法月綸太郎 法月綸太郎の冒険

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あらすじ

  • 死刑囚パズル

死刑囚が死刑執行直前に死亡。

  • 黒衣の家

法月警部の叔父に当る当麻規介が末期の直腸癌によってこの世を去る。
たまたま綸太郎は父に付いてきたのだが、当麻家の確執を見ることになる。
当麻家には長男靖規、次男克樹、そして嫁いで姓の変わった長女味沢真希子が居たが、残された未亡人である佐代は次男の克樹と実の親子であるのにもかかわらず犬猿の仲だった。
式は恙なく終わったが、佐代と克樹は葬式費用などに関する事柄で反目し、佐代が死ぬまで二度と敷居をまたがないという形での絶縁となる。元々絶縁に近かった両者であるので、実質的にはたいした意味はない。
葬式から約半年の十月十七日事件は起こった。

法月綸太郎が大学時代の友人に会いにやってくる。久々に逢って綸太郎が切り出してきたのはカニバリズムに関する問題だった。

  • 切り裂き魔

図書館シリーズその一
綸太郎が訪れる区立図書館には目当ての人物が居る。司書をしている沢田穂波だ。彼女に会うために図書館に通い詰めたため読書量が栽培ほど増えた。そんな図書館でも事件は起こる。穂波に事件の解決を頼まれた綸太郎には嫌も応もない。
その事件とは古今東西のミステリーの本の本文の手前までが切られて無くなっているということだった・・・。

  • 緑の扉は危険

図書館シリーズその二
穂波にデートに誘われたので行ってみる綸太郎。あにはからんや、穂波にとっては仕事の話だったのだ。
道中話を聞くと、故人との生前の約束で個人の所有していた各種奇書稀覯本を図書館に寄贈するという話があったのだが、遺族である妻からは色よい返事が聞けない。なんでも本の持ち主は自殺したのだそうだ。
綸太郎はその妻から夫が生前に『自分がこの世を去る時、<緑の扉>が開かれるだろう』と言っていたことを思い出して、件の「緑の扉」を調べるのだが・・・。

  • 土曜日の本

図書館シリーズその三
綸太郎は「五十円玉二十枚の謎」*1に取りかかっていた。
どうにも話を思いつけない綸太郎であったが、図書館で松浦君と出会う。以前とある事件で知り合ったのだ。その松浦君から女性を紹介され、是非とも謎を解いて欲しいというのだ。彼女の名は倉森詩子。彼女のいう謎とは、バイトをしている書店に五十円玉二十枚を持ってきて千円札に両替してくれという物だった・・・。

  • 過ぎにし薔薇は……

図書館シリーズその四
例によって穂波に図書館まで呼び出された綸太郎。彼女は不審な人物が居るので尾行してくれと言うのだった。後を付いていくとその人物は書籍の天小口*2をしげしげと眺めた後すぐに棚に本を戻していく。綸太郎には蔵書印の有無を確かめている物と思えた。この女性は図書館の図書を古本屋に売っているのかもしれない・・・。跡を付けていくと女性は複数の図書館で同じようにいくつもの本をアトランダムに借りていった。途中で気づかれて撒かれてしまったが、非常に謎だ。事の顛末を話すために戻ってきた綸太郎に穂波は意外な言葉をかける。あの女性の本名も職業も知ってる、と。

感想

法月綸太郎二冊目。前回読んだ『生首に聞いてみろ』ではどうにも合わない感じで、作中キャラクターにも魅力を感じなかった。あれに関して、一番の問題点は中核を担う美術に関する事柄に真っ当な興味をほとんど感じなかったことが問題だったんだろうなぁ、と冷静になって思ったりする。まぁ、向こうの感想でもすでに書いてあるはずだけどね。
さて、この本は長編ではなく短編・中編を集めた内容になってます。うーん短編の方がいいじゃないですか、潔くて。作品の終わり方には手塚治虫の『ブラック・ジャック』のような寂寥感と驚きを秘めていて一冊で読むの止めないで良かったと思えるような内容ですね。ただ、全体に玄人が読む本の雰囲気を出してます。古今東西の作家の書名やらその作中キャラクター、文に至るまで唐突に引用してのけるとか、楽屋落ち的なネタがちりばめられているので、分からない人には分からない、ちょっと厳しい作家ですね。
なお、図書館シリーズで「図書館の自由」というテーマに出会ってしまい、図書館シリーズを書くのを一時中断していたようだ。詳しいことは明日の『法月綸太郎の新冒険』に譲っておきます。

  • 死刑囚パズル

中にクイーンの『Xの悲劇』のトリックばらしがあります。読んでない人は気をつけて。
本書の中で一番長い話ですが、どうにもロジカルに事を運びすぎたようで、綸太郎の口上がくだくだしすぎるように思いました。冗長とも。本格の短編の序章としては決して悪くないものの、いかんせん導入にはきついかなと。一応年代順に並んでいるようなので、仕方ないですな。
正直あまり好きになれない感じです。犯行動機については心情理解はほぼ無理ですな。今時賽の河原もないもんです。

  • 黒衣の家

SFのショートショートに出てきそうな内容。少々ブラックではある物の、こういう感情がダイレクトに伝わってくる作品なんかは好きですね。法月作品内の登場人物にはどうも感情の揺れ幅が少ない者ばかりのようで、黙々と機械的に描写してるようにしか思えなかったんですよね。
ちなみに余談ですが、大型のオウムやらインコやらは人間より長生きします。手乗りサイズのものについてはその限りではありませんが。

ブラック・ジャック』的哀愁を感じた作品。トリックそのものはワンアイデア。冒頭で怪しいと思っていたけれど、やはりそうか・・・と纏まってる作品。珍しく綸太郎の表情が想像できる話ですな。コメディっぽい調子以外では貴重。

  • 切り裂き魔

古本屋とかで経験したことのある人ももしかしたら居るかもしれない話。あくまでも図書館シリーズの足がかりに過ぎませんな。ラノベのノリで書いてそうなので作者の肩の力も抜けていて、キャラクターの描かれ方も楽しんでそうな感覚が伝わってくる。しかしまぁ・・・自身を名探偵とか、本格作家としての位階を底上げしようとかいうのは止めた方がいいんじゃないかなぁ。

  • 緑の扉は危険

ウェルズの『緑の扉』を背景に、突飛なトリックを駆使した話。いや〜中々奇想天外で良かった。くだらないけど、こういう茶目っ気がいいね。

  • 土曜日の本

まぁ、これ単体で読む本じゃないわな。出来れば『五十円玉二十枚の謎』を読んだ方がいいかと。ここまでの楽屋落ちは平井一正以来だろうか。まぁ、あんまり期待しない方が吉。

  • 過ぎにし薔薇は……

『A ROSE IS A ROSE IS A ROSE IS A ROSE』ガートルード・スタインのモットーらしいけど知らないなぁ。これは文中で引用されてます。
まぁ、ちょっとこれはやり過ぎな気もする。この話のネタの事ね。心情をおもんばかるとかそういう方向がちょっと出来すぎてるんだよなぁ。とはいえ、ありそうでなさそうな話なので、意外性はある。
作者は助言を貰ったりしていたのに、上手く活用できなかったとあとがきで嘆いているが、なんともピンと来ない感じだ。読み終わった後にはそれほど悪い気はしなかったので、悲観的になりすぎてる気がしましたよ。

長編は長編で読んだ方が良さそうなんだけど、短編の方が自分に合ってそうなのは確か。やっぱり『密室教室』から辿らんとダメかな。
75点

参考リンク

法月綸太郎の冒険
法月綸太郎の冒険
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法月 綸太郎
講談社 (1995/11)

法月綸太郎の冒険
法月綸太郎の冒険
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法月 綸太郎
講談社 (1992/11)
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*1:そういうミステリーアンソロジーがある

*2:背表紙と相対するのが前小口、上の部分が天小口、下の部分が地小口という