奥田英朗 邪魔

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あらすじ

ハイテックス本城支社が放火され、支社は半焼の憂き目にあう。所轄の九野は、上司の命で身内の内偵という嫌気の刺す仕事から解放されて事件の捜査に乗り出す。ハイテックスは暴力団献金を強制されるという過去を持っていたため、地元の暴力団の報復ではないのか、との憶測が働き、暴力団の周辺などを洗う方向で捜査本部の操作は進んでいった。九野は本庁の服部と組んで会社関係者をボトムアップに聞き込みを始める。第一発見者は火を消そうとして入院しており、ただ幸いなことに両腕の軽度の火傷で済んでいたため証言が取れたが、どうも怪しい。発見者で被害者の氏名は及川茂則、社内では経理を担当していたらしい。及川の下についていた人間から絞り出した話によるとどうやら品物を輸送中に欠損したと届けて、実際の商品をディスカウントショップなどに流し、裏金を作っていたりするという話を得た。及川は怪しいが、確たる証拠無いとあげづらい・・・。九野は上に申し出ることを望んだが、組んでいる服部は暴力団を叩いている四課と敵対しているので、もっと暴力団を叩かせ恥をかかせることを望んでいたので上への報告は見あわせた。結局二人で及川の行確をすることにした。
一方及川茂則の妻、及川恭子は家の大黒柱を失うかもしれないという悪夢が幻に終わったことに安堵していた。彼女は家計を助けるために自ら進んでパートに出ていたが、思わぬことから共産党系団体に上手く絡め取られて店と対立してしまう。
九野、及川夫妻は果たしてどんな形での事件の結末を迎えるのか。

感想

奥田英朗三冊目の本。でも『野球の国』は小説じゃなくてエッセイなんで、実質二冊目ですかね。2002年版「このミステリーがすごい!」第2位と第4回大藪春彦賞受賞という冠持ち。
メインのストーリー進行の編成が変わってる本ですねぇ。被疑者・追跡者、そして被疑者の相方ですか*1。普通は追跡者の相方とかなんですけど、ここら辺が普通の追う者と追われる者のお話に終わらない佳いところですかね。でもちょっとがちゃがちゃしてるので導入部の主格変更部分で読み始めた人は戸惑うかもしれませんが。
あーそうそう、『イン・ザ・プール』と『空中ブランコ』読んで奥田英朗に興味持った人は注意。本書はああいう不思議系爆笑本とは明らかに袂を分かっているシリアス本ですので、誤解して読んで趣向が違うのを怒っても仕方ないですよ。
刑事物にありがちな暗い展開が基調なのでそれを承知して読んだ方が無難ですかね。ちなみに主人公は精神的に来ていて多分これが『イン・ザ・プール』を書くきっかけになったんじゃないかな、と予想。人間何がどうなるか分からんもんですな。
なんかこの本読んだ人の場合、前作にあたる『最悪』と読み比べてる人が多いみたいですね。そして結果として『最悪』の方が評価高いらしい。私はまだ読んでないんですが、気になる方は交互に読んでみると良いかもしれない。
で、本書感想。表題の「邪魔」ってのが延々付きまといます。誰にとって誰が邪魔なのか、ってことが始終頭をよぎるわけです。ここまで複合的に意味を持つ表題ってのは特異ではあるものの、ちょっと鬱陶しいかも。
キャラクターは十人並み、ストーリー消化はちょっと微妙、話を纏めようと駆け足でラスト数十ページにどうやって収めるのかなと思いきや、唐突に事件の終了を告げる内容が語られることになり話はお終いとなる。希望を持たせる形での〆なんだろうけど、この終わり方はしっくりこないなぁ。事後処理的でちょっといや。なんせ自分でご破算にする当たりとか理性的ではないわけだしね。追いつめられている人の極限を表す一種の手段として見ても、極度の強迫観念に支配される状態でもない限りあそこまではやらんと思うけどなぁ。まぁ、先行き不透明ってのが延々続き、定量的な既存の小説に見られない筋を構築してるあたり内容的に濃い。でもなにか切迫感というか感情的になる原動力が足らない。故に物足りない感じが付きまとってしまう。なんかバームクーヘンみたいですな。しっかり詰まってるのに肝心の真ん中が穴空いてるとかね。ここらへんは何が切っ掛けになるか分からないという偶然の事件性を重んじてるのかもしれない。世の中得てしてそんなもんなんだろうけど、だったらもっと考える習慣を持って欲しいなぁと思う今日この頃。小説としては偶然から至る関係性の事件というわけだからありなんだろうけど、頓着せずに俯瞰的に見ると馬鹿そのものでしかないという間抜けな話ではある。「現実は小説よりも奇なり」って言葉もあることだから、現実にはもっとトホホな話も多いんでしょうな。でも、もう少し何とかなったんじゃないかなぁ、と変な希望を持たせる本ではある。纏める気が元々無かったのかもしれんけどね。日常の延長線上でしかないからエンターテイメントとして面白いかというとちょっと微妙。そこがいい人も居るとは思うけどね。
75点。
もう少し見せ場が欲しかったのと、ラスト付近をもっときちんと結末を付けて欲しかった。九野と義母の話も結局結末付かなかったしなぁ・・・。

蛇足:やっぱり警察のことカイシャっていう場合もあるんですな。
どうでもいいけど、スーパーの会社社長が伊良部か作者に思えてしょうがない。ここに原点がありそうな予感。共産党になんか含むところでもあるんかな。奴らは甘い言葉ですり寄って、結局は自分たちのためにしか動かないから言動不一致ですし、どうのこうの言われてもしょうがないんですがね。
ああそうそう、暴力団の締め付けよりも今やるべきは海外から来てるマフィアへの対処を厳しくする方が先なんじゃないかなぁ。台湾・北京・上海・香港・マカオなど華僑系マフィアの多いこと多いこと。法的に雁字搦めにされていないことと、マル暴みたいな警察が関与する点が少ないのでやりたい放題やってるみたいだし、きちんと取り締まりましょうや。ピッキング団とか組織してるケースも多いし、傷害を加えるパターンも多いし、実質暴力団締め付けなんかよりもっと率先してやるべき事柄な気がするわけですよ。

参考リンク

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邪魔
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*1:本当はもう一つあるけどあえて割愛