恩田陸 六番目の小夜子

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あらすじ

県下一のとある進学校に珍しく転校生がやってくる。創立以来二回目快挙の編入を遂げた者、その名を津村小夜子という。一方この学校には十五年前から始まったらしい奇妙な伝統がある。その伝統の当事者の名前もサヨコと呼ばれるので実に奇遇なことだが一致している。
その伝統はサヨコと呼ばれる卒業する上級生から渡される鍵が繋いでいる。ただ、その鍵は三年ごとにしか使われず、渡される人物の大半はただ、次へと繋ぐだけだ。今年はその三年ごとの当たり年。とは言え、サヨコに選ばれた者には三つの道がある。サヨコであることを周りに示さないか、かつてのサヨコを踏襲するか、あたらしいサヨコの振る舞いをするかだ。サヨコと呼ばれる存在には他人には悟られてはいけないという縛りが存在するが、やることは一つだけ。学園祭での演劇の原稿を書くことだ。そう、サヨコとは昔の学生の学園祭用隠し球演劇の演出者ということなのだが、年月が経つうちに怪談じみてしまった伝統なのだった。
だが、今年は本来一人しかいないはずのサヨコが二人になるという異常事態が発生するのだった。

感想

第三回日本ファンタジーノベル大賞にノミネートも落選した本です。早々に絶版になったらしく、初期では幻の本扱いされてたそうですが、現在では簡単にゲットできます。
しかし、ん〜なんだろう、この残尿感は。どうやら加門七海みたいな怪しい雰囲気だけ振りまいていって寸止めというホラー的なファンタジーノベルのようですな。期待感を煽るだけ煽って引っ張った挙げ句、なんにも起こらないという点については、ミステリーとして読むにしてもなんか中途半端だし、青春小説っていう位置付けが一番しっくり来るのかな。
エッセンスだけ残してそれでも日常は続いていく風味で、背反するように伝統は伝統で途絶えない。変わる物と変わらない物を備えた話だが、正直だから何?って云うのが先に立ってしまい、中身が伴わないのが苦痛な本ではある。この物足りなさが好きという奇特な人は兎も角、合わない人は我慢するしかなさそう。この寸止め感は後の「黒と茶の幻想」にも繋がっているが、この本にはあれほどのくどさは無い。むしろ語りや説明が簡潔ですがすがしいほどだ。だが、結果としてキャラクターが薄っぺらくなってしまっている。
さて、どうしても気になることがある。ファンタジーと付ければ因果関係が不明な事柄が起こっても佳いのだろうか?ということだ。非予定調和であるという点は有るのかもしれない。しかし、単に演出としてのみ無意味に超常現象を登場させているとしか思えない。
視野を移動させてみると、もしかしたら在る意味で読者に媚びないストイックな作品なのかもしれない。更に佳いところ探しをすると噂の拡散の仕方やいじり方が上手い事が見つかる。一番評価すべきは語りのノーマルさ、会話のキャッチボールの普通さ加減で読ませるところだろうか。ただ、それぐらいまでだろう。それ以外では激賞されるほどの内容はないと思う。
解説では小難しくなんとか無理矢理感漂う内容で褒めようとがんばっていたが、正直成功はしていない。あくまで恩田陸の出発点としてのみ読むのであれば問題は無いと思う。
40点。
青春小説に関してはそこまで好みじゃないので、辛く云ってみる。無理して読む必要ない本だしね。何より最初と最後の意味が分からん。天意にするなぞ逃げでしかないだろうに。

蛇足:夜のピクニックが延々図書館から回ってきません・・・。いつになったら読めるんだろ。

引用

彼らの足元には、やや水量を増したそっけない川が流れている。そのせいか、彼らは空から見ると一本の細い橋に繋がれた島に見えた。彼らはいつもその場所にいて、永い夢を見続けている小さな要塞であり、帝国であった。
彼らはその場所にうずくまり、『彼女』を待っているのだ。
ずっと前から。そして、今も。
顔も知らず、名前も知らない、まだ見ぬ『彼女』を。

恩田陸 六番目の小夜子より

参考リンク

六番目の小夜子
六番目の小夜子
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恩田 陸
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