荒俣宏 レックス・ムンディ

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あらすじ

1989年三月、四谷のK病院に実に奇特な患者が入院していた。末期の癌患者でしかも妊娠している患者だ。当然胎児の影響を考えて鎮痛剤や抗ガン剤は一切打てない。それでも意識すら飛ぶ激痛に患者は耐えていた。担当医の高根沢も心を鬼にしてあたるほか無い唯一の患者だったが、ある時病理学教室の野辺田教授より呼び出されることになる。野辺田が言うにはあの患者は癌ではなく、癌を誘発する未知の伝染病の疑いがあるというのだ。事実通常の癌よりも進行スピードが驚異的に速いということは高根沢も感じていた。更に野辺田は畳みかけるように一つの事実を口にする。切除したはずの病変部がシャーレのなかで増殖しているのだという・・・。

その七年後の1996年五月、一人の男が日本に立ち帰っていた。名を青山譲というその男は片目を黒い眼帯で隠し、新宿の街角では見かけないほどのラフでワイルドな格好と風貌をしていた。青山の仕事は発掘すること、つまり考古学なのだが、学会のアウトサイダーであったため実際は盗掘屋に近かった。八年ぶりの日本にほだされて、十年以上前に通った店に立ち寄ったが、店構えは同じであっても中身は別物だった。軽く一杯引っかけた後、バーテンに聞いたホテルへと向かい、自分を呼びつけた人間との邂逅に備えた。
青山の待ち合わせの時間は非常識なことに午前五時二十八分の九段会館平田東助の銅像前を指定した。時間通りに現れたのは「N-43−シオンの使徒」教団を名乗る広報部長宮下不二男。青山がこの場所と時間を指定した理由は、日の出時刻と靖国神社の方位的な建ちかたを見せるためだった。蘊蓄を垂れつつ、相手の用件に入る。宮下が答えたその用件は青山には一等頼まれたくない事柄だった。かつての失った相方との最後の仕事であるレンヌ=ル=シャトーの秘宝の再発掘。青山はその秘宝のあまりの禍々しさに、発見したというのに遺跡ごと爆破してしまったのだった。それをもう一度発掘しろとは法外にもほどがある。第一関わりたくない。だが、金銭面では願ってもない申し出だった。青山は再びフランスへと旅立つことになる。

感想

久々に読んだ荒俣宏。『ワタシnoイエ』以来なのかな。小学生の時には帝都物語を読みあさったりしてた思いでの作家ですが、博物学者としての方向が最近は顕著な気がします。
さて、今から九年ほど前から書かれた本書ですが、物語としては破綻してますね。文体はふらふらしていて、偶に変なところ*1がありますし、蘊蓄を垂れるのは佳いんですが、あまりにも飛躍が激しくてこれじゃ読者を置いてけぼりにしてますし*2、なにより始めのぐいぐい読ませる感覚はすぐに雲散霧消してしまいます。
そう、冗長なんです。
イデアを詰め込めるだけ詰め込んだけれども、読者を無視した独りよがりなだけの本ですなぁ。
正直アイデアについても瀬名秀明の『パラサイトイヴ』の二番煎じだし、シオン修道会を背景に持つと思われるN-43教団の成立は普通に考えればあり得ないし、超自然をテーマに持っているから有性生殖から無性生殖のくだりはまだ許せるにしても、取って付けたような死体とのファックとかアホらしくてやってられない。まぁ、アイデアが二番煎じでも佳いんですが、最低限面白くなくては話にならないですよ。
結局オウムとQ熱リケッチャなんかの時事的な奇病を衒い、更にキリスト教色の濃い話を作り上げたようだけれども、読み物としての構造が読者無視してる段階で終了。ほとんど1/3読んだあたりでの想像がそのまま結末になっちゃうので物語の読書の楽しみと言うより、博物学者のオナニーとしか思えない。斬新なアイデアかもしれないが、それだけで終わるならば論文でも書けばいい。
退屈が好きな人だけ読めばいい本。普通の人はダン・ブラウンの本読んだ方が万倍楽しめるはず。荒俣先生だからもっと楽しめると思ったんだけどなぁ。特に導入部は面白そうな始まり方だったし。
40点。

参考リンク

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*1:所謂三人称型の語りなので、神視点であるべきなんですが、作者が語ってるようにしか思えない箇所とか、一体誰が語ってるんだかって疑問な箇所があったりします

*2:私はついて行けるから佳いんですが