山本周五郎 日日平安

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あらすじ

  • 城中の霜

井伊直弼大老に目をつけられ、結果死ぬこととなった男の死に様はいかなる物だったのか?

  • 水戸梅譜

平時の武士の心構え

  • 嘘ァつかねえ

酒飲みの酔狂

  • 日日平安

困窮した武士の見栄

江戸物ミステリー

  • ほたる放生

紐に食い物にされる女とそんな女が好きでしょうがない男の悲劇

  • 末っ子

人は生まれ持った肩書きで色眼鏡で見られることになる

  • 屏風はたたまれた

大人への成長

  • 橋の下

果たし合いをしようとする若者に酸いも甘いも知った老人からの忠告

  • 若き日の摂津守

白痴っぽい摂津守光辰は本当に智慧遅れなのか?

  • 失蝶記

親友を切ってしまった男がその切られた男の許嫁に説明の文をおくるという話

感想

えーと表題作の日日平安はすでに読んでいるので端折りますね。詳しくはこちらで。
周五郎の短編集は物によって随分と出来のばらつきがあるんですが、この本は比較的まとまっている印象です。それもそのはず、バリエーション豊富に周五郎の色である「岡場所物」「人情物」「滑稽物」「武士道物」「下町物」がしっかり備わっているからなんですね。
個人的には「末っ子」、「日日平安」、「若き日の摂津守」の三つの話がお気に入りですね。これだけのために読んでも決して惜しくないと思います。
「末っ子」は両親兄弟祖父母や叔父叔母にまで色眼鏡で見られ続けた侍の話です。長男ではないので他家に養子に行くようまわりから何のかんのと云われますが、決して意見は負けない。実は彼には切実な願いがあり、その為の努力をしているのだが・・・、と言った話ですが、頑固親父に対抗してがんばり抜く主人公には青臭いながらも共感がもてます。
「若き日の摂津守」は周五郎にしては珍しく冒頭で作者自身の述懐を入れています。司馬遼太郎ならば場所を考えずにガンガンやることですが、周五郎がそういう手にでるってことは実に珍しいんじゃないでしょうかね。話は摂津守光辰を伝える文書からはじまります。正史として伝わっている伝記と側近であった人物が書いたとされる伝記の二つが有るようなんですが、側近側の伝記を下敷きにしたようです。実にスカッとする話なので是非是非読んでいただきたい。+の努力だけではなく−の努力も世の中にはあるという希有な例ですが、やはり努力に如く物はなしという金言めいた教訓譚でもあります。
日本人が忘れ始めている侍の生き様や感情のうねりは周五郎で取り戻すのが良さそうです。かくいう私も「水戸梅譜」にピンと来ない現代人なので、どこまで正確に捉えられているかは疑問ですが・・・。
周五郎はざっくりした文言で卑近で泥臭い感じのする文章を書き、決して繊細とか綺麗とかじゃないんですがそこには素朴な暖かみが確かにあります。ただちょっと古くさいのは仕方ないですね。拒否反応が出そうなのはおそらく道徳のお手本みたいな内容に馴染めない人でしょう。それでも読んでみて損はないと思うがなぁ。
80点。

蛇足:「しじみ河岸」はこの時代では珍しいミステリー仕立てです。出来は芳しくないと思いますが、興味があるようでしたら読んでみても悪くないと思います。推理というより人情物に偏ってるのは作家性によるものですから仕方ないですな。

参考リンク

日日平安
日日平安
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