西尾維新 クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識

ASIN:4061822500

あらすじ

鴉の濡れ羽島から帰還して少し立った後、大学でのクラスメートに誘われて、見知らぬ人の誕生日を祝うこととなったいーちゃん。そもそも誘われた相手の名前すらも覚えてない戯れ言遣いだったが、いつものことだ。流されるままにOKして会場に着く。誕生会には誘ってくれた葵井巫女子、ヤンキー上がりの姉御の貴宮むいみ、軽薄そうな面の宇佐見秋春、そして本日のメインイベンター江本智恵がいた。智恵のマンションの部屋でしばらく談笑した後別れたが、翌日巫女子が智恵のうちに渡しそびれた誕生日プレゼントを渡しに行くと、対象はすでに事切れた後だった。

なお余談だが、現場である京都では人間失格こと零崎人識が人知れず殺人鬼の本文を果たしていたのだった。偶発的に遭遇した人間失格と戯れ言遣いの行方やいかに!

感想

戯れ言シリーズ第二巻、漸く読むことが出来ました。ほんと図書館から本盗むのは勘弁してください。
さて、前回は絶海の孤島での密室トリック物と中々に瀟洒な物を書いていた筆者ですが、本書では唐突に生活感のある日常を描くことにしたようです。前回のようなネタは幾分抑え気味なっています。流石に編集部からのお達しでもあったんですかねぇ。時事ネタの風化は混乱を招き、後世には残りにくいことですし。
本書を読んで感じたのは、混じりけなしの『少女漫画』を書こうとしたのかな、ってな感想でした。より直接的に言うならばラブ推理物*1ってな感じですかね。壊れちゃってると自覚してる戯れ言使いに恋の告白たぁ酔狂なもんです。結果事態の泥沼化ばかりが先行してしまいなんか収拾を付けるのが意味無くなっていると言わんばかりの展開。ま、戯れ言シリーズなわけだし仕方ないか。とはいえ、玖渚に回帰するのが予定調和になっているので、そこまでの話の過程にそって語られているかのよう。戯れ言シリーズは本質的に受動的ないーちゃんと能動的な哀川潤が主人公のようなのでちょっと先行き不安ではある。
にしても主人公。よっぽど狂言回しの役しかないようで、活躍は基本的になし。ER3の出身なんだからなんか技能はないのかねぇ・・・。のび太の如きやられっぷりはどうだろう。手が壊れても嘘をつき続けるあたりとかは、本領発揮だけれどもそんなときにだけ発揮してどうするんだか。それ以外ではほんとに役立たず。やっぱり本名を呼ばせると人が壊れるという事柄だけが突出してるんだろうか。
レトリック面では奇抜さが足らなかったなぁ。その点では前作に比べてパワーダウン。ただ、奇妙な言い回しについては、許容範囲なのでok。
にしても推理物としてはあんまりスマートではないわなぁ。読者の目を意識するあたりは非常に巧妙だけれども、プリミティブな要素である動機面については補強要素が欲しいところ。日本人は、特に若い世代については、強烈な意志が介在する場合に「死」を入れて強調するが、まさかほんとに死んだり殺したりされたらたまったもんではないですな。なんとも落としどころが難しい割に評価されにくそうな本を書いたもんですわ。まったく『言霊小説』かってーの。否定し、肯定する嘘つきならではの狂言回しが八面六臂に動くものの、居なかったら無かったという犯行の動機からして、友の部屋に二人でラブラブしてろっていうのが結論でしょうかねぇ。爛れた青春を送っても誰も文句言いませんしw。
やっぱりこの作家の資質からして恋愛要素の含まれたドロドロ必須の内容は、文の脈絡には合わないかと。爽快感に似た感覚は覚えるものの、激情や昏い感情の起伏、焦燥感みたいなものは感じなかったのですよ。やはりそこは0と1を等価に語る戯れ言遣い。揺れ幅小さいわけで、それが読者にも伝わっているとでも解釈するのが一番なんでしょうな*2。ま、次の次に期待して75点。*3
蛇足:「x/y」を水平方向に反転、270度回転させると「4/20」と見えるとか何とか。丁度誕生日で記述の中に忘れっぽい戯れ言使いが忘れないようにしてある。そして意味があるように思わせている。
あおいいみここの「おいい」と「みここ」は同じく水平方向に反転、90度回転させると「おいい」は「みここ」に、「みここ」は「おいい」と読める。楽しいギミックだぁね。

参考リンク

クビシメロマンチスト―人間失格・零崎人識
西尾 維新
講談社 (2002/05)
売り上げランキング: 8,970

*1:造語、恋愛推理物でも可

*2:かなり強引で、相当に好意的ですなぁ

*3:次の本はもう読んで期待出来る内容ではないため