米澤穂信 さよなら妖精

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あらすじ

主人公の守屋路行は今から一年と二ヶ月前にこの地を去った少女を見つけ出そうと、細い記憶の糸を辿ろうとする。当時同じように過ごしていた大刀洗、文原からは色よい返事は得られなかった。それでも守屋は白川と探す・・・マーヤの国を。
一九九一年四月二十三日。守屋は大刀洗ことセンドーと一緒に下校していた。雨降りの中潰れた写真屋の軒先で雨宿りしている白人の少女を守屋は放っておけなかった。センドーに二人で一本の傘で帰ろうといい、その白人の少女に声をかける。ひとしきり英語で声をかけてみるが、相手は困惑するばかりで、大刀洗が日本語で応答すると日本語がかえって来るという詐欺まがいな状況になり、今度はこちらが当惑してしまう。彼女の故郷はユーゴスラビアで英語は全くダメだそうだ。道ばたでは何なので、喫茶店に移って詳しく話を聞いてみると、元々世話になるはずだった家に行ったらもはや無人で主人は死んだ後だったらしい。家族も居なかったそうなので行き場が無くなったとのことだ。父親に連れてこられたらしいが、二ヶ月の間、父を頼ることは出来ないときっぱりという少女マーヤをなんとか助けたいとお節介の虫がムズムズと守屋を貫いていった。そこで老舗の旅館を経営している白川に話が及び、電話で何とかしてもらえないか頼んでみた。頼みは快諾されることになり、マーヤとの短い春から夏の季節が始まった。

感想

実にさわやかなお話ですなぁ。題に妖精とか付いてるのでファンタジックな内容なのかと、勘ぐったんですが、単に形容なだけで特にこれと言って意味はありませんな。
初読みの作家さんですが、実にどっしりした文章を書く人ですなぁ。哲学的思索が好きなようですが、この本とはそぐわない印象を持ちました。なんていうか、日常会話ではあり得ない堅さをもっているというか、ちょっと作為的すぎる感じがしましたね。文章そのものは読みやすいんですが、所々含意を噛みしめて読まなければならない箇所があるため、するりとは入りづらいです。
個人的には固有の毒が抜けて、論理的に文を書く乙一って感じが適当な気がします。
ストーリー的には真っ直球の青春小説です。作中表現を拝借すると『だだ甘』とでもいえば佳いんですかね。一応ミステリフロンティアから出てるのでジャンル的にはミステリと言いたいところですが、これはミステリーの範疇には入れたくないですねぇ。だって表題で答えが出ちゃってますもの。故に謎解きを必死にすればするほど滑稽で仕方ないです。題で失敗してる惜しい作品ですねぇ。この瑕疵さえなければエピローグでもっと深い感情の波を感じられたんでしょうが、どうしても予定調和としての部分がクローズアップされてしまい、素直には悲しめませんでした。
ま、アイデアとしては最後のびっくりどっきり以外は、「外から見た日本」とかありきたりなテーマだったので、駄作つかまされたかなぁとか思いましたが、最後まで読み終えればすっきりしますね。ただ、ちょっと日常会話として出てこないだろう知識の面とか、マーヤの日本語理解能力の程度が高すぎることとか気になる点も有りますが、出来るだけ水に流してあげてくださいな。リアリティは高くないですけど、ユーモアのセンスはありますしね。
この小説で言いたいのはおそらく大刀洗萌えってことでしょうw
ツンデレを純文風に書くとこうなりますよーっていう例のような気がします。
すがすがしいけどちょっと物足りなかったなぁと、65点。

参考リンク

さよなら妖精
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