綾辻行人 十角館の殺人

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あらすじ

九州は大分県の東側に位置する孤島の角島に十角館と呼ばれる屋敷がある。K大ミステリ研の主要なメンツはそこへ趣こうとしていた。このミス研には変わった伝統があり、著名なミステリ作家の名を代々継承するのだ。勿論すべての人物に二つ名が冠されるわけではなく、今回の旅行に来たのはエラリィ、ポウ、カー、アガサ、オルツィ、ヴァン、ルルウの七人。この旅行に来ることになった経緯はヴァンの叔父がたまたま手に入れたのを幸いに飛びついたというのが正確だろうか。ヴァンはあらかじめ角島で準備をして待っていたので漁船で送ってもらった六人より先に現地に到着していた。
元々この島には住んでいた人たちがいた。だが、不幸なことに殺人事件が起き、屋敷と共に主人、奥さん、住み込みの使用人夫婦の四人はみな死んだ。死んだ四人は犯人のつけた火によってひどく損傷していた。なお、屋敷はミス研の止まっている十角館ではなく、北北西に位置する通称青屋敷と呼ばれるものだった。十角館はあくまでゲスト用の離れとして作られているのだった。四人の事件の最中に通いの庭師が角島を訪れていたはずだが事件以来失踪している。警察はその人物、吉川誠一を怪しいとにらんでいたが、情報は一向に出てこなかった。

角島でミス研一行が過ごしている間、本土では奇妙な手紙が出回っていた。元ミス研の河南孝明の元に届いた手紙には

お前たちが殺した千織は、
わたしの娘だった。

ワープロで打たれていて、差出人は中村清司。青屋敷で焼死していた主人の名前だったのだ。

感想

初読み綾辻行人です。館シリーズの作者というより、個人的には小野不由美の旦那という印象が強いですね。どうにも本格ものは面白くない物が多いなぁと思っている中この本を読むことにしたのですが、佳い意味で裏切られましたね。初っぱなから立て板に水の語りに、知恵と知識に裏付けされた読者を楽しませる仕掛け。本格物だとどうにも文章が弱い物が多い中、この本の水準は一級です。なお、この本を読むにあたっては古典を読むことが必須ではないものの、読んでいた方がもっと楽しめるでしょう。ただ、結構有名な事柄が多いのでそれなりに本読んでいる人や読んでいないがミステリ知識はそこそこある人には問題なく楽しめると思いますよ。問題は全く読書の習慣の無い人。映画をよく見ている人なら佳いんですが、そうでないと流石にネタが分からなくて面白いとは感じにくいかも。エラリー・クイーンが読者に挑戦するとか、日本最古の暗号を使った短歌についてとかを面白く感じれる人が楽しめる本ですな。
あ、一つ注意、有名すぎるぐらい有名なんでアレですがアガサ・クリスティの「そして誰も居なくなった」のネタバレがしてあります。読んでない人はチェックしておきましょう。あと、プロローグで犯人の述懐から始まるんですが、伏線張ってあるんで注意。
全部通しての感想ではちょっとラストが弱いかなぁと、完全犯罪を成し遂げて欲しかったと思ったのだけれど、それはそれでしまらなくなるか。難しいもんですねぇ。定型ターンでは犯人がミスをして失敗で探偵がそれを暴いて逮捕で終了なんですけど、それ以外って事になると模索の余地がまだまだありそうですね。
どうやら綾辻さんとは合いそうな雰囲気なのでこの先末永く付き合っていきたいと思います。
80点
蛇足:鮎川哲也氏が解説を書いているが、これが笑える。意訳すると

本格書きは自分を含め古参が三人しか居なかった。侘びしい状況に生まれ落ちた新人達を素人書評が叩いて潰すな!最低限7貶し3褒めぐらいは憶えておけ。
そんな当たり前のことが出来ない奴ぁ人間じゃねぇ!
てめぇの血は冷血かゴラァ!!!

うーん、よっぽど新人に恵まれなかったんですなぁ。今の状態からすると考えられないぐらいですけどね。鮎川必死だな(pgr
とか書かれそうな勢い。
そういえば月館の殺人が佐々木倫子作画でIKKIで連載してますな。読みたいところだけど・・・原作からはいるか。

参考リンク

十角館の殺人
十角館の殺人
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綾辻 行人
講談社 (1991/09)
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