいた籠に入っていた分量よりも少なくなっている。はてさて、犯人は誰だ？
感想
倉知淳二冊目ですね。なんというか、こっちの方が本人らしさが出ているように思えます。前に読んだ『星降り荘の殺人』はそれなりですが、いかんせん堅かった。いやまぁ、堅いのが悪いわけじゃないんですが、なんとなく取っつきにくかったわけで。それでも本格物としては柔らかい方なのかもしれませんが。それに引き替えこちらは始めからメルヘンチック溢れるユーモアの奔流でなんか「なるほど」とうなずいてしまいました。何となく似ているのは加納友子の『螺旋階段のアリス』でしょうかね。日常にある謎を解明するって手口の系統で人が死ぬとか大事にならずに小さくそれでも一つの完結した物語としてしっかり終わる着実な話です。どこかメルヘンチックな部分が特にも似通ってます。ただまぁ、ちょっと書かれたのが古いので、最後の「トレジャーハント・トラップ・トリップ」が一番安定しているようでした。これについては書き下ろしなので時間が経っていて、作者の進化の道筋が見えるようになっています。そうですね、始めの4作がどうにも姿形のはっきりとしないのっぺらぼうだとすると、最後の「トレジャー~」は定型の形が出来ているようで妙にしっかりしてます。ユーモア方向に傾きつつ、読者の気持ちをキャッチする軽妙なテンポの語り口、ああ作家ってこういう風に進化するんだなぁと感じさせる話が出来ています。小説家の進歩というと水野良を思い出しますね。ロードスの1巻では下手すぎてこれが小説家と名乗れるのだろうかと疑問に思っていたものが、ロードス戦記の6・7からまともになり、伝説ではまるで別人、そしてギャラクシーエンジェルやリウイではあんた誰？って領域まで羽ばたいてしまいました。流石に水野良と比べるのはおかしいと思うんでこれくらいにしておきますが、ま、それくらいの違いはあるわけです。
ってわけで、最後の書き下ろしだけが読んで面白く感じられたと素直すぎる意見を言うのもどうかと思いますが、これだとちょっと値段に釣り合わないかなぁと感じました。世の中には箸にも棒にも引っかからない*1本が氾濫しているので短編一編でも面白いものがあるのはみっけもんなんでしょうがね。
ちなみに猫丸先輩シリーズはこれが始めではないようです。慎重に選んだわけじゃないんでしょうがないんですが、まぁこういうこともありますな。一作目は短編集『日曜の夜は出たくない』、二作目が長編の『過ぎ行く風はみどり色』、三作目が本作、四作目は・・・アンソロジーなんですが『大密室』に収録されているもの、五作目は『猫丸先輩の推測』、六作目（新作）は『猫丸先輩の空論』。一〜三については東京創元社、四は新潮社、五・六は講談社へ版元が変わりました。なお、デビュー作であるアンソロジーの『競作 五十円玉二十枚の謎』に猫丸先輩は登場していますが、筆名が本名の佐々木敦ですのでご注意を。一応このアンソロジーについては０作目と考えた方がいいかもしれませんね。
ま、このシリーズは長編は兎も角息抜き目的の軽い読み物として愛でるのが一番のようです。
70点
蛇足：解説でしきりに強調されていた落語っぽさってのは感じなかった。まぁ、テンポの良さは感じたけど落語までいかないわな。
*1:あくまで個人的意見で一般論ですが
