西尾維新 クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い

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あらすじ

絶海の孤島の洋館に集いたる天才達。
この洋館の主、赤神イリアは天才が好きなのだという。故に才能ある人物を招く。屋敷にはメイド長の班田玲、千賀あかり、ひかり、てる子の三つ子のメイド達が居り、世話を焼いていた。

招かれたる天才は五人。
一人は玖渚友。機械一般及びソフトウェアについての天才。
一人は伊吹かなみ。足が不自由で盲者であったが、視力が回復して後画家となる。美術の天才。
一人は佐代野弥生。人より嗅覚触覚が発達していることを生かして絶品料理を作る天才。
一人は園山赤音。ER3システムという象牙の塔の頂点に位置する七愚人の一人。大統合全一理論研究者。世界で一番解答に近い人物と云える天才。
一人は姫名真姫。職業は占い師だが、ESP能力を持つ人物。天才占い師。
その他に希人に混ざった二名。元は伊吹かなみの美術の師匠、現在は介助者である逆木深夜。そして同じく玖渚友の介助人としておまけでくっついてきた主人公の"ぼく"*1
一週間の予定で友と来た主人公だったが、滞在の途中で殺人事件が起こる。偶然に地震が起きたその次の朝に被害者は首を切り落とされていた。
天才ばかりの中で事件は解決するのだろうか?

感想

読むのは三冊目、書かれたのは一番最初の処女作の本書。漸く読めました。図書館から本を盗むのは辞めてほしいですな。なお、第二十三回メフィスト賞受賞作でもあります。
さて、感想です。
この作品の中では傍点は殆ど排されているようですねぇ。文中で振られてそうな箇所が殆どスルーなのにちょっとがっかり。
しかしまぁ、レトリック・虚仮威しが相変わらず好きな人ですな。レトリックに拘泥しまくる姿勢は京極に似てるんですが、もっと明るいので清涼員流水っぽいのかなぁ。でも流水と違って反ミステリーなわけじゃないんで、安心して読めます。処女作なんでここから変わっていったんでしょうな。
ものの本によると処女作にはその作家のすべてが詰まってるとか言いますが、これで全部とはちょっと言い難いかと。変容を遂げそうな予感がしますよ。かなりまともな小説も筆者は書けると思うんですが、好き嫌いで多分書かないんでしょうな。
ポップアートさながらの極彩色の世界観とキャラクター。けばけばしくて毒々しいネオンサインみたい。あ、別にイラストのこと言ってるわけじゃないんですがね。確かにイラストもポップですけどあくまでも文章のことなんで。なお、個人的な好みでは玖渚友がキャラが立ってて好きですな。
そんな派手派手な舞台を文章に書き起こしている筆者。中々どうして博学ですわ。でもAIのアルゴリズムとして現在も進行中のノイマンとモルゲンシュテルンのゲーム理論をネタにしても殆どの人がついてこれないかと・・・。囚人のジレンマとかゼロ・サム・ゲームとか。あ、社会的ジレンマは出てこなかったっけ?
あと、ネタ仕込みが同年代向けなのが露骨ですな。ネタと口語の絶妙さ加減がラノベと化してる原因なんでしょうけど、楽しんで書いてそうな印象を受けますわ。こりゃ、時代がずれてると「なんだこれ?」になるでしょうけど面白いのでOK。更にさらっと文章で立て板に水の解説してたと思ったら、読者にしっかり毒も吐く、主人公は主体性がない云々となってるけど、読者兼作者の投影なんですな。一人ぼけ一人突っ込みを延々と続ける手法は人によって鼻につきそうですけど、初めっからことわりを入れてるので、読んだ方が悪いという人の悪い趣向w
「作品を裁くな」って批判を先に封じる先手を作品中に閉じこめるなんて道化師そのものですなぁ。ま、狂言回しなんぞ道化師と同じですが。戯言遣い=ピエロでいいかと。
でもまぁ、81年生まれの同年代or±3年ぐらいの人間にだけ特化された小説を書くのはどうかとw
他のまじめなネタとかでそれなりにバランスは取ってますが、漫画やアニメ、ゲームをネタにふんだんに仕込んでます。でも風化しちゃいますよねぇ・・・。私としては面白いからいいんですがね。丁度EVAショックを生き残った*2世代としてはこういう趣向は文学とは切り離した世界でも丁度ツボです。
ま、ネタ話はおいておくとして、本編解説へ。
ちょっと驚いたんですが、かなりまともなミステリでした。孤島に洋館、密室殺人に大富豪の係累とくりゃ舞台配置としてはゴシックミステリーそのものですね。でもまぁ、そんな本格臭い内容にしっかりと穴を空けてるんでこりゃ変格物ですかな。変格だと思う理由はただ一つ、作中に超能力が出てくるからですが・・・これ、ミスリードの一つだと思うんで注意してください。上手く引っかけられました。ま、ネタは随分と使い古された物なので、ミステリーをよく読む人にはそこまで意外な結末ではないと思います。あんまり本格を読んでないんで先読みできずに読めて正直面白かったですがね。
そうそう、プロローグ部は最後に取っておいても良いかもしれません。レトリックでごっちゃごちゃにした韻文を最初に読んでも煙に巻かれるのがオチです。導入が上手い作家なので最後まで読まなくても支障はないですしね。
最後にイラストについて。竹さんなる人が書いてるんですが、どうしても安田朗に見えてしょうがない今日この頃。デフォルメは中性的と言うより女性的な丸っこい味で文章に合ってますな。ただ、裏表紙のネタに騙されたので、もうちょっと配慮して貰いたかったなぁ。ネタバレかと思ったよ。題名でうまく一つネタバレしておいて、もう一つは秘密*3な佳い按配になってるのだから余計な気を回す事になるダイレクトな描写はちょっとねぇ。
ま、(ラノベとしては)エンターテイメントしてるって事で楽しめたので80点。
ただ、賞味期限と楽しめる人を選ぶという難はあるかと思いますが。

余談:タイムボカンのアナロジーはいつまで通用するんだろうか・・・。
デジャブーの反対のジャメブ(Jamais Vu)、日本語で未視感なんて普通知らないって・・・。
あと、誰かP.103のパーンテナ島について知ってる方教えてくださいorz

参考リンク

クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い
西尾 維新
講談社 (2002/02)
売り上げランキング: 5,056

*1:いーちゃんと呼称されるが、正式な姓名は不明

*2:死んだ人間は居ないとは思うけどね

*3:人によっては直感で秘密じゃ無くなってるかもしれないが