青山真治 ユリイカ(EUREKA)

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あらすじ

九州は福岡の甘木という街でその凶行は起こった。バスの運転手をしている沢井真は不可抗力的にバスジャックに巻き込まれる。犯人の男は乗客をどんどん殺していったが、沢井は辛くも命を拾う。彼の他には子供が二人。直樹と梢の兄妹だった。
その後沢井は生き残ってしまった事と恐怖によって現実から逃げ出す。事件から三日目、彼はタバコを買いに行ってくると言ってそのまま失踪した。
直樹と梢は事件以来喋ることを止めてしまった。二人は頭の中の声で会話が出来るからそれで用は足りたのだった。直樹は昏い縁を見たことで現実からかけ離れた物に対する欲求を強くしたのだった。
二人の親は喋らなくなった兄妹になんとか喋って貰おうと一時がんばったのだが、努力は報われず家庭はどんどん冷えていった。やがて母親の美都は外に男を求めるようになり、やがて失踪する。父親の弘樹も後を追うように交通事故で死亡し二人はお互いだけで暮らすようになった。
三人の長い遠回りな旅が始まった。

感想

青山真治という人物を全く知らなかったんですが、この本は読んでおいて良かったです。調べてみたところとよた真帆の旦那なんですねぇ。なお、この本は小説の体裁を取っている物としては初の著書ということみたいです。元々この人は映画監督なのでそれっぽい癖が随所に見て取れます。例えば冒頭。事件後二年後の部分を描いているわけですけど、映像なら兎も角、小説の形では不都合の元となりうる、人物をガンガン出して説明が少ないという読者が「?」を連発しそうなあたりはちょっとなぁと思ったわけですよ。情景説明とかも、流し読みするような内容じゃなくてなんか冒頭でやるにはパンチの効きすぎている情報濃度の濃さや、過剰とも思える背景説明。中盤以降は文章の中に会話の言葉が埋没しまくりですし、小説作法というか、読み手を考えながら書いた文章ではないでしょうねぇ。なので、かなり取っつきにくい文を書く人なんだなぁとか、この先これを読まなきゃならんのかとか冒頭でぼやいてました。大抵入りでダメな人はほとんど合わなかったりするんですが、中盤はいるとだんだん好転してきます。正直冒頭がごちゃごちゃしてるのは確かなんだけど、情報が有る程度吸収された後ならば特に問題のないレベルなんですよね。
この本を彩るのは寂寥感ですかね。切なさとか悲しみとかってよりはこっちの方が合ってる。荒涼とした人の心を描いた話と言えば、漫画で言うと浦沢直樹の『MONSTER』がありますが、あっちは話が延びるに従って収拾がつかなくなったというか、どんどんつまらなくなったのですが、こちらは読めば読むほどおもしろくなってきますね。独りぼっちの荒涼とした世界を見ている感じはユリイカの方が良く出てます。話のもって行き方はダイナミックで古川日出男を連想しました。でも古川日出男みたいに感情の起伏が伝わってこない感じじゃないですね。
読後は虚脱感がありました。物語が終わってしまうのが惜しまれる、軽度のトラウマを感染させますね。でも、作中に漂う雰囲気が陰鬱じゃなくて空元気でもなく、曇り模様ぐらいに明るいので希望が見えます。
映画の方もちょっと気になったんですが4時間近くあるらしいので二の足を踏んでます。でも良作なのは間違いない。
90点
始めの部分をクリア出来れば問題ないでしょう。万人向け。
そうそう、書き忘れてましたが、第14回三島由紀夫賞受賞作です。楽しんでくださいな。

蛇足:アマゾンのレビューでは中上健次の劣化した模倣との言有り。実態がどうなのか不明。あんまり古い人だと捜すのが大変なんだよなぁ。故人みたいだし。

参考リンク

ユリイカ―EUREKA
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