森博嗣 すべてがFになる

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あらすじ

西之園萌絵はちょっとした好奇心から真賀田四季という天才に会いに行くことにした。萌絵には両親は居ないが叔父と叔母にそれなりの権力があり、また財力もちょっとした物なので普通の人の出来ないことが出来るのだ。何故人に会うという普遍的なことが出来ないのか?それは真賀田四季という女性が普通ではないからだ。確かに世界的に知られる天才ではあるものの、きちんとした手段を執れば通常嫌われてでもない限り相対することは可能だろう。だが、真賀田四季は自身の両親を殺した犯罪者なのだ。精神鑑定によって解離性人格障害だと判定をされ無罪となっては居たが、幽閉同然の体で孤島の研究所の地下に押し込められていたのだった。しかも15年にもわたって。彼女は監視をされる身なので実像での会見とはならなかった。萌絵がその会見で得たのは悔恨と悲しみと後悔、そして軽い恐怖だけだった。真賀田四季が出した話題は萌絵の両親の死に関わる物ばかりだったからだ。
大学に戻ってきた萌絵は恩師である犀川創平に事の次第を話した。創平は萌絵の父親の最後の弟子であり公私ともに親しい間柄だった。最近では教師と学生の関係なので露骨な表現は出来るだけ避けてはいるのだが、萌絵はお構いなしだ。創平は羨ましがりながら聞いていたが、場所を聞いてそこに行ったことがあると萌絵に漏らした。現地である妃真加島は現在は真賀田の土地であるが、昔はキャンプ場が解放されていたという。萌絵はもう一度真賀田四季に会うために人づての力に頼るのではなくキャンプ場に用があるように装って再び訪れる計画を算段した。
結局ゼミ旅行で妃真加島にいくことになった一行だったが、着いた先で悲劇が起こってしまう。真賀田四季が死んでいたのだ。

感想

森博嗣初読み。とはいえ、この話に関しては実は小説が先じゃなくて漫画を先に読んでいたりしてます。なのであらかじめトリックやらストーリーの進行も頭にぼんやりとですが*1憶えていました。さて、この本でデビューと云うことですが、本当はこの本がデビュー作になる予定ではなかったのでデビュー作と言っていいのか甚だ疑問ですが、世間的にそうなっているのでしょうがないですね。一応第一回メフィスト賞受賞作。この作品が受賞したことによってメフィスト賞の方向性が決まったと云っても佳いぐらいの内容です。しっかし、文章と漫画で感じ方はこんなにも違う物か、と痛感せざるを得ません。いろんな所で京極夏彦との類似点があげつらわれていましたが、読むまでほとんど半信半疑でしたね。いやぁここまでの双生児っぷりはなかなか拝めませんな。まぁ、両方の一作目がなんとなしに類似点を持っているというのも確かですが、ちょっとこっちの方が房っぽいですな。まぁ、書かれたのが96年とかなのでしょうがないんですけど、今見るとちょっとコンピュータに関する部分がかなり変に感じたりはします。著者は工学部の人ですが建築学科なのでしょうがないのでしょうね。当時はまだwin95より3.1が、LinuxよりBSDが幅を利かせてるような状況でしたしね。ネットワークと言ったってまだまだ貧弱な物でしたし・・・一般ではパソ通ぐらいがなんとかってレベルですしね。そういえば作中に登場した「レッドマジック」って「RedHat」は兎も角、マジックの部分は「Y.M.O.」あたりから来てるんじゃないですかね。年齢的にも何となくそんな感じがします。それともウィザードからマジックを連想したのか、こういうよしなしごとは作者に聞かなきゃ分からないですが、想像するのが楽しいことでもありますよね。
まぁ、SFっぽいのは確かですが、どっちかっていうと似非SFつった方が早いかな。寸足らずな物を巧妙に佳いものだと勘違いさせるようなテクニックを作者は心得てますね。例えばVRシステムとかはまだまだ実用化には遠く及ばないです。つか、インターフェイスと周辺機器で一体いくらかかるのやら。研究機関でそれなりの成果を出しても民間に降りてくるまでに10年とかかかるようじゃ話にならんのですよ。*2それに金をかけた対価が特にないのも問題ですね。閉じたLANでの空間だけならば佳いんでしょうが、外部でも普遍的に使われていることがインターフェイスには重要な点であったりします。その点、導入に初期投資が必要なこと、余暇以外にどんな利点があるかいまいち納得がいかない点から、ゲームなどあまり生産的とは言い難い方向に技術は伸びていくんじゃないでしょうかね。技術と実用は表裏一体ですが、相反するものだという認識が筆者には欠けているように思えます。更にうがった意見*3を何気なく挿入してますが、なんかもう選民思想ばりばりな感じがしてしょうがないですね。主人公の一人である犀川の登場のあたりは大学に対するぼやきから始まってることからして、鬱屈のはけ口のような気がしてなりません。巻末で瀬名秀明がべた褒めしてるんですが、あそこまでやらなくても佳いような気もします。なにも京極と森の二人が世界を変えた見たいな話は言い過ぎです。世界はそう簡単には変わりませんから。ま、単にお世辞なんでしょうがね。でもまぁ、EVA以前の言葉の定義遊びというのには面白さを感じますね。時期が時期だけにもう少し早く出会っていれば個人的には円満な出会いになっただろうと思われますが、今の私にはどうにも鼻につく感じがしてならないんです。「奇想天外にすれば勝ち」の見本みたいなメフィスト賞らしい本作ですが、天才とラベリングすれば天才になるとか、それらしく振る舞わせたキャラクターを書いた自分が天才だ、みたいなところが透けて見えるというか・・・うがちすぎですか。そう、キャラクターが気に入らないんですな。だからキャラ小説であるこの内容が好きになれないと。まぁ、萌絵は嫌われるようにデザインしたらしいんでご都合主義で反則的な身の上はしょうがないにしても、なんとも前時代的というか、自分で探偵と名乗る人物は本作ではいないものの、同等のラベリングでのごまかしに思えてしょうがないんですよね。単に数学の計算が速いとかはサヴァンでも出来ることですし。天才だからこそ普通に憧れたり、孤独を感じたり、悩みを持ったり、それを超越しちゃったらその存在はほぼ創造主と同じって事で、つまりは作者の投影に見えちゃうんですよね。一応背景は作ってあるものの、内心の吐露は上っ面の雰囲気が抜けないのでどうにも気持ちが悪い。まぁ、キャラだちが悪いわけじゃないんだけどねぇ・・・。つーかそのキャラ書き分けが漫画的でしっかりはっきりくっきりしているので、緩急が付いて読みやすいのは確か。文体は簡潔で無駄は省いていてシステマチックな印象。でも何故か唐突に哲学し出すのとかは辞めてほしいなぁ。笑えないギャグでもやった方がましな気がする。正直感情移入する先が無いので、それなりの小説だけれどもやはり失敗のようだ。次を読む事でこれが正当な評価なのかは分かるが・・・いつのことになる事やら。ああそうだ、講談社では珍しく人物一覧を作るぐらいなんだから、事件が起こっている場所の地図ぐらい収録しても佳いと思うんだがなぁ。
55点


蛇足:・・・KIDがゲームにしてたのね。選ぶ先はもうちょっと考えようよ・・・。
http://www.kid-game.co.jp/kid/game/game_coolkid/f/index.html

参考リンク

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*1:年単位前の話なので

*2:そう、もう書かれてから10年近く経ってるんですよ、驚きですよね

*3:「我々研究者だけが未来を予測できる」みたいな奴ですね